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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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たまには色々と仕掛けをしておこうと思います 7

 よいっちゃんと別れて山の中腹とも言える拠点へとたどり着いた。トラックのせいで実桜さんも無事合流出来た。

 先日見た通り枯れた雑草の大草原の中に隣の木に枝が着きそうなほど枝を伸ばした木々が生い茂っていた。

 かなり距離を取って効率的と言わんばかりに整列と植樹された樹木はもう冬籠りの準備と言わんばかりに紅葉としていた。

「実桜さん、こんなんだけど大丈夫?」

「大丈夫かどうかはわからないけど最悪次の春は期待できないかも」

 冬を越す為の体力をごそっと削るのだ。

「藁を敷くだけじゃ無理かな」

「藁以外でできる事は落ち葉とかかき集めるぐらいだし。

 でも。枝を落す事で雪で枝が折れる事が減るから。」

 話している間にも宮下と圭斗は車から降りてすぐに散って草刈りを始める。

 あまりに当り前と言うように動く為に蒼さんも見習って直ぐに草刈りを始めようとするも直ぐに綾人が指示を出す。

「蒼さん、悪いけどブロワーもって道路の落ち葉谷川に落としてください!」

「ええ?!綾人さん腐葉土!」

 実桜さんがもったいないと言うも

「そんなの周囲は腐葉土しかないから。かき集めた量で十分だ」

 これが町中のお嬢さんと山中の小僧の判断力の差。なんとなく負けた気がしたが、休む事無く言いながらも綾人はチェーンソーを片手に目の前の雑草を腰の高さまでざっくりと切っていく。この季節蜂などの虫はもう移動した後なので住人のいなくなった空家をどんどんと潰して行く。

 キックバック注意と言う様にかなり離れた所をバッテリー式の電動のこぎり片手に実桜もまずはと言う様に一番気になる木へと向かって言っていた。ただし、綾人のように草を刈りながらと言う危険はせずに何とかという様に目的の木の下まで向って木の周辺を刈っていく。

 落葉樹なだけに落ち葉が積って腐葉土になり、他の場所とは違い雑草は何処か控えめだった。

「じゃあ、足場作ったら枝を落して行きます!」

「俺は足場作っていくから園芸部!」

「何っすか?!」

 着々と草を刈っている園芸部は夏の間に俺の代わりにハーブの面倒を見る傍ら草を刈ってくれていたらしくそれなりに家の流儀は判っているようだ。

 草刈り機のエンジンを止めて侵入しやすい様に通路に辺りを付けて探検をしている俺からの安全圏の距離まで来て

「実桜さんのサポートしろ!

 落とす枝とか落した枝をどこに纏めるか……」

「遠藤さん!太い枝は持ち帰って燃料にするから綾人のトラックに詰めておいてください!」

 そんな宮下の指示。

「チップで良くね?」

「その辺に放置でもいいだろ」

 圭斗と健太郎さんの言葉だが

「チップは竹で十分だから。それに猪の寝床は作らない!

 せっかく綺麗にするんだから猪の巣何て作らないようにしないとね」

 何て宮下が説得をする様子にうんうんと俺は頷く。

 さすが村の人口より野生動物の方が多い所の兼業農家の息子は憎き相手への対策は抜かりない。

「後ある程度長さがある枝や倒木で柵を作ろう!」

「圧倒的に資材が足りないぞ」

 健太郎さんの意見には

「電気柵の緩い間隔で良いので!

 せめて防腐剤塗りたいな」

「じゃあ、うちで依頼引き受けますよ!」

「ならその支払いは圭斗に任せた」

「健太郎さん、その話はない方向で」

 きりっとした顔で圭斗はお断りした。

 土地は吉野の物でも事業は圭斗の会社の物だ。ある物で稼ごうと言う話しなのだから無駄な出費は極力抑えなくてはいけない。その結果が農協で買おうと言う事になったのだ。設備を整えたければまず稼げと言うしかない。

 仕方がない。

 他にも作業場の家の手を入れなくてはいけないのだから。

 ちょうど近くに吉野の負の遺産が一つある。

 もう少し街中寄りの物件でもよかったのだが実際見てみれば車での出入りにテクニックが必要となり、倉庫として活用するも庭の広さも今一つ。車二台はいれば身動きできなくなり、最初予定していた物件はいきなり没懸案となった。そして探し出した代用の物件はもうかなりの間住んでいなくって雨漏り、残置物、獣と緑の侵略お約束がフルコースで待っているのだ。夏前に草刈りをしてもらったのにだ。しかし立地として国道にも出やすく壊れたビニールハウスの残骸が風と雪にも負けじと骨組みは今も歪みながらも踏ん張っている。母屋と小さいながらも作業場があり、しっかり手を入れれば何れ岡野一家がそちらに引っ越すのも手だなとニマニマと遺産問題を潰して行く。

 住人は俺が高校卒業する数か月ほど前にお一人様だったおばあさんが亡くなってからの空家。子供は都会に出て働き、建物が建つ土地は吉野からの借地なのでそのお婆さんが亡くなったのを期に遺産を放棄したらしく、建物としての資産的価値のない物件も付いてきた。

 まだ生きていた頃の婆ちゃんが

「あの家の人も吉野の樵で、祖父の代から奉仕してくれたんだよ。

 爺さんがあんな事になったから麓の土地を税金分で貸していたが、姉様の最後のお顔はええ顔してた」

 聞けがバアちゃんより少し年上で、当時の女の子供の世話係りをしていたと言う。料理の手伝いの仕方や掃除洗濯の仕方を教えたり、仕事の時はいつも歌を歌ってくれてな、歌が上手でみんなその歌を聞きたくて一生懸命仕事を一緒にしたんだ」

 ほろりと零した涙からまさか数か月後に追いかける様になんては言わないが、その訃報が届いた日は一人寂しそうに歌を歌うバアちゃんの背中が印象的だった。

 とりあえず仕事場となる家の事もあるが、今は黙々と草を刈り、途中見つけた長い間空家だったっぽい猪の巣も壊しながらひたすら刈り続ける。 

 うるさいモーターの音に鳥も逃げて行くし、少し遠くからなんか変な奴らがいると言う視線も木々の合間から感じたりもした。

 これだけ賑やかにしていれば近づいてこないだろう鹿はとりあえず無視をして……


「あーやとー!おなかすいたー!

 そろそろごはんにしよー!」


 宮下のモーターの音にも負けない大きな声の訴えに今後の段取りを考えていた俺にもちゃんと届いて


「じゃあ一度下まで降りよう!弁当屋さんに入口の所まで持って来てもらうように手配してあるんだ。長谷川さんとこの人にお願いしてあるから食べに行こう!」

「綾人、うちの分まで悪いな」

「きっちり働いてもらうつもりなので弁当位で誤魔化されて下さい!」

 今回は長谷川さんの所に正式な依頼として頼んであるので給料面は俺からではないのでそれぐらいは気配りさせてもらった。バアちゃんに言わすとそんなもん食べさせて失礼だとか言いだすだろうが、バアちゃんの焦げた煮物とどっちがいいかと考えれば、そこは口を閉ざすのが賢い選択と言う物だ。

 さてと。

「行って戻って来るだけだからトラックの荷台に纏めて乗っちゃいましょう!途中蒼さんを拾って行かないとね」

 そう言って機材は俺のトラックに片づけて、圭斗のトラックに乗り込んでゆっくりと落ち葉のない安全な道を下りながら蒼さんを拾い、細い道に悲鳴を上げながらみんなが弁当を受け取っている所に合流するのだった。




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