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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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今年もありがたい事にスケジュールがいっぱいになりそうです 6

 冬の寒さも緩んだ春先に宮下と一緒に京都へ向かった。

 行先は西野さんのご自宅で、なかなか入りづらそうにしている宮下を玄関先に置いてお邪魔する俺に慌てて着いて来る宮下をバカだなぁと笑いながら西野さんと数年ぶりの再会を迎えるのだった。

「ご無沙汰してます。

 お体の方はいかがでしょう」

 なんとなく目を合わせづらそうにしている宮下を他所に俺は玄関でお渡しした手土産のお菓子を頂きながらお茶を口に含む。

「リハビリの方も進んで生活には不便なく、とまではいかないけど一人で自分の事はこなせるようにはなったのよ」

「長い戦いになると同じように倒れた近所の人も言ってます。

 仕事も出来なく、今は炭焼きをするのがせいぜいだと笑ってまして、自分の中で折り合いをつけてそれなりに楽しんでいるようです」

「まあ、炭焼きだなんて大変なお仕事を」

「息子さんが手伝ってくれて一緒に焼いてます。

 うちの炭窯なのですが、祖父も足が悪かったので使わずにいたのを火の番ならできるだろうと無理やり押し付けて以来ずっと炭を焼いていただいてます」

「ご飯を頂いた時使っていた炭ね。良い炭だったわ」

「はい。おかげで今もお願いして炭を買わせていただいてます」

 近くの集落の人も買いに来たり、農協にも売りに行ったりしている。やっぱり高齢なので月に一度しか炭を作らないが、それでも息子さんが間伐材を使って焼いてくれるので山の為にもなるので家でも山の整備の為に倒木した木や間伐をお願いして炭を作ってもらっている。

 お金は当然払う。

 放置していた山の整備と何日に渡る火の管理。

 材料の使用許可を出しただけでその貴重な時間に対する報酬には合うわけがない。

 渋る様子に火種になりそうな商品にならない細かい物を貰って帳尻を合わせるのが持ち主の特権だと喜んでいる。

 因みに炭が焼けたと聞いては生簀の虹鱒と野菜を持って行って験し焼きと言って焼いては食べるバーベキューが開催される。勿論炭を待っている人達も農協に降ろされる前に買いに集まる。猪の肉もあるし、烏骨鶏の肉もあれば持って行く。炭が焼けたお祝いは一番古い記憶からだいぶ人数は減ったものの今も続いているのが嬉しい楽しみの一つだ。

 炭の話しからそんな話となり、宮下も何度か買った事があって煙があまり出なくていい炭なんだとやっとこの頃になって会話ができるくらいに顔を上げれる様子を西野さんは孫を見る目で柔らかく微笑んでいた。

「翔太にはいろいろ教えると言ったのに半端になって悪かったな」

 倒れた後連絡を入れた時よりも滑らかな口調となった言葉に宮下はポロリと涙を落し

「長沢から電話で話を聞いてる。

 あいつはお前には直接誉めないだろうが、電話ではお前の事を本当に誉めてな。

 器用だと思ったがうちに来て仕事が丁寧になって戻ってきたって誉めてた。

 俺の仕事の動画を見ては真似するように練習してたり、長沢の教えも一生懸命習得しようと頑張ってるんだと教えがいがあるって喜んでたぞ」

 一度決壊した涙は止まる事を知らず袖で目元を押さえつける。宮下を見守る二人の師匠の言葉に嬉しさと西野さんから最後まで学びきれなかった悔しさが混ざり合って悔しくて、それを表現するのが涙を流して泣く事しか出来ない宮下に傍にあったティッシュを差し出すしか俺にはできなかった。

「翔太、泣いてる暇はない。まだまだ学ぶ事も多いし、腕は何所までも磨く事が出来る。吉野君の家には沢山の木があるからもっと木と語り合ってみると良い」

 木と語り合う、西野さんから出された課題を最後に俺達は少し荒れた庭の手入れをさせてもらい、代わりに西野さんの仕事道具をいくつかいただいて西野さんの家を後にするのだった。

  

 その後は何だかお互い話が出来ないまま古い佇まいの一軒の家の前に車を止めた。

 古民家。 

 そう言われればそうかもしれない。

 だけど綾人と宮下の知る古民家とは全く別物で、良く言えば古くからある大邸宅、そんな言葉がしっくりとはまった。

 ありがたい事に駐車場があり、そこに車を停めさせてもらって門を潜れば立派な黒松が迎えてくれる玄関から早々とそこらには無い風格が漂っていた。

「樹齢どれぐらいだろね」

 辛うじて出て言葉かなり現実逃避した物。

 同じように目の前の光景を理解できない宮下も

「拝観料ってどこでお支払すればいいんだろう」

 この家の末っ子とつるんだわりにはご実家に招待された事がなく初めてのお宅訪問に回れ右をして逃げ出そうとした所で

「綾人、宮下、よくきた」

「あ、お父さんお久しぶりです」

 いきなりラスボスのお出迎えに退路はいきなり断たれてしまった。

 門はフルオープンなのにボス部屋に入った途端に扉が閉まるそんなイメージを想像してみよう。横道を抜けてトラップの待つ通路を潜り抜けてレベルアップしてから再度のラスボスとの遭遇がセオリーかもしれないが、そのトラップはラスボスの後ろにちゃんと控えていて既に逃げ道も断たれていたようだった……

