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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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再び 4

 車の音が聞こえてきた。

 ああ、飯田さんが帰って来たんだと綾人はそこで畑仕事にキリを付けて家へと戻った。

 ジャガイモ、サツマイモがなくなった畑に冬野菜を植え付けて、雑草と戦う日々。

 馬小屋の梁からつるしているサツマイモの蔓をねらう烏骨鶏のせいか毎日落下した束を拾い上げる季節的な戦争。

 因みに蔓はしっかりと飯田さんがお持ち帰り。賄に食べると言うのだから東京の人も渋い。

 実際は青山が佃煮にしてご近所の方達と酒の肴にしていただくと言う、それこそやめてくださいと言う土下座でお願いしたい事が展開されている事など俺は知りもしない。もちろん毎年飯田さんが帰る日の朝につるだけをガッツリと袋に入るだけ入れて持って帰ると言う大雑把な仕事なので、烏骨鶏にかこまれると言う風景を除けばどうぞ好きなだけ持ってってくださいと言う物。

 飯田さんが刈り取るのが早いか俺が刈り取るのが早いかはサツマイモの生育の見極めが重要だ。

 さて、今夜は北部の奴らの為のテスト対策を投下してやろうと草を刈りながら考えていた問題をパソコンに打ち込もう、そんな考えをしている間に車を止めた飯田さんは少し緊張した顔をして荷物を車から降ろしていた。

「あー、そういや竈おきっぱでしたね。

 持って来てもらってすみません」

「いえ、俺が勝手に持って行ったものですから。あとスーパーのケーキですけどご飯が出来るまでに食べてます?」

「おおー、今時これだけシンプルなショートケーキこそスーパーのケーキ。宮下も食べるだろ?」

「うん、食べる!」

 台所横の部屋の机に置いたパソコンを閉じて土間の台所に下りてきた宮下は飯田がびっくりするくらいにいつもの宮下だった。

 圭斗の家でのあの言い合いは何なんだったのだろうか?

 帰り際みなさんの何度あの二人を頼みますと念押しされたのか、そのプレッシャーに胃がしくしくとしていたのに何でこんなにも普通なのだろうかと理解が出来ずに顔を引き攣らしてしまうも宮下は慣れた様に台所の食器棚ではなく食器専用の部屋の方にケーキ皿を取りに行くのだった。

 滅多に使わないこじゃれた洋食器は可愛らしい果物の絵付けがされたボーンチャイナ。つややかな白い生地が美しくて逆にスーパーのケーキを乗せる事を躊躇てしまう。と言うかだ。

「綾人さんの家で洋食器って言うのもなんか新鮮ですね」

「まぁ、数は少ないけど貰い物でいくつかあるくらいだから」

「折角ヨーロッパで勉強したのにここでは使わないの?」

「これ以上食器を集めたくねえ」

 確かに独り暮らしするには過剰なまでの食器の数。

「食器棚の他にも食器部屋が二つもあるくらいですから確かに躊躇いますね」

 しかも普段使う食器はパン祭の白い奴。電子レンジにも使えるし、このタイル張りの古めかしい流しでも早々に割れそうもなく、もし割れても後悔しない安心感。

 だけど飯田が綾人を見る視線はせっかく色々いい食器があるのだからもっと使いましょうと言う物。

 そーっと視線をそらすも宮下が台所横の食器部屋を覗きながら

「だけどさ、俺の思い違いかもしれないけど。

 ここの部屋ってもっと広くなかったっけ?」

 ささやかな疑問。

 飯田にどうですかと視線をよこされるも

「俺が知るわけないだろう。

 ジイちゃんが生きてた頃は男は台所に入るなって伝説をバアちゃんが実現してたからそれまでの事は知らないし、その後なんてそれこそ台所の手伝いなんて逃げるに限るって奴だし。こっちに来てからは俺の記憶の限りじゃこのまんまだけど?」

「あー、俺がこの家に来た頃はうちの婆ちゃんに手をひかれてやって来た頃だからもっと古いかも」

「へえ、ずいぶん古い記憶が残ってるんだな」

 綾人に限らず飯田も感心してしまう。

 ちょっと長い英単語ですら覚えれない宮下のくせにと思いながらも

「子供の視線から見れば大きく見えたのでは?」

 飯田さんの言葉にも宮下は眉間を狭め

「ああ、うん。そう思ったんだけど、もっとひろかったと言うか、奥行き?何か暗くて怪しげな部屋でお化けが出るじゃないかって怖かった覚えがあったから」

 ふーんと綾人は言うも、だけど小首を傾げて

「まぁ、確かに部屋があってもよさそうな空間はあるな」

「そうなの?」

 自分で言いだしておいてびっくりする宮下に飯田さんですら何とも言えない顔をする物の

「部屋のサイズが合わないんだよ。

 土間から使用人部屋があって、階段がある場所はここまでのはずなんだ」

 食器棚で埋め尽くす壁の半分ほどで指を示す。

 そしてドア一枚分の食器部屋までは一間程の間がある。

 決して広くはない部屋だが、それでも謎な空間がある事は確かだ。

「一度明日にでも内田さんに聞いてみる?」

「まぁ、ちょっと不気味って言ったら不気味だけど……

 この手作り感満載の食器棚はまだそこまで古臭い物じゃないだろ?ここ数年、少なくても七年ほどの歴史しかない。

 よく見れば引き戸のとってもあるし……

 わざわざ内田さん呼んで調べて貰わなくても食器どけて戸棚外してみてみればいいだけじゃん」

「確かに!綾人冴えてる!

 じゃあ、もし戸棚が壊れたら俺が直すよ」

「お!だったら安心して撤去して水平な食器棚を作った貰いたいな」

「だよねー、ちょっと偏ってたから心配だったんだ」

 なんて言いながらさっそくカメラを設置して二人でカメラに向かって挨拶とゲストの俺の紹介、そして今回の題名の説明をして食器を運び出す大騒動へと発展するのだった。



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