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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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朱に交われば赤くなると言う元の朱は誰ぞと問えば白い目で見られる理不尽知ってるか? 5

「ただいまー!オリオール!綾人!陸斗!帰って来たよー!」

「オリヴィエおかえり」

 言えばすっかり俺の身長を抜いた若きイケメンバイオリン奏者は俺を見つけては飛びついて来てぎゅうぎゅうと抱きしめてくれた。という過去の順番がオリヴィエの順位付けか。オリオールが一番なのは餌係だから仕方がないとしても陸斗の順位が俺の次とは…… これが友情と言う奴か。と言うか何気にバイオリンのケースが当たって痛いんだけど死してなお名を残すジョルジュよこれは嫌がらせですか?だけどそこは俺も大人だ。ぐっと痛みを我慢して俺もハグし返す挨拶は俺がこの城に滞在する間の風物詩。

 目指せオリヴィエの兄貴の座!

 なので暑苦しい位ぎゅうぎゅう抱きしめて持ち上げてぐるぐると回すまでがお約束。俺より背が高くなってきたからやりにくい。体重?そこは俺が頑張ればいいだけだ…… いつまで頑張れるかな…… と少し先行きが不安になった所で

「アヤト、帰ったぞ。今日は新しいバイトを紹介してくれると聞いたが?」

「マイヤーもお疲れ様。

 今日から暫く人がたくさん増えるから是非とも名前はともかく顔を覚えてくださいね」

「何、我々なら顔よりも声で覚えるから安心すると良い」

「お願いです。顔も覚えてください」

 どんなピンポイントな覚え方だと呆れればマイヤーは楽しそうに笑いながら

「こう見えても知り合いが多いんだ。仕事優先するとその他はこの城の住人ぐらいがやっとなのだよ」

「また手抜きを……」

 指揮者として全譜を読み込んであの人数をまとめ上げるカリスマだけにそれ以外は覚える気はないよと言う遠回しな言い方なのでそこはマイヤーの意志を優先させる。

「さて、今日は紹介したい人が多いんだ。

 まずはカレッジの仲間を紹介するよ」

 何て夕食の準備を手伝う彼らを呼び寄せて紹介をする。 

 人間関係がちゃんとできたんだと言う関心はともかく叶野と柊と言う同国の人間にまたこんな遠い所で出会うなんてと笑い、マイヤーとオリヴィエを紹介された方は固まっていた。

 それはそうだ。

 この二人が揃えばあの音楽室とバイオリンの持ち主が間違いなく誰かが分り、そして俺の怒った理由の正当性を理解して身動き取れないでいた。

 そして至高の音楽を奏でるオリヴィエとマイヤーはこいつ等の様子が変な事に気が付いてどうしたと問う視線なので先に俺からお詫びをする。

「オリヴィエ、申し訳ない話なんだが少し聞いてくれるか?」

「何かあったの?」

 成長期を迎えてすっかりとアイドル顔負けの、オリオールの食育のおかげで吹き出物一つない健康な美肌を持つようになったオリヴィエは少し怪訝な顔をしながらも並べられた料理が待ちきれないとつまみ食いをしている。

 モグモグし続ける様子を誰も止めないのはここがプライベートの場所で、こんな話でありつける食事にありつけない事での些細な抵抗なので微笑ましい。

 まあ、時間ばかり取らすのも申し訳ないので

「こいつらが勝手に音楽室に入って勝手にオリヴィエのバイオリンを弾いたんだ。

 鍵をしっかりと施錠しなかった俺の不手際で申し訳ない。とりあえず屋根裏は出禁にした」

 何て言えば少しだけ驚いた顔のオリヴィエだったが、ふーんと言う様に手を綺麗洗って背後のサイドボードの上に置いてあるバイオリンケースからバイオリンを取り出して調律を始めた。

「どの子がバイオリン弾いたの?」

 聞けばケリーが申し訳なさそうに手を上げればオリヴィエは調律をし終えたバイオリンを彼に差出し

「一曲弾いてよ。そうしたら許してあげる」

 そんなリクエスト。

 ああ、ケリーが泣きそうだ。

 と言うかえげつないな。

 二人に会えた興奮からのバイオリンの持ち主と言う理解。更にはオリヴィエの愛機とも言うべきジョルジュでのリクエスト。

 世界のマエストロと言われるマイヤーの目の前での演奏は二度とバイオリンを持てないくらいのトラウマになるのではないのかと心配をしてしまう。

 だけどそれに手を伸ばしたのは意外にも叶野で、正しい姿勢でバイオリンを構えて弓を引く美しい姿になんというか予想外で……

「これは酷い変奏曲だ!モーツアルトが泣いている!」

 全員を黙らせた後の大爆笑。俺に引けを取らない酷い演奏は本当に予想外だ!

 鋸を持って材木を切る方がましと言うくらいの騒音にマイヤーがあまりの酷さにワインを開けて飲みだし腹を抱えて笑っていた。直ぐにオラスがみんなにもワインの入ったグラスを渡してくれて笑い出してしまう恋の歌を叶野は眉間にしわを寄せて何かを探るような渋面で演奏を続ける。

 自分の総てを投げ捨てて知り合ったばかりの同級生の勇者ぶりにポカンとしていたケリーだが、本人は気づいているのか涙は引っ込んでいた。






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