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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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星空が広がるように 8

 ぐったりとした足取りで庭へと向かえば既に賑やかなパーティは始まっていた。

 ちょうどピザ釜から何かを取り出していた。食欲もごっそりと削り取られて折角のご馳走も色鮮やかなものではなくなっていたと思ったは大間違いだった。

 色鮮やかなものはない。

 ああ確かにそうだ!

 ピザ釜から取り出したグラタンはポテトグラタン。

「綾人さんポテトだけのグラタンが好きでしたよね」

 何て言われればもうここはそれだけで天国だ。

 色鮮やかじゃないのはホワイトソースとチーズの焦げた白と茶色の芸術的なコントラストのみの世界だから!

 飯田さんが厚手のミトンでグラタンを運ぶ匂いにつられてふらふらとその後をついて行く。

 テーブルの真ん中に置かれたグラタンはいつの間にか俺の目の前にあり、小山さんも陸斗もあれ?いつの間に?と目をしばかせていた。

 ふふふ、誰が譲ると思っているんだ?飯田さんが作るポテトグラタンは皿の底にスライスされたポテトがぎっしりと敷き詰めてありその上にタップリの飯田さん特製ホワイトソースを絡めたマカロニと皿の底に敷き詰めたポテトがタルトのように、まるで白薔薇が咲き開こうとせんばかりに見た目にも美しく絶対期待を裏切らないとこの時の為に丹精込めて育てたジャガイモで蓋をして熱を逃がさないぞと言う仕様だ。その上にこれでもかとたっぷりとかけられた焦げたチーズ。

 誰だ?枯れていると笑うやつは。

 一瞬でもそう思った奴には食べる権利は与えん。と言うかいつもの通りこれ全部俺のですよね飯田さん?机の真ん中に置く意味わかんないんですけど飯田さん?と全員が席についた瞬間頂きますをして表面のチーズをたっぷりと絡めるポテトを掬って口へと運ぶ。どこまでも伸びるチーズをフォークで絡めとりながらチーズとホワイトソースにサンドされた薄いのにホクホクのポテトを舌先を火傷をしながら食べる。

 変化球でお釜の底にこびりついたほんのりオリーブオイルと塩気がプラスされたお焦げで掬って食べてもまた最高!

「んっ、めえええええええ!」

 もう至福すぎて何も考えられない!飯田さん神過ぎるよ!

 元々好物だったポテトグラタンをこれ以上とない芸術にしてくれた飯田さんになら竃でもキッチンでも家でも建ててあげると感涙。

 実際やっちまったけど、それでもこのポテトグラタンが食べれるなら安いものだ!レートが合ってないなんて些細な事だ!

 オーバーな表現なのはわかっているけど俺の中では家庭の味とか思い出の味なんてここに来てからの物しかなくて、ここまで幸せにしてくれるポテトグラタンは命の糧と言うしかない。今まで食べてきた市販のグラタンソースの味なんて置いてきぼりだ!

 あまりに美味しくて魂が半分抜けかけてしまうも、飯田さんは慣れた物で

「こうなるのは毎度の事なので皆さん気にしないでください。そしてもう一つ作ってあるので俺たちの分はこちらから取り分けますね」

 魂の抜けかけている俺の横で飯田さんはナイフを入れてケーキサーバーでグラタンを取り皿に取り分けていた。

「グラタンをケーキサーバーで取り分けるの初めて見ました」

 陸斗はなるべく尊敬する綾人を見ないように崩さずに取り分けるの器用な様子を褒め称えるも

「斬新と言うべきかも知れませんが、ポテトを敷いてあるから出来る技なのでしょうか」

「お前が手懐けた手法は見事と言うか、彼は本当に大丈夫なのか?」

 山口も小山も心配して綾人さんを見るも、見慣れた俺は力強く頷いて

「食べ終わるまでそっとしておいてあげて下さい。大丈夫です。迷惑はかけないので」

 ポテトを掬って食べては何かと一人頷いていて、マカロニを食べては拳を突き上げる怪しい食事光景に誰もが視線からそらすには十分な理由だろう。

 関わるよりも温かいうちに食べちゃいましょうと三人を促して食事を進めているも気がつけば取り分けた残りのグラタンも綾人の目の前に移動していた。

「こうなると今度俺も試してみようかな?」

「店でこんな状態になると営業妨害一歩手前だから試す時は注意しろよ」

 何を想像したのか山口は綾人を狂わせるポテトグラタンを食べながら

「次回お邪魔した時にして下さいね」

 ふうふうと息を吹き付けながらも確かにこれは美味しいですねと他にも料理があるのに陸斗までグラタンに集中しているのは綾人の至福の顔につられてのものだろうか。

 オレンジとグレープフルーツで香り付けされたよく冷えた炭酸水と交互に取りながら一生懸命食べる様は見ていても微笑ましく、飯田達は山水でよく冷やしたビールや白ワインを未だにポテトグラタンに取り憑かれている綾人を放置して楽しみだした。最初こそぎこちない陸斗もいつの間にかすっかり三人になじんでゆっくりと夜が更けいき、いつの間にか姿を現した街中よりも広く深い満天の星空の下で心ゆくまで楽しむのだった。

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