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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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冬が来る前に 12

 太陽が黄色い。

 太陽が昇る前でも記憶に残る映像を思い出しては何度体験しても慣れる事のない二日酔いの頭で俺は俺以外の二日酔い何て無縁の人達の食欲を眺めていた。

 ありがたい事に体に染みついたルーティンは日の出前にちゃんと起こしてくれて、烏骨鶏達を庭へと出動させる事が出来た。

 そしてトイレでリバース。

 その間に飯田さん父子も起きて来て二人そろって畑に足を運ぶのを見送りトイレで以下省略。

 お母さんも起きて来てご飯を炊いてくれる匂いにトイレ……

「完全に二日酔いですね」

「誰だ、俺にこんなにも呑ませた奴は」

「何言ってる、薫に止められても呑み続けたくせに」

 お父さんの冷静なツッコミ。

 はい、覚えてます。酔っぱらっても記憶は鮮明に記録されている俺の頭脳を少しだけ恨めしく思うのは吐き出す物がなくなっても食欲がわかないからだろう。

 具のない味噌汁をもらって緑茶を啜る。

 とりあえず脱水症状になってる体に塩分と水分、そして糖分として梨を貰った。ありがたい事に胃に負担を与えないようにとすりおろしてくれていた。

 お母さんありがとう。

 感謝と梨の冷たさと甘さを堪能する様にスプーンでちまちまと食べていれば

「おはよー、綾人二日酔いでしょ。相変わらず弱いな」

「宮下、味噌汁って具がなくっても美味いんだぜ?」

「何当然の事言ってるの」

 言いながらも食器棚の引き出しを漁って

「とりあえずそれだけ食べれたのなら二日酔いの薬。水分補給できるように粉末の奴だからしっかりお水飲んでよ」

 久しぶりのオカンぶりに遅れてやって来てまだ半分寝ている圭斗と烏骨鶏の小屋の掃除にさっさと出動したのは陸斗。陸斗に二日酔いの見苦しい姿なんて見せたくない圭斗はさっさと掃除に行かせた後スマホで飲んでいる薬の写真を撮るのだった。

「次来る時には買って来るな」

「あざーっす、渡してあるカードで支払頼んます」

「他に欲しい物は?」

「薬一式、宮下と相談して常備薬の補充を。後、湿布薬マシマシで」

 なんて言う御用聞きだと思うも宮下は知っている。こうして薬局のポイントを溜めて自分達の必要とする薬代を捻出している事を。当然綾人も知っているので同時にティッシュやトイレットペーパーも買いに行かせる。

 因みに単位は一箱。トイレットペーパー六個入りが綾人の基準でこれで冬を凌げる量だと言う。そしてダンボールは風呂場で薪に火をつける時の燃料になり無駄はない。

「でも今買うのは早いかなー、でも頼むならまとめた方が面倒じゃないしー」

 机にコテンと頭を預けてぼやく綾人に

「とりあえず車に乗せるのも限界がある。洗剤とかも必要になるだろうから今のうちから買いだめに行くぞ」

「洗剤、柔軟剤も。あと細かい物はLIMEするわ」

「あいあわらず人使い荒いな」

「あー、薬局に売ってる冷凍餃子食べたい。あれ意外と美味しいし」

「りょー」

 今時の薬局の有能さにお母さんもあれ侮れないのよねーなんて頷けば亭主と息子の目がきらりと煌めいた。今夜の飯田家の食卓は餃子に決定か?

 だけどだ。

「そういや飯田さん時間間に合いますか?」

「あー、余裕を持ってそろそろ出発しようか」

 時計はまだ五時を回った所。

 到着次第の新幹線に乗せて乗った時間で庵に向い来させる無謀とも言うべき家族リレー。

「そう言う薫こそだいじょうぶなのか?東京まで車なのだろ?」

「無事持ち帰るに決まってるでしょう」

 至極当然と言うようなドヤ顔。

 なぜなら昨日のうちにこっそりと取りに行った松茸を抱えていたから。

 前に宮下に教えた所とは別の場所は実は家からそんな所にと言うくらい近い物のそこまでの上等な物ではない。小粒で香りも今一つなのだけど、何故か今年に限ってそこそこの大きさになり、香りもこれぞ松茸と言う匂いを漂わせていた。

 ただし量が取れなかったので今朝の朝ごはんを炊き込みご飯にしてもらったのだが、炊き立てを食べれない悔しさはおにぎりにして確保して妥協する。

 飯田さんにはフランスの時と言い散々ご迷惑かけた青山さん達と食べてくれと渡し、同様にお父さんのお店への方へのお土産となっている。ご満悦な飯田家の方々を見ながらお茶を啜っていれば

