繰り返す変化のない俺の日常 10
久しぶりの我が家は雨に降られて家の中に籠る事となった。
とりあえず高校生達には勉強をさせて、一樹には先生がつきっきりで勉強をお願いする。緊張する姿が微笑ましいとみんなで眺めるのは数分にも満たない時間。各自勉強に集中する姿にただ遊んでいたわけではない事を理解して満足げな笑みを浮かべる。
卒業生二人は資格を取る為の勉強に励み、それを見て上島も一緒になって資格を取る為に二人に教えてもらいながら勉強をしていた。
上島の将来が迷走しているようだけど、進路の希望がかなわなかった時にはフォローできるような資格なので、ここで俺にこき使われるぐらいならそっちを選んだと言うようにおとなしくする様子に俺はそこまで鬼畜じゃねえと溜息を吐きながらこっちに戻ってきた無事を連絡すれば各方面から色々とメッセージが届いてきた。
その中に
『そろそろススキを貰いに行っても良いでしょうか』
井上さんからのメッセージがあった。
茅葺職人で日本全国の屋根の葺き替えに飛びまわる忙しい人だ。もっともここ数年は年齢からあまり遠出をしてないらしいが、国の文化財の建物の茅葺をしたりと言った仕事には必ず指名される有名人らしい。
何気に内田さんの人脈凄いなと感心しながら九月の連休を指定する。
「麓の家も完成したのでそのお祝いも兼ねて色々な人に声をかけたいと思います」
もっとも飯田さんの予定が都合付けばと付け加える。
この夏沢山の人に迷惑をかけた。
真っ先にフランスに来てもらった先生を始めフランスまで来てくれたみんなや俺が居ないのに麓の家を作ってその後の空気の入れ替えをしてくれた内田さんや長沢さん達。長谷川さん達も指示だけした草刈りに一切文句も言わず、不安定な山の天気の合間合間を見て柵も完成してくれた。
植田達三バカ卒業生も折角の夏休みだと言うのに俺の家に泊まり込んで家が傷まないように生活をしてくれたし、先生だっていつもの通り週末は覗きに来てくれるブレなさにはこの時ばかりは感謝した。
そして圭斗だって仕事の合間合間に植田達の様子を見に来てくれたり、大和さん達元吉野の職人さん達も不備がないか何度も覗きに来てくれたのだった。
まあ、孫がそこに居れば気安いのだろう水野さんが猟友会メンバーを引き連れて遊びに来ていると言うのが一番正しいのだが、それでも俺が居なくてもみんながこうやって動いてくれる事に感謝が溢れて止まらなく、それを言い表す為にこの山に招待してまた皆におなか一杯になってもらいたいと提案するのだった。
たとえ烏骨鶏の数が半数以下になったとしてもだ。
そんな俺はフランスから帰って来た疲れがまだ抜けなくてベットで休ませてもらっている。
「綾っちは無理するなって言う事を学習しないからくたくたになって熱出すんだから。せっかっくの雨って言う事は休めって言う事だから大人しく寝てなよ」
なんだかんだ面倒見のいい水野に言われるのも癪に障るが
「一人が寂しかったら先生が添い寝してやろうか」
「遠慮します」
ニタニタとからかう様に笑う先生と
「大人ってエローイ!」
なんてはやし立てる植田。
イラってするも、こんな言葉で感情的になる時点で疲れてるんだなと俺の疲れ具合を理解すれば
「部屋でごろついてるから」
「だったら昼飯が出来たら呼びに……」
「夕飯の時間まで寝てても良いぞー
むしろ起きたら飯を食う位でゆっくり寝ておけ」
先生が上島の気配りに言葉をかぶせた。
悔しい事に先生の言う助言は中々あたってる事があるのでしぶしぶではないが
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
素直に従った。
先生に気付かれるぐらい疲れが出てるのかなあとモヤモヤしながら部屋の片隅に置いてあるペットボトルのケースから一本取りだして
「植田、悪いけどさっき大和さんに晩飯の肉とか配達頼んでおいたから。
預けてある財布から支払頼めるか?」
注文した時点でお金を足しておいたからたりない事はないだろう。
「了解っす」
カタカタとノートパソコンから目を離さずの返事。
春に行く前までにある程度キーボードのホームポジションからの指の動かし方やショートカットキーの使い方を覚えさせたがそれなりに上達している様子の音にいつまでもゲームばかりしていたガキじゃないなとその成長を喜ばしく思いながらもたかが数か月であの馬鹿っぽさが鳴りを潜めてしまった事を少しだけ寂しく思うのだった。
そしてベットに潜り込んで部屋を真っ暗にする。
嗅ぎ慣れた自分の匂いの沁み込むベット、そしてしっかりと俺の頭の癖のついた枕。
見慣れた天井と部屋の配置。動画撮影用のカメラの位置がずれているが、そこは使うとき連絡を貰ったのでちゃんと元通り戻した事と理解する。
一カ月以上この部屋から離れていたが、何も変わらない最後に見た時の記憶のままにホッとしつつ、少し埃っぽい匂いに目が覚めたら掃除と洗濯をしようと何気ない日常の予定をたてて少しだけホッとする様に笑みを浮かべ目を瞑るのだった。




