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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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朱に交われば赤くなると言う元の朱は誰ぞと問えば白い目で見られる理不尽知ってるか? 1

 綾人の留学生活はおおむね順調に進んでいる。

 単位も問題なく取得できている上に、授業の進め方もやる気次第では早々に終了させる事も出来る。その分課題も大量となり大変な事になるが、速読と抜群の記憶力を持てば本を読む時間も大した問題でもない。多紀さんの知り合いに紹介してもらったOBにレポートの書き方から論文の書き方を学び、アメリカの友人に活きた英語というか独特なポッシュな言葉使いも学び、仕上げにロードをお願いした結果教授達とも楽しい話題で盛り上がり、そしてカールから学んだ骨董の話題、バーナードから学んだ建築物の造形の美、そしてやっぱりマイヤーの音楽に関してはどの教授にも話題が弾んだ。

「教授と言う職業となれば一流を学ばないとな。ランドルートのコンサートは定期的に行くのかい?」

「いえ、フランスの別荘の近くにランドルートの別荘もあり、食事を中心ですが交流があるのでその時に色々楽団の方も招いて楽しませていただく程度です」

 嘘は言ってない。

 だけど正直に言おう。

 マイヤーの知名度を俺は舐めていた。

 日本人の感覚、そして俺の音楽への無知はそこから次の授業をお互いすっぽかすぐらいの説教タイムに入ってしまった事は当人をフランスの城に招いて直接マイヤーに聞かせた位の思い出だ。オリオールも俺を可哀想な子を見る目を向けるし、オリヴィエを始めとしたマイヤーが可愛がっている音楽家の無言の訴えも正直堪えた。それは教授もだが、俺がこうやって知らず知らず文化的な事に力を入れている事はこの教授によって広がって行った事をまだ雪の舞う春の日に俺のアパートをたむろする奴らから耳にするのだった。


「噂で聞いたんだけどアヤトってフランスに家を持ってるんだってね」

 柊が今夜はコロッケを作りましょう!なんて言う理由を作ってうちにたむろする中でどこで聞いて来たのかケリーが目を輝かせて少し興奮気味に言うので全員の視線が俺に注目していた。

「まあ、ヨーロッパの拠点はフランスだからな」

 オリヴィエがただいまと帰る家、オリオールの再帰する拠点、そして俺が健やかに眠ると言うのは語弊を産むがぐっすり眠る為のセーフティーゾーン。もしくはセーブポイント。町の中心地から車で小一地時間ほどで得た(車の速度は無視をしよう)安らぎの別宅はヨーロッパ地方をうろつくにはそれなりに便利が良いと思っている。

 主に俺にとって居、食、眠を重要視する総てを兼ね備えた場所だと思っている。

 平たく言えばアンティークな古風な陰影を落す静かな安らぎの空間と飯田さんよりおいしい料理を提供してくれるオリオールがいて、周囲からの視線を感じない程度の距離を保つ庭がある山の家ほどではないが俺好みのパーソナルスペースを確保した安住の地だと思っている。

 まあ、オリオールがレストランを開いての来客はともかく、この家の仮の主でもあるオリヴィエの友人達も我が家の如く空き部屋を占領する辺りは烏骨鶏レベルと思えば問題ないけどだ。

 マイヤー・ランドルートが足しげく通う古城のレストラン、その効果は瞬く間に有名になった。

 とは言えマイヤーが食事をする場所は城のキッチンと言う決してお通しするべきではない場所だが、マイヤーがオリオールの調理する姿を見て、出来たての料理をその場で食すどころか味見をさせてもらう最高のロケーションを愛しているとはさすがに公にはしないでくれた。さすがに俺もマイヤーも居た堪れないと言うのを理解してくれるじーさんは単に城の出入り禁止を恐れての物。くっ、胃袋を掴まれた哀れな男の宿命だな。さすが飯田さんの師匠、俺とは違う世界的な大物を調教するとはさすがだと心の中で賛同する。

 俺が留学でバタバタしている間に起ったフランスの別宅の騒動はイギリスに留学して半年して程した頃知った事実。

 学ぶ事が楽しくてちょっと情報の海から離れてる間に広まった真実に三月の下旬から四月の中旬までの三週間ほどのイースター休暇の間にフランスの別宅で情報収集しなくてはいけないと決心した所だった。

 

 が……


 ケリーよ、どこでフランスの別宅の事を聞いて来たかと問いただしたいが、今やアレックス四人組+ケリー+同郷コンビが俺を見る視線に俺は耐える事が出来なかった。

「イースター休暇にバイトとしてなら招いてやるぞ」

 せめてもの抵抗。

 このお坊ちゃま達の集団が同レベルだと思ってる相手の本音謎知るわけもないだろうそんな招待に全員が喜んで

「住む所は?」

「空き部屋で雑魚寝で良ければ充分な場所はあるぞ」

 イエーイとハイタッチした後は

「じゃあ、ご飯とかは……」

「もちろん提供する。だからパスポート用意しておけよ」

 さらにハイタッチ。ジェレミーすら喜んでいるあたり微笑ましい視線を浮かべながら俺は心の中で笑う。

 ただしバイトなのだから食事つき寝泊まりの労働だけだと思うなよと心の中で笑いながら取り出したスマホでメッセージを送る。


「卒業旅行にフランスの城に招待してやる。

 陸斗とか園田達にも声をかけて置け。人数決まったら連絡しろ」

 

 悲痛なまでの命令を送った相手は植田と水野。

 このメッセージを受け取った二人は後に語る。

 

「何所のバカが綾っちをここまで怒らせたんだ?!」

 

 当然二人が真っ先に泣きついた相手はただ一人。

 それ込みのメッセージなので無問題。

 数時間ほどしての返答の予想範囲内のメンバーに俺はにんまりと笑みを浮かべてオリオールと連絡を取る。

 こっちで出来た友達を連れて行くと。

 喜ぶおじいちゃん達の連絡を耳にしながら

「楽しい交流会になるな~」

 そう思うのはお前だけだと盛大なツッコミを貰うのは判っているが、世の中甘く見てるイージーモードの学友達に現実を教えるには丁度よい機会だと俺は気合を入れ直すのだった。


 


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