「綾人ー、なんかいい匂い。

 あー、皆さん早起きですね、おはようございます」

 しれっと何時の間に来ていたのか先生がお風呂セットを抱えて台所に来た。

「先生もおはようございます。今朝は松茸の炊き込みごはんなのでお風呂ゆっくりしてください。早い者勝ちなので残っていると良いですね?」

「シェフ、時間は大丈夫か?早く帰らないと松茸の香りが飛ぶぞ」

 微妙な嫌味合戦にお父さんとお母さんもあらあらと楽しそうに眺めている。

 だけどフランスから戻ってきて前ほどではないような気がしたから、それなりに多少は仲良くなったのだろうかと思いながら緑茶の香りを消し去る二日酔いの薬を飲んで一気に水で飲み込んだ。

「まずい……」

「これに懲りたら周りに勧められてもほどほどにするんだよ」

 宮下のオカンぶりに皆さんは笑っているものの

「では、そろそろ我々は失礼しよう」

 お父さんが立ち上がった。

 すでに準備は整っていて、自分達が食べた物は片づけていた。

 そして飯田さんはちゃっかりとおにぎりを握って軽食の準備も万端の状態だった。

 レンタカーの返却場の変更が通ったのでトランクにたっぷりのお土産を詰め込んだ飯田さんとご両親は最後に仏壇に挨拶をして玄関を出た所で振り返り

「綾人、今年は良かったら正月家に遊びに来なさい。

 たまには他所の家の正月を体験するのも人生経験だ」

「父さん、どさくさに紛れて餅つき要員を確保するのはやめてください」

「それも人生経験だ。あの薪割の腕前なら餅をつくのも容易いだろう。宮下君と圭斗君と陸斗君だったな。良かったら勉強に来なさい」

「父さん、さりげなく人数の確保に走るのはやめてください」

「薫の部屋で良ければ泊まっても構わないから気軽な気持ちで来ると良い」

「母さん、綾人さんが来るようだったら俺も正月には帰りますから」

「まあまあ、今まで散々帰って来いって言っても帰ってこなかった子が」

 くすくす笑うお母さん。反抗期もこじれると大変ですねと先生までニヤニヤ笑う始末。

「良かったら高山先生もいらっしゃいな?」

 お母さんは仲がいいのねと誘ってくれるも

「先生は毎年ご実家に顔を出されているので、お見合いもあるようなので忙しいから無理ですよ」

 さらっと困らせないでくださいと言う方向からのお断り。

 先生は顔を引き攣らせていた物のお見合いはない物の間違ってないので申し訳なさそうな顔をしながら

「なかなか家に寄りつかない不肖な息子でして、正月ぐらいは実家で過ごす事に決めてます。申し訳ないです」

 なんて頭を下げるも今は実家暮らし。だけど朝晩顔を合わせる程度で週末はここへと逃亡。

 うん。正月ぐらい家でじっとしてろと言う奴だ。

「そうか、なら誘う方が失礼だ。

 どこぞのバカ息子にも先生のように親を慕う心があればいいのに」

 おやおや、何だか流れが悪くなりましたよ飯田さん?なんて思う間もなく飯田さんはすでに車に乗り込んでいた。いつの間に……

「ほら、父さんも母さんも。庵には連絡してあるんだから早く乗ってよ」

 飯田さん強い、なんてメンタルだと笑うよりも無言になってしまうもご両親は静かにだが楽しそうに笑い

「綾人よ、山も墓も気になるのは判らないでもない。ただまだ総てを受け継ぐには早い年齢だ。これも見聞を広めると思えばそれこそなくなった祖父母の方も綾人を喜んで送り出す物。

 体験こそ人生だ。

 無理にとは言わないし今度の正月とも言わない。

 美味い物をたらふくに食べに来るつもりで来ると良い」

「はい……」

 ここにきて人生の先輩からの教育にまだまだ見聞きする年齢だと言う事を気づかされた気がした。 

 二人は車に乗り込み、宮下が門を開けてくれて、ゆっくりと車は走って行く。いつの間にか陸斗も烏骨鶏を抱きしめながら見送りに来ていて一生懸命手を振っていた。

「で、正月行くのか?」

 先生のフラットな感情のない声。

 学校の授業はまともに出なかったけど、たまに出た時この声に何度眠りにつかされたか思い出しながら

「今年はいろいろしでかした分やる事が多いから。

 だけど、いつかは行ってみようと思う」

 そんな心動かす魅力的な誘い文句にいつかはと乗る事を決めれば

「上出来だ」

 先生が俺の頭をポンとたたいて、陸斗に少しお湯を沸かしてくれと指示を代ながら風呂へ直行し、俺は何だか凄く誉められた気がして、何がそんなに褒められたのか納得できなく暫くの間硬直するのだった。





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