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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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戦う為に 1

 宮下に連れられて綾人の家に来た時、何故かいつもいると思っていた母屋ではなく烏骨鶏の小屋に綾人は居た。

 オイルヒーターが準備されていただけでまだつけてはない鳥小屋はそれなりに温かく、綾人はその部屋の隅にしゃがみ込んで烏骨鶏を抱きしめて身動き一つもしてなかった。

 ぎょっとしたのは一瞬。

「綾人、ご飯作るから母屋の方に行こうか。囲炉裏に火をつけてお酒でも温めようね。身体もきっと温まるよ」

 宮下はそう言って腕の中で眠りこけていた烏骨鶏を奪い、何故か今にも泣きだしそうな綾人の手を顔を見ずに掴み上げてずるずると引っ張る様にして鳥小屋をでるのだ。むしろそっちの方がぎょっとするわと二人が出た後しっかりと鳥小屋を閉めて追いかける。

 何だかまたおばあちゃんになりかけているものの理由は蒼さんから聞いていた。


『長沢さんが老犬だと思ったら狂犬だった』


 何だそりゃと思うも

「ほらフランスで飯田さん動画のイメージと違ってかなりファイターなところあっただろ?長沢さんも寡黙だけど不器用な優しさって言うの?そう言う人だったのにごりごりの武闘派だった」

 それこそ一体何だと思うも蒼さんは襖越しに聞こえた会話をスマホに録音して俺達に聞かせてくれた。

 まるでどこかの若旦那のように扱われる綾人と古くからの……以下略。

 物凄くお世話になってる人に対する言葉じゃないと固まっていた宮下を無視して

「逆に声しか聞こえなかったから凄くこわかった」

 何て涙ぐむ実桜さんは「お父さん達がんばった」何てあんなことされたのにも拘らず同情する辺り同席しなくて正解だったなと心の中で思うも最後にこのめんどくさい綾人が待ち構えているまでは想像が着かなかった。

 なんとなく宮下が慣れてるのがよくわからないけど、余裕のお世話ぶりに任せておけばいいかと俺は囲炉裏に火をつけて部屋を暖かくする。そろそろ家の中も冷えだして来たので土間にあるロケットストーブもつけて家を温める事にする。

「圭ちゃん、お風呂も火を焚いておいたから。ごはんはお鍋でもいいかな?」

「陸、ある物で良いから。とにかくあったかい物食べさせて」

「すぐ準備するね」

 山での草刈りを終わらせて家に帰ればあいかわらず圭斗の家でたむろする高校生達を帰して陸斗を連れて綾人の家にやって来た。岡野夫妻は凛ちゃんを迎えに行ってそれからは家族の時間。岡野家に高校生ズが乗りこまないように追い出してから一応お泊りの予定でやって来たのだった。

 内田さんにも昔の様子とかほんの短い期間しか居なかったはずだと聞いていた長沢さんの立ち位置の強さとか吉野のしきたりとかルールとか聞きたかったけど、その前にまずこのめんどくさい親友の復活を優先する。

「これぐらいだったらおなかいっぱい食べて一晩ぐっすり寝ればいいだけだから心配ないよ」

 物凄くこなれた様に言う宮下にそれは信じて良いのかと思うも

「それよりも綾人、俺達も風呂入りたいから先に入っておいで」

 風呂場からバスタオルと着替えをそろえて綾人に渡す。

「母さん言ってたよ。人の目がないからって裸でうろつかないようにって。おなか冷やしても知らないよ」

「いや、それはそんな心配なのか?」

 素で聞いてしまうも宮下は小首かしげて

「そんなもんじゃない?ここだと病院遠いし」

「まぁ、確かにな」

 一応村には村の役場には診療所が一つだけある。 

 いつやっているのかわからない診療所だし、何かあればすぐ麓の町の病院を紹介されるそう言う場なので何かあった時はすっ飛ばして麓に行く方が時短なのでそれが定着している。

