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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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過密状態にご注意を 1

 早朝ともいえる時間、不思議な事に全員が揃って食卓を囲んでいた。ティーンズ三人組は物凄く眠そうな顔をしていて徹夜明けだろと言うのは語るまでもない。

 約一名お風呂上りのほっこりとした顔つきで朝から焚き過ぎた一升のご飯に案の定水野に「焚き過ぎです」と言われたけど半分以上食べた所で今更文句を言われてもなぁと昨夜のトウモロコシご飯の炊飯器を洗って焚き過ぎたごはんの残りを移して保温にする。

「今から病院に行くからお昼はこれを食べてください。おかずは水野任せるぞ」

「うーっす」

 炊飯器を渡せば受け取った水野は大切そうにコンセントをさして机の片隅に置いた。

「あと森下さんって大工の方が来るから応対は内田さんに任せてください。間に合わなかったらでいいんですがお昼にトウモロコシを茹でてもらえるか?」

「それぐらいなら大丈夫っす」

 水野の自信ありげな返事は過去の合宿で実証済み。

「畑からトウモロコシを取ってきて皮を取って熱湯でトウモロコシがぷっくりとなるまでゆでる。お湯には塩を忘れずに」

 植田も少しずつ料理を覚えてトウモロコシの茹で方をそらんじる。

 これぐらいできて当たり前だぞ?寧ろ洗ったトウモロコシに塩を振ってラップに包んでレンジでで二~三分と言うお手軽な方法もあるんだぞ?などと心の声はあえて言わない。鍋でお湯を沸かす、ちょうどいい塩加減を覚える、茹で具合を知る。これは体験しないと判らない事だからあえて簡単な方法は教えない事にしている。ただしどこかで知ってしまったらそれまでだけどそれで十分じゃないかと思うのはこの独り暮らしに由来する。つまりメンドクセーの一言に尽きるのだ。もっともそれが飯田さんならわけのわからない横文字の料理名が付くような物体に変るのだからどこに生活の重点を置くのかで食卓が豊かになるか貧相になるかの分かれ目だ。

 関係ないけど飯田さんは自宅では店で出すような料理は作らないと言う。ここで作るような、でも俺に言わせると華のある料理を作ってるらしい。

「難しい料理は店で作る分だけで十分です」

 言いながら冷凍パイシートを使ってシカ肉をミンチして作ってくれたミートパイは絶品だった。これが手抜きと言うのだから俺の手抜きを知ったらさぞ驚くだろうと、飯田さんが来る時は甘える事にする理由も一つだ。

「じゃあ、なるべく早く帰ってくるようにはするけどあとよろしくせんせー」

「おう。それと病院まで行くのなら圭斗の所にも寄ってやれ。陸斗にも自分の新しい家が作られていく様子を見せれやんな」

「ほーい」

 返事をすれば二度めのおかわりをしたご飯の上にきゃらぶきがのっかっていた。

 うちでは初夏でとれる蕗を速攻で茹でてすじを取り圧力鍋で煮てしまった物を冷凍庫に保管して居る。当然先生も買って知ったる冷凍庫から「蕗の季節になったか~」と遠慮なく食べて行く。自慢じゃないが取ってすぐ茹でる事の出来るこの環境ではあくはほとんどなくそれすら旨みに変る。

「綾人は当たり前のように食べてるかもしれんがこれは凄く贅沢なんだぞ~」

 とは言う物の実感はない。東京に居た時に食卓に出た事もなく、バアちゃんに教えてもらったやり方しか知らないので他を知らない。

 朝採れ野菜って謳い文句が付いている物もあるが、それは前日の朝の物だ。

 朝収穫してどれだけ急いで箱詰めしたり揃えたりしても昼過ぎになってしまう。市場に辿り着くのは夕方になってしまい、その日のうちに辿り着くのはどれだけかなんて俺は知らない。

 朝採れ?新鮮ねぇ……

 一度でも畑を耕した事あればその謳い文句に疑問を持つはずだがそれに気づかないぐらい畑とは縁の遠い都会暮らしで空気どころか新鮮な野菜も乾き気味になるのは当然だ。

 最も果物みたいに捥いで一日二日置いた方がおいしい物もあるが、それはそれで痛みとの勝負なので鼻を最大限に働かせて食べごろの匂いをかぎ取れって話しだ。

 因みに密かにもらってうれしい果物は柿だったりする。

 大して好きでもなかったがこの辺りでは甘柿はみんな渋柿に変ってしまうのだ。

 北緯38度だったかそこから北になると寒くて渋柿に変ると言うがここは北緯三十八度より南。だけど寒いから甘柿になってくれなくって干し柿にして食べるしかないんだぞ?庭の隅に並ぶ柿木は猿も見向きもしない渋柿だぞ?いや、干し柿だって美味しいぞ?

 そりゃスーパーにだって売ってるけど柿って庭先に柿を植えてる人がくれる物って言うイメージが強くって買って食べた覚えのない果物だったりしませんか?

 なので、なんかの弾みで一つ五百円する高級な柿を食べた時これは何て言う果物だろうと不思議な事を言った覚えがあるくらい感動した。

 思わずその柿の美味さを思い出してじゅるりと涎を垂らしてしまえば

「綾人、何トリップしてるか知らんが準備をしないと診察時間が始まるぞ」

「始まるって、今やっと七時過ぎだし、頑張ってのんびり行っても八時前だぞ……」

 言えば先生はふっと鼻で笑う。それは水野も植田もだ。

 なんか嫌な予感がすると思えば

「この田舎の暇な老人達の集会の場でもある病院で予約何て意味何てない。みんな八時前にはとっくに集合して受け付けは済ませてあるから今から行けば十時コース確定だ」

「しかも今日は土曜日だから仕事休みの人も一気に来るし。看護士さんも少ないから段取りも悪いし?」

「病院なんていかねーからそんなのわかるか?!」

 全力で何常識みたいに言ってるのさと言うも

「とりあえず早く行った方が精神的に楽ですよ。

 スマホのバッテリーの予備とか持って行くのお勧めします」

 先生、水野、植田の助言に勘弁してくれと泣きたくなるも、陸斗にも準備させて車に乗り込む。勿論スマホの予備のバッテリーは持った。

 陸斗も新しい保険証と診察券、病院代で預かっているお金を財布に入れさせ、スマホもちゃんとリュックに詰めて準備オーケー。俺も財布と診察券、スマホと予備バッテリーを鞄に詰めて車のキーを取り出してエンジンをかける。

「慌てて行ってももう遅いんだ。それならそれでのんびり行けや」

 先生はじゅるりとトマトを齧りながらのお見送り。言われればそうかもしれないけど、少しでも待つのを避けるために急いで行くぶんには勝手だろう。ただし安全運転で。

 前回病院に行った時以来久しぶりに車に乗る。肩に少し違和感があるも糸が皮膚を引っ張る違和感なので糸を抜けばその違和感もなくなるだろう。

 そんな少しの肩の違和感を覚えながら山をどんどん下っていき、山と山の谷間に走る一筋の川と共に暮らすかのように立ち並ぶ古い家と新しい家が混在する街を車で走りながら眺めるのは案外嫌いじゃない事は誰にも言った事はなかった。





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