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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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星空が広がるように 7

 結局俺が呼ばれた理由は竃で炊くご飯の具合を見ていて欲しいという物で陸斗は飯田さんの隣で野菜の切り方を学んでいた。元々包丁使いは出来ていたけどちょっとしたコツや魚の捌き方を教えてもらっていた。たくましい事に内臓を見て悲鳴を上げる事はなかったけどエラの取り方がどうとか、串の打ち方がどうとか……陸斗君。君がどこに進みたいのか心配になってきたよ。

 いや、今がその模索する時なのだろうからいろいろな事を体験すれば良いと思うもそろそろ方向性は決めておきたいなと家庭教師として考えるも兄貴の圭斗と大工目指すんだろと思い出せば、生活面から圭斗を支えるつもりか?!と少し圭斗が羨ましくなってしまった。

 左腕の骨にヒビが入ってるのに大丈夫かと思うも手は使えるし支えるだけだからと飯田さんの見本を見様見真似で見本以外の残り全部に串を打つのだった。

 その隣ではトマトを湯むきしてトマトソースを仕込んでくれる小山さんがいたり、勝手知ったる他人の家の納屋から七輪を持ってきて串を打った魚を竃から火をもらって焼き始める飯田さんがいた。

 台所横の部屋から楽しそうな台所を眺めていれば、納戸のような食器棚を見つけてしまったた山口さんは食器を取り出してはいろいろと楽しそうに眺めていた。

 店でも開けることができるくらいの量の全部を俺は把握してないけど、バアちゃんが言うには陶芸家や茶人が材木を見に立ち寄った時に置いて行った物もあると言っていた覚えがある。茶器や花器、掛け軸などは二階に大切に避けてあったなと思い出したから山口さんを連れてウン年ぶりの部屋の扉を開けた。

 案の定埃も積もり大掃除確定の部屋だけど、山口さんは目を見開いて、多分バアちゃんが置きっぱなしにしたままの状態の埃まみれの花瓶に恐る恐るというように手を伸ばしてゆっくりと触れ、底を見た後はもう俺の存在なんて意識の中から消え去っていた。

 そこからはなんか一人取り残されてしまい、ご飯も炊き上がったので蒸らしに入るからとだけ飯田さんに伝えておく。

 ピザ釜の方からはなんだか良い匂いがしてくるし、竃の方からも香ばしい香りが漂ってくるし、嗅ぎ慣れた七輪の魚の匂いも胃袋を刺激してくる。


「随分賑やかですな」

「内田さん。すみません、お仕事してる横でバーベキュー始めてしまいまして」

 すぐ横で遊んでいてすみませんと頭を下げるも内田さんは笑いながら

「綾人君がくる前だが一度母屋の屋根を修理した時があったが、あの時は二人に病院に行くから留守を頼まれてな。

 そりゃあ泣きたくなるほど心細かったさ」

「まあ、隣の家の生活音何て聞こえませんからね」 

 バアちゃんと二人でも慣れなくてイヤフォンをして眠った日々を思い出す。

「あの静かさに比べたらこの賑やかさは心強いよ」

 カカと笑う内田さんに浩太さんはいずれ引き継ぐだろうこの静けさに今から身震いをしていた。

「慣れたら慣れたで問題はないですけどね」

 万が一の熊対策として今は烏骨鶏が居る。呼び寄せるだけの餌かも知れないが、あいつらのチキンぶりに助けられた事は一度や二度ではない。

 当然この家の住人として退治させてもらったけど、猟友会の皆様が間に合って本当に良かったと毎回思っている。

 烏骨鶏を生贄に熊肉をゲット。

 ハイリスクしかないけど一度味を覚えたら食い尽くしても何度もやってくる奴らには退場してもらうしかないのだ。

 賑やかな音イコール人がいるイコール餌があると言う方程式が確立しないようにするのも猟友会の仕事だが、そんな奴らの生息地にこの家がある以上わずかな物音を聞き逃すのは死活問題だ。

「それじゃあ今日はもう上がるが明日も今日と同じぐらいの時間に来るが?」

「明日は飯田さん達も早朝に帰るので気兼ねなくどうぞ」

「そいつは悪いな」

「それはこっちの言葉です」

 内田さんは小さく笑って

「そう言えば近いうち森下がまた見にきたいと言ってるが、いつ頃来て良いと?」

 うーんと悩んで

「最初にもお話ししましたが金曜日は絶対休日でお願いします。あと今週の土曜日は病院に行くのでそれ以外なら」

 予定を思い出して言えば

「なんだ、それしか予定はないのか?」

 しかめっ面で言われてしまうもこの金曜日の為に体調を整えているのだ。

「まあ、この日の為に準備してるのだから」

「そうか?」

 理解できないと言うように首を傾げるもののそれを振りかぶって

「土曜日は朝から来るから、森下の相手はわしがしておこう」

「なんだ、土曜に来るならそう言ってくれれば良いのに」

 呆れながらも帰る準備をする内田さん親子を見送るように足を運べば

「病院とは、そんなに傷は深いのか?」

「あー、ちょっと縫ったので抜糸に行くだけです」

 そうか、と内田さんは小さく呟いて

「あの小屋に鎌をかける場所はない」

 数度呼吸をして浩太さんが何かを察して顔色悪く俺を見て、母屋に陸斗がいる事を知ってそちらを見る。

「アレはなんて事をしてしまったのか……」

 浩太さんはもちろん内田さんも顔を真っ青にして足の力が抜けて蹲み込んでしまいそうになるも

「陸斗は今やっと夢を見始めました」

 力なく頭を持ち上げ俺を見て

「内田さんが一級建築士の資格を持てと言ってくれたんですよね?」

「ええ?ああ、まあその場の成り行きでな」

 浩太さんから視線を逸らしての返答は本来孫の雅治君に向ける言葉だったのだろう。

「陸斗のやつその資格があればいつか圭斗と一緒に仕事ができるんじゃないかって張り切り出してね」

 言って苦笑。

「高校の成績は下から両手で数えるくらいの順位なのにやる気になりましてね」

 陸斗のやる気の驚きに成績の内容の酷さにさらに驚きと困惑が加わり随分酷い顔になっている。

「陸斗のやつは今やっと何かを始めようと夢を見て顔を上げ始めました。

 こんな事でまた立ち止まらせる理由にしてはいけないのです」

 夢を見るのは子供のうちだ。大人になったら容赦なく現実が立ちはだかる。夢を見る事もなくただ使われて終わる人生の子供時代なんてぞっとするしかなく

「それは雅治君にも言える事だと思います」

 返答は聞きたくないとぺこりと頭を下げて強制的に話を終わらせた。

 頭を下げたままでいれば何か言いたげな二人は言葉を発する事なく帰って行ったのを木々の間から見送ればどっと疲れだけがやってきた。

 




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