「綾人さんいらっしゃい。宮下君もやっと遊びに来てくれたのね」

「お母さんもお久しぶりです。お元気そうで何よりで、お土産を色々と預かってますのでどうぞお納めください」

 随分と日本語が変だった物のそれは大した問題ではない。

 実桜さんから預かった花達をお渡しすれば

「まあまあ!この季節なのに桜だなんて!すっかり終わっちゃって寂しかったのに折角だから玄関にいけちゃいましょうね!」

 ごきげんで両手で抱える花束を抱えて去っていく後姿に満足して頂けて何よりと宮下とともに見送れば

「二人ともついて来なさい」

 なんとなく申し訳なさそうなお父さんが案内をしてくれるのだった。

 今はお客様を迎える時間ではないので一通り部屋を見せてもらえた。

 宮下なんかは建具の細工から部屋の床の間の細やかな仕上げに釘付けとなり、俺は部屋全体の居心地の良さや目にも優しい色の配分に癒され、床の間に置かれた花器や香炉、掛け軸に唸りながらお父さん達が二階の部屋に立て込むのをなんとなく理解するのだった。

 それからお茶を頂き、暫くしてお夕飯を頂く事となった。

 もちろんお店的なお夕飯ではなく家族的なおもてなしを頂く事になる。

 だけどその前に今日一番のメインイベント。

「ふふふ、ここが薫が高校生になるまで過ごした部屋よ。

 なかなか帰ってこないけど、今も昔のまま残してあるのよ」

 布団はない物のベットの横には勉強机があって、すぐ横の本棚には少しだけど漫画も並んでいる。

「良かったら今日ここに泊まりたいです!」

「あらあら、それはどうかしら?」

 何だか楽しそうなお母さんの言葉にこのやり取りは前にもあったよなと引っかかっていればどこからかこの家にはふさわしくないような全速力で走り迫る足音。

 普通家の中で全速力ってないよな?

 綾人の家ならあるよね?

 そんな視線での会話の後に

「母さん!なんで綾人さんに俺の部屋を勝手に案内してるんですか!!!」

 狂犬襲来!ではなく

「あれ、飯田さん……

 東京で仕事なんじゃ……」

 ここにいるはずのない人のいきなりの登場にお母さんはコロコロと笑って

「こうでもしないと薫は帰ってこないじゃない。

 さすがに綾人さんって言う餌だと食い付きが良いのね」

「目が覚めたらメールに綾人さんと宮下君が泊まりに来るから俺の部屋を貸すって聞いてどれだけ驚いたと思うのですか?!

 青山に泣きついて急きょ休みをもらいましたよ!」

 何やら知らない所で親子の駆け引きがされていたらしい。というか、青山さん御免なさいと言う所だろうか。こっそりこの光景をスマホの動画で納めて青山さんに合流できましたとメッセージを添えて送っておく。だけど青山さんと聞けば

「青山さんのお部屋もあるって事ですよね?!」

 聞かずにはいられない、ここ重要。

 だけど家を継ぐ事のないお父さんの弟さんに対する姿勢は古い家では何所までも厳しいようで

「楓さんはお家を出たのでお部屋はなくって客間になるの。

 厳しい言い方だけど、相続争いがおきないようにって義父様、義母様の方針だから残念だけど無くなって代わりに庵のお部屋が楓さんの元お部屋だったの」

「あ、それで十分です」

 無情なまでの宮下の決断。兄弟の居ない俺には分からない兄弟の仁義なき何かがあるのかと考えてしまうも部屋の主は調理場で仕事中なのでこんな事になってるとは全く知らない。

「だったら案内するわ。ちなみにこのお部屋の隣のお部屋なの。庵の代わりにどうぞご覧になって?」

「わーい!おじゃまします!」

 何て棒読みながらも無邪気にお部屋へと突入。

 アイドルにまみれた部屋だと聞いていたのでかなりテンション高く部屋へと向かえば

「何でポスター一枚も張ってない。原寸大抱き枕とか凄く期待してたんだけど!!!」

 カメラを手にして素で言ってしまった言葉にお母さんも困ったように頬に手を添えて

「ほら、少し前にワイドショーで推しアイドルさんの熱愛発覚からの結婚、妊娠って言う話しに目が覚めたって言うか。全部処分して今ちょっと人間不信になってる所なの」

 ホントに困ってると言うような声だけど

「おかげで仕事に打ち込んで今何も考えたくないって言う様に細工物にこだわっていてね」

 今まで発揮されなかった血筋がここにきて頭角表したと言う所だろうか。

「焼きも包丁もまだまだだけど、集中力だけは薫やお父さんと同等になりかけているから良しとしてるけど、細工それだけじゃまだまだよねぇ」

「お母さん厳しい!」

 もう一声と言うリクエストには急には応えれないと言う所だろうか。それでも少しは応えれるように集中する事を覚えたのだからまだまだ時間はかかれどいずれは相応しい料理人になると言った所だろう。


 


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