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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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さあ、始めようじゃないか 11

 勿論ここには植田のようにこれは絶対覗いておかなければならないイベントだとほざくアホはいないので外を注意する必要性はどこにもない。防音性のかけらもない家だと言う事を除けばだ全く問題ない。

 そして、ここまで連れて来られて俺が何を言いたいのか察し切ってる宮下はこれでもかというくらい身体を小さくさせて怯えていた。

 何もそこまでビビる必要がないのにと思うも、過去にそれだけ俺がいろいろしてきたせいだと役所勤めの時のトラウマを今も引きずっているのは言うまでもない。

「別に怒ってるわけじゃない」

 最初にそう断るも素直に信じる宮下ではない。

 もう言葉も伝えれなくなった宮下にどう言えばいいのかと思うも

「宮下、お前も第二種電気工事士の資格、もう一度とるぞ」

 涙を浮かべて引き攣る顔に俺は強く睨みつける。

 あれだけ羨ましそうに、しかもまるで仲間はずれされたような顔をしておいたくせに一歩踏み出す勇気がない宮下に苛立ちは募る。

 既に諦めきった、でも悔しいと思うその思いがあるのに理不尽と言う顔を隠さない甘ったれた現状を受け入れる状況も腹立たしい。

「本音を言えば去年あいつらが資格を取った時にお前も参加してほしかったんだ!

 俺から誘うんじゃなくって、お前からとりたいって言う言葉をずっと待ってた!

 高校生と一緒が恥かしいとか言うお前じゃないから!俺はずっと言い出すのを待ってたんだ!申込用紙も記入して、ずっとお前から言いだすのを信じて待ってたんだ!」

 寧ろ一緒に取ろうと言いだしてくれるのさえ期待していた。

 だけど宮下にとってテストの落第は当たり前すぎて、越えれない壁は当然のようにありすぎて、数少ない成功例でさえ打ちのめされた結果に越えるべき壁は避けて通る事が当然となってしまった宮下からのその言葉のハードルは何所までも高く

「お、俺だって言いたかった!だけどわかりきった結果にどうしろって言うんだよ!

 周囲でみんな持つ資格なんて一人いなくたって問題ないはずだろ!」

 車の免許程汎用性のない資格なんてなくたって人生問題はない。

「だったら、何でさっき泣きそうなくらい仲間外れにされた寂しそうな顔をして圭斗達を見ていた!

 勝手に諦めきった奴がする顔じゃねえだろ!」

 襟元を引き寄せて、おでこをぶつけての至近距離からぶつけた言葉に本当はどうしたいか知っている宮下の目が滲む。

「だって、そんなの……」

 言葉が繋げれない。

 言いだしたくても言いだせない言葉があるように、宮下にとって高すぎるハードル故になかなか言葉を出せない事も理解している。

 ただでさえ車の免許すら五回も落ちたのだ。

 この地域では必須スキルの為に綾人も付きっきりで教えて受かった時の喜びだって知ってるはずなのにと思い出しながら

「俺は、宮下に、これ以上、悔しい思いを、してほしくない」

 一つ一つ言い聞かせるように伝える。

 ゆっくりと、宮下が理解する為に時間を使って出来た言葉使い。

「だけど、俺は、宮下の、本音が、知りたい」

 悔しさから溢れた物が汚す頬に手を添えて

「いつだって、俺は、宮下を、支えてきたつもりだ」

 危ぶまれた卒業、逃げ出した職場、そして旅立つ背中を押しだし、どうしようもなく戻って来た今でさえ最善を探し続けたはずだと伝え

「だけど、宮下の、心、無視してまで、先には、進みたくない」

 行動力には意志が必要だ。車の免許を取った時みたいに絶対欲しいと言う思いが宮下から今は感じられないけど本当はどうだと言えば

「俺だって、俺だって!!!

