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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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春の嵐通り過ぎます 8

 なんだか不思議な光景を見ていた。

 カメラで撮影を始める所までは納得できる。

 だけど何でレーザー距離計を使って計っているのだろうかと思いながら晩ご飯の準備が出来た事を伝える。

「そろそろ食べようか」

「ああ、綾人君。今晩中には無理かもしれないけど明日中には大体計り終わるつもりだから」

 なるほどと言う様に俺は母屋へと戻る。

 多紀さん達も先にご飯にしようと言う様に作業の手を止めて俺の後をついて母屋へと戻ってきた。

 俺はそのまま台所から入って土間を抜けて自室へと向かう。

 多紀さん達も同じようになぜかついて来てくれたけど、そこは手間が省けてありがたいと言う所だろう。

 この古民家で一番古民家らしくない場所、そこが俺の部屋。 

 多紀さんは一度だけど皆さんは初めて見る俺の部屋をもの珍しそうに、そして

「なんかこれだけモニターがあると落ち着きますね」

「良いPC使ってるな。あ、これ俺が高くて諦めた奴」

「この配置モニター見やすくっていいなぁ。今度真似してみようか。あ、イスのすわり心地良い。どこのメーカー?」

 初めて見る人は大体ぎょっとするのになぜか自分の部屋にいるような安心感を与えていた。

「えー?みんなこう言う部屋の方が落ち着くの?」

「まぁ、借りてる部屋にいろいろ詰め込まないといけないので似たような環境になりますしね」

 木下さんはそう言うも

「だけど俺のアパートはこれにロフトとキッチンバストイレで終わりだからね。作業部屋と居住空間がわけられるのは憧れるよ」

「それ!やっぱり仕事部屋は仕事部屋で独立させたい!」

 堀さんも服部さんも力強く言う中俺は一台ノートパソコンを弄っていた。そこからいくつかのファイルが入ったフォルダーのコピーを作り、未使用のUSBメモリへとデータを移した。

「とりあえずあの家の図面。ソフトは無料の奴落したので作ったから、これソフト名ね。ググればすぐにヒットするはずだから」

 USBメモリの本体の空いたスペースにソフト名をマジックで書いて、三人の中のたぶんリーダーの木下さんへと渡す。

「多紀さんに渡すと無くなりそうだからよろしく」

「適切な判断ありがとうございます」

 三人揃って頭を下げるも

「えー、僕ってそんなに頼りない?」

「いや、どうやって見ればいいのから始まりそうだから」

 なんとなくそう言う世代だって言うのを誤魔化して言えばグッと息を飲み込んで何やら耐える顔。聞かなくても判る正解の回答に笑いながらもその間に木下さんはUSBメモリーに紐が通せる場所に色々な鍵が付いている大切なのだろうキーホルダーにすぐさまそれを括り付ける。

「ああ、これ事務所や倉庫、多紀さんの家の鍵の予備だったりかなりの貴重品なので、ここに一緒に在れば間違いないです」

 木下さんの言う事を信じないわけじゃないけど

「こいつ財布を忘れてもこれだけはいつも肌身離さず持ち歩いているので紛失の心配はないですよ」

「うん。多紀さんの弟子をしている時点で信用は出来るから」

 これだけ人を振り回す人と付き合っていられるのだ。まだまだ評価はされてないらしいけど深夜枠と言う時間帯のドラマでそこそこの視聴率がとれたとネットニュースでは上がっていたからこれからの人だろうと言うのが俺の評価。となると卒業も近いのかななんて想像をする中

「ごはん準備出来たって言うのにまだ遊んでるのか?!」

 蓮司まで来た。

「うわっ、この部屋におっさん四人はいると狭いなぁ。って言うか綾人、これだけ広い家に住んでるのになんでこんな小さな部屋に落ち着くんだ?」

 蓮司の言いたい事も判る。

 田の字型の大きな和室を一つの部屋にしても良いだろう、二階の二間を開け広げて使えばいいだろう、そんな含みなんて聞かなくても判るけど決定的な違いがあるのだ。

「この部屋だけはこの母屋の中で断熱仕様になってるし、この部屋に住みついて七年俺の匂いが染みついた部屋を今更移れと言うのは酷な話だと思わないか?」

「クソッ、俺に寒い部屋を与えておいて自分だけぬくぬくしやがって!」

 ふふんと笑うも

「そういやこの部屋だけ何で後から作ったんだい?」

 多紀さんの素朴な疑問。

 そこは俺も詳しくは知らないが

「ここジイちゃんが晩年に作らした部屋なんだ。

 内田さんから聞いたんだけどあの時内田さんが忙しかったから別の工務店の人に作ってもらったらしいんだけどね」

「何所か身体でも悪かったのですか?」

「あー、そう言う話は当時聞かせてもらえなかった。それに建ててすぐにぽっくり逝ったくらいあっさり逝ったらしいし。

 バアちゃんが言うには闘病の為の暖かい部屋を用意したとか言ってたけど、それぐらいしか結局の所教えてもらえなかった」

 知ってそうなオヤジはもういないし、オヤジの兄弟たちも行方不明だ。

「宮下のおばさんなら知ってそうだけど、今更聞くのもなんだしなぁ」

 それにこんな言い方は良くないが、宮下は吉野とは関係のない家だ。それこそただのご近所さんだ。距離は別として。

 幸田さん達なら知っているだろうが聞けば教えてくれる事は自分達から言う人達なので今も何も言わない所を見るときっと俺には知らせたくない事なのだろう。もしくは知るまでもない事のどちらか。

 ほんと今更だしなぁと言うのが俺の答え。何かあればきっと誰かが綾人のジイちゃんがもな……なんて言う風に昔語りで教えてくれるのだろう。そう言う事だと受け止めておけばいい俺の気持ちの問題だ。

「まぁ、バアちゃんが何も言わなかったからただ備えておけばいいって言う程度だったんだろうな。ほら、この部屋から一歩出るとめっちゃ寒いし」

 ぶるりと体を震わしたくなる皆さんは足早に凍えそうな縁側を歩いて陽の側へと一直線に向かう。火の側でやっと暖かくなるこの家の構造にそう言う事にしておこう、これ以上の説得力はないと思う事にした。






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