立ち止まって振り返って 6
いつもよりも遅くなったおやつの時間になって水野が草刈り部隊を呼び集めた。
そこには綾人の姿は既になく
「飯田さん綾っちは?」
「満足いただけたようでお昼寝にいかれました」
パイとプディングを切り分けてサーブする横でオリオールが紅茶とコーヒーを入れてくれる。ちなみにオリオールと飯田は既におやつを食べた後だ。
仕方がない。
何やら綾人が泣きながらキッチンにやって来たので話しを聞くためにも手を止めて一緒におやつを食べる、それがマナーだ。いや、大人としての対応だ。
綾人は雇用主だ。拗ねると変に拗らせる癖ももっている。拗ねなくても拗らせるが話しを聞いて欲しいと言う事をアピールしている以上話しを聞く、ただそれだけ。既におやつの時間を遅らせると言う地味な嫌がらせは既にここでの生活のリズムが出来ている園田達には遅れるおやつの時間が待ち遠しく、そして小腹がすいて楽しみなおやつに気もそぞろと言う所。本当に地味だが嫌らしい嫌がらせださすが綾っちと言わざるを得ない植田と水野だった。
「じゃあ綾っちは今部屋?」
「晩ご飯にはお部屋の方に呼びに来てと言っていたのでそうでしょう」
「うわー、嫌な所に潜り込んだな」
植田の意見に水野も頷くも何でと言う様に小首を傾げるケリー達と陸斗。
葉山下田はそこまで綾人の部屋に思い入れもないし、陸斗は尊敬する綾人の自室を嫌な所と言う事もない。
だけど植田と水野は綾人の巣となる山の家の自室には専門学校に通っていた時代に高校の勉強とは違う勉強の厳しさをした場所だ。
綾っちの頭脳をフルに生かす為に用意された六台のPCと補助するタブレット達。
見たことはないが金曜日に一週間分仕事を纏めてすると先生は言っていたが、そもそも人間なので複数PCがあっても処理できる数は一つに決まっている。なのにだ。五台のPCを自分の目の代わりに、そして六台目のPCでいろいろ企んでいるわけだ。そして俺も水野もその綾っちの六台目のPCを一度触らせてもらった事がある。今時のPCでもサクサク進むストレスのなさ。ウィンドウを幾つも開けてもノンストレス。こんなPC欲しい。何て型番をググればそれなりにいいお値段をしている上に随分いじくっているようで、工作とか苦手な癖に大好きな分野については意地でもクリアする綾っち素敵と現実逃避しながらだったらやれよと勇気があればつっこんでやりたい。
勇気があっても間違ってもやっちゃいけない奴だけどね。
そんな事で俺と水野は綾っちの本気の事情を知っているし、五台の情報を処理して六台目のPCなんて目にせずに的確に打ち込んでいく指のえぐさは一度見ただけで悪夢となって思い出せる最悪だ。ここまで俺達を育てたいのか?まさかね?なんて思ったもののさすがにそこまでは強要させられなかったが、一度でも見てしまえば恐怖は止まらない。
「俺綾っちの部屋行くの嫌っすよ」
「安心してください。俺が呼びに行きますので」
一応あの部屋の過酷さを知っているのか飯田さんは安心してくださいと言う。
ああ飯田さんから見てもアレはおかしいと思っているのかと安心してしまうが……
「アヤトの部屋?一度見てみたいな」
「ああ、これだけの城を持ってるのだから自室の内装とかすごく興味がある」
「さりげなくカップとかこだわり抜いてるから興味は尽きないな」
「何よりアヤトの部屋のほんのラベルが気になる。きっと珍しい本をたくさん置いてあるんだろうな」
「アヤトの勉強している環境、是非とも見てみたい」
綾っちの事を何も知らない新人達はそう夢見る様に歌う様子を俺達はそっと視線をそらす。
綾っちの部屋何てPCのケーブルだらけで本なんて本部屋作ったから一冊もないし、骨董市で買って来たわけのわからない物が本棚を占領していて机の上は勉強ではなくおやつを食べる場所になっている。内装何てほとんど弄ってないし、古い家具が幾つかと大きなベットがどんとあるだけの綾人にとっての機能性しかない部屋だ。
美しく手入れされた庭と広々とした田舎の古城とはかけ離れた残念な仕上がりの部屋だが、ある意味風格ある古民家に一室だけ違和感しかない綾人の部屋を思えば和風から洋風に変わっただけで大して変化はない。
「あの残念な部屋見せたくないなぁ」
ぼやく飯田さんに俺達も盛大に頷くのだった。




