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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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壁越しの秘密基地 3

 蛍光灯の薄暗い台所で一人でご飯を用意する水野を他所に植田はスマホの取説一式入ったままの通信会社の紙袋を見てそそそと陸斗に近づいていた。

「スマホ買ったの?」

 陸斗に聞けばぎこちなくだけど首を縦に振る。

「LIME入れてる?登録しても良い?」

「ええと、今綾人さんにやってもらった所で」

 使い方がわかってない陸斗に植田は同じ向きに座って自分のスマホを取出し

「だったら折角だし登録しちゃおう。何かあったら、綾人さんの事でもいいから俺に連絡してね」

「ええと、はい」

 言いながら両手に持つスマホでサクサクと登録する様を見て陸斗は尊敬する視線で植田を見て居た。

 陸斗、植田をそんな目で見ちゃだめだ。

 こいつはゲーム仲間欲しさに取り入ろうとしているだけだからつい、と視線を他所に向けてしまうも

「水野ー、お前スマホ寄越せ!折角だから陸斗のニュースマホに登録しちゃる」

「机の上に置いてなかったか?」

「あー、パスは?」

「してねー」

 不用心だなぁとブツブツ言いながらも植田は水野のスマホにも登録してしまった。その後は机の上にポイと置いて放置だが

「何かゲーム系アプリ入れた?」

 頭を横に振る陸斗に植田の目が光ったような気がした。

「これさ、今俺ド嵌りしてるゲームだけど一緒にやらない?」

 言いながらアプリをインストールしようとして

「あ、ここにパスワード入れてダウンロード開始」

 レクチャーするのはいいけどと苦笑しながら見守る。

 なんか上手く丸めこられているけど、陸斗もいつの間にか前かがみで植田の説明を聞き入っていてゲームの遊び方を教えてもらっていた。

「で、これが俺のギルド。同じギルメン同士よろしくな?水野も綾人さんもいるんだ」

「はい、ええと、よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げる素直な可愛さにほっこりとしつつ植田が強引に引き込んだゲーム、旋幻のウォーロックなんてタイトルのキャラゲーだ。男心をそそるエロカワ系の女の子のキャラやいかにも女の子達が貢ぎたくなる男の子キャラを召喚士のプレイヤーが呼び出して戦わせると言うよくあるゲームだ。勿論キャラクターとプレイヤーとの友情度(?)に合わせて成長していくシステム。そのくせ所属するギルドのメンバーとのSNSの一行メッセ程度の気楽なやり取りもありバトルは本格派で何をメインにしたいのかよくわからない詰め込み過ぎのゲームだ。植田に押し切られて二年近くイベントのみに付き合っているが未だに市場は賑やかでテレビなんかでもよくCMを見るくらいだから人気のあるゲームなんだろうと思うもこんな山奥まではそんな熱は届かないけどねと心の中で突っ込んでおく。

 何だか二人で壁にもたれてゲームをしているのを見守りながらそろそろ烏骨鶏を小屋に入れなくちゃと土間から降りれば水野がひょいと頭を出す。

「どこか行くんですか?」

「烏骨鶏を小屋に入れにね」

「あー、烏骨鶏の卵……」

「隣の小屋を今リフォームしてるからその時あの屋根の茅を降ろす時に使うから」

「え?何時?聞いてないんだけど」

「それを含めて今夜話をするさ」

 言いながら冷凍庫からシカ肉の骨からこそげ落した肉やらレバーを取り出す。赤黒い塊りを見て一瞬にして死んだ目をする理由は生肉を烏骨鶏達が美味しそうに突くのを知っているから。粟や稗と言った飼料ばかり食べていると思った鳥の雑食性な部分を初めて目の当たりにしてその夜スーパーの鳥肉が食べれなかった田舎の町中に住む少年は今では烏骨鶏の卵も肉も大好きな食欲に忠実な男の子になっていたけどあの日の衝撃は今でも忘れられないらしい。

 ジョリジョリと生姜を擦って醤油と酒とみりん、隠し味に焼き肉のたれを加えた漬けだれは飯田さんが教えてくれた物。わざわざ生姜焼きのたれ何て買わなくても適当でいいんですよと言うもしょっぱいから俺は少し砂糖を入れていた。だけどバアちゃんが作っていた生姜のシロップ漬けの生姜をたっぷりと入れるのが俺のブーム。生姜と砂糖の一対一の割合はコッテリと甘く、だけどちゃんとキリッとした生姜の辛みも残っている。レンチンして乾かしておやつにするのも悪くはないが、この味を覚えてしまってからは豚の角煮や魚の煮付けに使ったりと大活躍してくれて足りないくらいだ。別に生姜をするのが面倒って言う理由じゃないぞ。

 なので本来なら庭の畑で作るのが一番なのだろうが、生憎気候的に合わないようでハウス栽培も考えたけど最低地温が十五度以上となると夏でも雨の日は二十度を切るこの山奥では買った方が早いなと速攻で諦めた。

 因みに肝心のシロップの方は飯田さんに見つかって焼酎の割材に使われている。今はタッパーに生姜がシロップにひたひたで残されている状態。ちなみにこれは今年作った生姜シロップの話し。勿論砂糖も生姜も飯田さんが持参した物で作っているとは言えどれだけ酒飲みだと都会のストレス社会も大変だと思う事にして烏骨鶏達に解凍したシカ肉を見せびらかすように手で持って歩けば食いしん坊な奴らを筆頭に集まって来た。それはもう行く手を阻むように足元にまとわりつき、そして飛べない鳥の代表だと言うのに羽を羽ばたかせて手の肉を突きに来るその根性。

「頼むから俺の手を突くんじゃない!」

 烏骨鶏達に説教をしながら明日は病院から戻ったら小屋の掃除だと決めてばらまけば一斉に烏骨鶏達は肉に群がり、突いては振り回して食べ、千切れた部分は飛び散るとと言う迷惑至極な食事の方法に俺は早々に小屋から脱出するのだった。





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