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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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朱に交われば赤くなると言う元の朱は誰ぞと問えば白い目で見られる理不尽知ってるか? 7

 城の生活はケリー達にとって想像を超えた物だった。

 まは

「「おっはよ―!今日も良い朝!ご飯の前に一仕事しようぜ!」」

 昨日知り合ったばかりの植田と水野コンビが二階に移動して来た新人たちをドアのノックもなく起こす事から始まる時間は朝の六時少し前。

 まだ眠いと言う顔に向かっての元気なあいさつ。植田水野曰く烏骨鶏の代わりのつもりらしい。止めてくれ。ホームシックが加速すると綾人はぼやくもイギリスのアパートではどこからか集まるハトを餌付けしている途中というのは内緒の話だ。

「六時から二時間ほど仕事をするから着替えて玄関に集合!」

「因みに綾っちは既に仕事に取り掛かってる。

 働かざるもの食うべからずだからオリオールの美味しい朝食を食べたい奴はしっかりと起きろよ」

 昨夜一晩で胃袋を掴まれてしまった新人達は一人だけ食べ損ねるのは嫌だと言う様に植田達同様一室に纏められたベットだらけの部屋のベットから転がり落ちる様にベットを脱出して着替えて寝癖が酷いまま玄関へとたどり着いた。

 既に一面の芝生が広がる庭では植田だったか眼鏡の奴がさっきまで一緒の部屋にいたと思っていたのに自動芝刈り機のエンジンを拭かせて爆走している。

「あれ楽しそうですね」

「ああ、ロマンだよな。これだけ広い庭なら走りがいがあるだろうな」

 純粋な好奇心のジェムと思わずどんなロマンだよとつっこみたくなることをほざくクリフォードから羨望を一身に浴びる植田は相変わらず体力なしとみなされ自動芝刈り機担当となっている。そんな脇の小道から

「起きれたか」

 既に服に沢山の葉っぱを付けた綾人が陸斗と下田、葉山を連れて大量に打ち落とした枝をネコの上に積んでやって来た。

 陸斗にとりあえずごみを捨ててこいと命じれば下田と葉山もブルーシートの上に山積みになる枝葉を引き摺りながら運んでいくのを見送る。

 つばの大きな麦わら帽子を取ってマフラーのように首に巻くタオルで額にはりつく汗をぬぐいながら

「植田!そっちは任せた。水野は一緒に裏の畑に行くぞ!」

「「うぃーっす!!」」

 体育会系でもない二人の良い返事を聞きながら城の中をショートカットして裏庭へと出る。

 昨日ルームツアーで知っていたとはいえ敷地面積で騙されそうになる物の小さな小学校程度の広さは余裕にある建物を回り込むのは大変だよなとこのショートカットコースをありがたく思っていればどこからか良い匂い。そんなの決まっていると言う様に鼻をひくひくとしてしまっていれば

「おはようございます。ご飯でまだ時間があるのでもう少しお待ちください」

 飯田だった。

 フランス語ほどではないがそれなりに流暢に英語をしゃべる理由はただいま城内英語オンリーと言う叶野と柊の為の特別訓練の場となっていた。勿論陸斗達も英語オンリーで頑張っている。

 因みにこのフランス旅行の絶対条件が英語オンリーと言う特殊条件があっての物。川上や山田が断念したのはそれが理由ではないはずだ。上島ブラザーズと山の家の留守番役を買って出た故の留守番だ。名誉の為に何度だっていう。一樹と幸治を連れて綾人の家の留守を先生一人でさせないと為の対策だ。仕事で来れない圭斗達では制御できない高山のお世話役に何人かが必須で、折角綺麗に生まれ変わった麓の家をまたあんな汚家にしない為の苦肉の策だ。

 全員があんな家の掃除なんて二度と嫌だと心が一致した思いはバイト代が出ると聞いても躊躇いは半端ない。なぜならあの時のようにお金を得る手段が限定されていた年頃ではないのだ。要は色々な都合で行けなかった組なのだが……

 フランス行き組に与えられた新たミッションは自分達よりはるかに格上の相手に英語を教えると言う超難易度が待ち構えていたのだった。

 ただし、綾人と暮し、かなりムリゲーにも近い勉強会をクリアしたこの面子は英会話ぐらいではビビらないくらいには鍛え上げられている。北部の石岡の為にみんなで乗り越えた英語力は英文を前に出されてもびくともしないくらいの特殊単語もクリアをし、綾人が覚えたポッシュな英語を自然に学ぶと言う特殊環境を当然としていたので誰も気が付く前に馴染んでいた。ある種下手に知識がなかったのが幸いしたのではないが、教えられた事を素直に学ぶしかない状況も悲しい位に役に立ったと言うわけだ。

 そう。

 今回の叶野と柊の問題はこのクイーンズイングリッシュなのだ。

 叶野には姉が一人いる。既に結婚して嫁いでしまった為に滅多に会う事が無くなってしまったが、姉がアメリカに留学した事でいつか自分も留学をしたい、そんな夢から学んだ英語はアメリカンな英語だった。

 両親も姉と同じように留学したいのね。しかたがないわね。なんて頑張る息子に最大限応援をしてくれた。

 だけど中学に上がる頃叶野の周囲が少々変って来た。

 いまだ健在な祖父が事業を拡大し、素晴らしい事に成功したのだ。

 となると付き合いも変わり、大した歴史なんてない家なのに分家からいずれ秘書にとか与えられるようになった。

 それが柊の立場だが、叶野は良き遠縁の親戚だと思っていても柊の家族はそうとは思わず周囲の随分な扱いを叶野も悔しく思っていた。

 だけど柊はそう言ったように育てられたので正直自分よりも優秀なのを嫌と言うほど理解してしまい、だったら嫌がらせではないが柊のレベルまで自分のレベルを死ぬ気で上げて……

 誰にも文句を言わせないと言うように二人そろって俺達優秀なんだぜとアピールする為にイギリスまで留学をすると言う事をしてみせたのだ。

 祖父は喜び柊の分の留学の費用まで用意して送り出してくれた、までは良かったが…… 

 もともと留学するならアメリカと言う様に同じ英語でも言葉のイントネーションの壁を甘く見ていただけにここにきて苦労していた所で綾人と出会ったのだ。

 正直同じ留学組の日本人と交流会で交流は持つ物のみんな余裕はなかった。一見留学を満喫しているように見えても生活がカツカツだったり宿題に追われて身動きとれてなかったり、この大学に来たと言うステイタスで満足してる奴もいる。当然言葉の壁にぶつ当っている者もいる。叶野は柊の為にも、人を見下しがちな祖父にぎゃふんと言わせるために頑張り続けなければいけなく、言葉の壁も合わせてかなり精神的に参っていた。

 その中で何で今頃留学してるの?しかもそれまでフリーターだったのに?よくわからない履歴だがそいつの噂は瞬く間にカレッジ中に広がった。

 曰く今学期の最優秀だとか。

 優秀な人物と仲良くしておきたいと言う傾向の強いこの学校で瞬く間に有名人となった綾人と是非とも仲良くなりたかったのだが……

 

「あの、話を良いですか?」

「初対面なのに話って何?」

 

 折角の交流会でのこの塩対応。

 学年の垣根を越えて交流を深めて繋がりを持とうと言う名目の会のはずなのに誰とも交流を持とうとしない綾人に少し泣きたくなった。





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