 綾人はひょこひょことした足取りで五右衛門風呂へと向かい、折角だからと番犬代わりに連れてきたあずきは綾人を追いかけずにロケットストーブの近くで寝そべっていた。

 その合間にも陸斗は鍋の底に昆布を一切れ入れてだしを取りつつ鍋に野菜を詰めて行く。

 おかしな言い方だけど、男四人の食事はそれぐらいがちょうどよい。

 密かに綾人の家なら野菜は食べ放題だと思っている陸斗はここぞとばかり野菜を鍋に詰めて行く。

 因みに今夜はキャベツとベーコンをコンソメでことことと煮る予定だ。

 人参やじゃが芋、玉ねぎ、蕪、ソーセージと言った物を詰めてゆっくりと煮てる間に綾人が風呂から出てきた。とは言えキャベツを丸々入れたのでもう少し煮込みたい。

「陸、俺達が入るとお風呂の水が汚れるから先に入っておいで」

 何て言う翔ちゃんは何処か土ぼこりを纏っていて、別に構わないと思うけどと思いながらも好意には甘えさせてもらう事にした。

 後二人が待っているのでとざっくりと頭と体を洗って肩までつかって三十秒数えた所で風呂から出る。ちゃんと洗ってちゃんと温まらないと綾人さんがどこか機嫌が悪いような顔をするのでお風呂を頂く時は綺麗に全身洗って温まってから出る様にしている。置きっぱなしの服には相変わらずご厄介になっていて、すぐに翔ちゃん、圭ちゃんと手早くお風呂に入る。

 何故か全員カラーリングの違うスウェットを上下に来ていて少し楽しかったけど、翔ちゃんと圭ちゃんは何とも言えないと言う渋い顔をしていて、それを見た綾人さんは少し楽しそうな顔をしているように見えた。

 そしてご飯の時間。

「こら綾人!ソーセージばかり食べないの!

 圭斗もベーコンばっかり狙わない!

 ああ、陸斗は野菜ばかり食べないでタンパク質をちゃんととって!!!」

 宮下のオカンぶりが発揮されて全員になるべく均等に盛り付けられていくのを綾人はブーブーとブーイング。弥生さんはそんな事しないと気づけばもう復活している事に気が付くも宮下はかいがいしく世話を焼く。

「ほら蕪好きでしょ?食べ終わらないと取り皿に他の物のせれないから食べ終わるまでマテだよ。

 ああ、あずきもご飯用意するから土間上がりに前足かけないの!

 陸斗に鹿の骨を煮てもらったのあるから、ご飯入れて冷めるまでマテだよ!ソーセージもおまけに入れておくからお座りして!」

 なんかあずきと綾人の扱いがいっしょのれべるのような気がしたが俺はホクホクのジャガイモを適当に割ってスープに溶かすようにして食べる。あまり綺麗な食べ方じゃないけど密かに好きな食べ方なので止められないでいる。

「宮ちゃん、ジャガイモとって」

「蕪食べた?!ジャガイモと玉ねぎ入れたから!ソーセージはその後ね?!」

「それよりも翔ちゃんも食べないとキャベツしか残らなくなるよ?」

 陸の指摘に何故か綾人の取り皿の中に蕪がいつの間にか入っていた。

 知れっとした顔で食べていたが、宮下と目が合った瞬間鍋から人参を宮下の取り皿にいくつも入れていた。

「綾人!!!」

「仕方がないなぁ、ソーセージも贈呈しよう」

「好き嫌いしない!」

「人参食べれるしー」

「食べれるけど好まないから押し付けるなんてしないの!」

 嫌いじゃないから食べるけどねとがつがつと食べて鍋の中の人参が熱くて悶える宮下に綾人は可愛そうな子を見る目で冷えたビールを渡していたがこの普段と変わりないやり取りに圭斗は

「復活したか?」

「復活以前に長沢さんショックなだっただけだから」

 豆腐メンタルが砕けたわけじゃないと言う様にひょいひょいと残り少ないベーコンを拾い上げていた。

「綾人!」

 宮下のストップ何て聞かないように拾い上げたソーセージを

「あずき、キャッチ!」

 取り皿に残っていた冷めたソーセージを放り投げればあずきは器用に空中キャッチを見せてくれた。

 おおー!

 何て圭斗と陸斗は拍手をしていたが

「綾人!犬にはソーセージの塩分は高すぎだよ!」

「だけど塩分も重要。

 あずきー、これでまた塩分コントロールされた食事頑張れるよな」

 なんて声かけられても犬は基本丸飲みの食事方法なのであっという間に胃袋に納めてキラキラとした目でおかわりを求める様に飼い主の一員である宮下へと向けていた。

「もうひとつくれるの?」

 犬ながら女の子の顔をしたあざといキラキラと潤む瞳を向けられて、そんな視線に耐性のない宮下は一瞬逡巡しただけで

「仕方がないなぁ。もうないからこれが最後だよ」

 まだ残る鹿の骨の出汁だけのご飯の中にソーセージを幾つかに切り分けて置くも真っ先にソーセージだけを食べて鹿の頬根の出汁をたっぷりと吸ったご飯を食べ、最後にじっくりとに出された鹿の骨を貰って咥えてそのままロケットストーブの近くの土間上がりの下に潜れるお気に入りの場所に潜り込んでガリガリと骨を削る音を響かせながら俺達は鍋に残る野菜を押し付け合う様に楽しむのだった。




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