 ずっと羨ましかったんだっっっ!!!」

 胸元にしがみついて泣き叫びながらやっと本音を言った。

「羨ましかったけど、だけど!」


 またおいて行かれるのが怖かったんだ。


 圭斗から聞いた事がある幼い頃の宮下の周囲は残酷な子供心で容赦なく傷つけられた日々だった。


 授業と授業の合間の休み時間

「宮下だけかプリント終わらなかったのは。プリント終わらせてから休みに入れよ」

「宮下遊べねー!かわいそー!」

「すぐに終わるからまってて」

 そして終わらずに次の授業に続く日々。


 テスト後の放課後

「宮下、今回のテスト落第点はお前だけだ。

 テスト直ししてから職員室に持って来い」

「宮下先に帰るなー」

「あー、バスで待ってて」

 間

「宮下、親御さん迎えに来たぞ」

「ほら翔太、続きは家でやりなさい。先生にもご迷惑だから、ほら帰るわよ」  

 母さんに背中を押されて非常灯だけが照らされた職員専用の玄関からの帰宅。


 学校でのグループ授業で

「宮下と一緒wwwマジ無理なんだけどwww」

「声でかいってゆーか言うなって。

 誰か面倒見なきゃいけないんだからさ」

「だからって何でウチらビンボーくじwww」

 クラス中が大爆笑。

「じゃあ、俺と組もうな」

 一瞬で静かになった教室でほとんど教室にさえ顔を出さない綾人に初めて声をかけられて出来た二人だけのグループ。

「吉野、ほんとに二人で良いのか?」

 担任の問いにグループ授業のスケジュールを総て書き上げて担任に渡し

「つか、こんな内容に五人も六人も要らんだろ。いるからってできるわけないし。

 それにこいつ案外器用だからめんどくさい事全部頼めてラッキー」

 クラス中を容易く敵に回して何か急におなかが痛くなって後はあんまりもう覚えてなかった。


 傷ついて、傷ついて、それが慣れて当たり前になって笑顔で流す事も覚えた最後にこうやって綾人に拾われた。

 それが切っ掛けとなって、担任に容赦なく絡まされるようになって、親友になって……


「ったく、相変わらずメンドクセーんだよ!

 羨ましいならちゃんと羨ましい顔しろっ!

 こっちはずっと期待して待ちぼうけだっ!

 もう待つ無駄は意味ねーから逃げても逃げられんって言うのを今から学べっ!!!覚えられなくても体に刻みつけろっ!!!」


 いやあああぁぁぁーーーっっっ!!!


 その悲鳴についに誰もが作業の手を止めた。

 外まで容赦なく聞こえる言い合う叫び声に青春っていいねえと言ったのは誰だったか。

 だけどだんだん怒気を孕む綾人の声と泣いているのではないかと言うような宮下の声。鉄治は息子に止めに入れと促したが

「すんません。ここはひとつ聞いてないふりをしてください」

 圭斗が一生懸命頭を下げて妨害に入る。

 そして同時に

「圭ちゃん、綾人さんと翔ちゃんが喧嘩してて……」

 陸斗を始め全員が家から逃げ出してきた。

 当然凛も抱っこされて連れ出されてきた姿はまるで避難して来たと言う様子が正しいだろう。直ぐに父親の姿を見つけて懸命に手を伸ばすから親らしく最愛の娘に手を伸ばして抱き寄せる。

 さらに実桜さんもやってきて

「でもあの二人本当に良いの?」

 全員が喧嘩と言う内容を把握してる中で気まずそうに二人がいるだろう部屋に視線を向けて

「うん。まぁ、高校ん時よくあったから。

 あれでも喧嘩してるつもりじゃないし、寧ろ不完全燃焼させる方がめんどくさいから綾人が」

 相変わらずあいつはガキだし沸点低いんだよとぼやく圭斗にこの場に水野が居れば確実に

「圭斗さんがいればその前に圭斗さんが爆発しますからね」

 園田はめんどくさそうに言う水野の声を脳内で再現しながら懐かしく思っていた。

 なんて恐れ知らずにいうのだろう。むしろそうやって出鼻をくじかれてきた綾人だったから冷静だと思われて来た所も多々あった。園田は今無性にこの場に水野と植田のボケとボケ時々ツッコミと言うあの場にお構いなく突入できる二人が居てほしいと切実に願いながらも偉大な先輩だったな思いながら今すぐ帰って来てと口に出して呟いていた。

 いつの間にか昼食を食べに家に帰ってたと思ってたらいつの間にか戻っていた長沢が綾人の苛烈な一面の声を聴きながら

「あぁ、あれは吉野の気性だ。一郎もそうだったが大旦那様もああいうお人だったから。こうやって聞いてると大旦那様を思い出して懐かしい」

「喜八よ、懐かしがったる場合じゃない。最年長としてどうにかしてこい」

 長老組の鉄治に促されるも

「新しい世代には新しい仲裁役がちゃんといる。心配する事はない」

 言いながら室内を見ながら磨かれた柱に指を滑らせてちゃんと仕事してるなと呟いていた。

 長沢のチェックよりも新しい仲裁役ってなんだよと圭斗一同は思うも


「二人とも近所迷惑を考えろっ!!!

 これ以上大声でわめくなら今夜は具なしのおじやにするぞ!」

「え?!うそ!それは絶対やだ!!! あの出汁が入ってるのに一切出汁の味がしないのに辛うじて塩味しかしないぐずぐずに煮とろけたヤツ二度と食べたくない!」


 ごーめーんーなーさーいーっっっ!!!


 そんな綾人の悲鳴を聞いて

「綾っち食べたんだ。

 って言うか何をして飯田さんに作らせたのかそっちの方が気になる」

 山田の呟きに全員が頷きながら

「ほら見ろ。ちゃんと仲裁役は側に居た」

 もう心配する事はないから仕事に戻れと傍に在った材木の残りで彫刻を始めた長沢は長年続けた仕事故に歪んだ指先で岡野と名前を彫って表札を作り始めた。



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