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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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星空が広がるように 6

 陸斗と勉強の時間に戻り、良い歳をした大人達のはしゃぐ声を聴きながらの数学は身につくわけがないので国語の時間へと変える。

 国語はそれなりにできて現文は問題なかったけど古文が壊滅的だった程度でほっとする。


「授業と授業の合間や昼休みは大体図書館に居ましたので」


 本の虫の理由は納得できた。あまり感心はできないが、たくさんの本を読んだようでしばらくの間本談義に花が咲いた。そして俺の本棚にも陸斗の興味を引くものがあるらしく、夜な夜な本を読み漁る日々が続いている物の朝は俺が起きた少し後ぐらいに目の下のくまを隠せずに起きてくるのだ。

 折角の夏休みなんだからラジオ体操の音楽が流れる頃に食卓についていれば良いのにと思うのだが、陸斗の今までの生活習慣から自然と目が覚める時間は綾人が烏骨鶏を庭に放してまったりとする時間の頃。ちょうど良い時間だと綾人は感心しつつもこんな早い時間から子供を働かすなよ。俺でも五時過ぎまで寝させてもらえたぞと心の中で怒っておく。俺の早起きの理由はただ一つ。学校に行くのにこれぐらいの時間に起きておかないと間に合わないからと言うただそれだけの理由。最寄りのバス停から高校の近くのバス停まで約一時間。ただしうちの最寄りのバス停には二時間に一本しかバスは来ないのだ。

 問題のバスは朝の六時半にしかこないのだ。この家からバス停まで歩くと一時間かかる所を俺は四月生まれと言うアドバンテージを使って原チャリ通学、ただしガソリン代節約の為に最寄りのバス停までで役十分程度。勿論わざわざ学校にちくる奴もいたが、あいにく最寄りの近くのバス停に停めていた駐車場はうちの敷地内。そう、原チャリで走る道も敷地内。先生を黙らすには十分で安全だけには気を付けろと言われた。そんなわけで俺が起きる時間は五時過ぎとなったのだが当然のようにバアちゃんが朝ご飯と弁当を用意してくれる優しさには頭が下がる思いだ。

 最もばあちゃんは九時に寝て朝の三時過ぎごろに目を覚ますと言う働きものなので俺は付き合わないとまだ一緒に住む前から宣言していた。

 変わって陸斗の早起きの理由は単に農家の早朝労働の前に朝ご飯を用意する為。

 朝六時にご飯の時間の後に労働なので逆算すれば五時起きとなるのだろうが。農家時間では十分に遅いと言われるかもしれないが、ハウス栽培をしているわけでもないのでそうなってしまうのは仕方がないのだろう。最も祖父がいた頃はこんな風に孫をこき使ったり日の出時間過ぎに起きるなんて事はなかったと圭斗から聞いた覚えがあったが……

 今の陸斗の目の下のくまの理由は大好きな本の為に自由な時間を心ゆくまで堪能して、そしていつもの自分の時間を狂わす事なく繰り返す努力。

 昼食後はお昼寝をしているようだけど、時間の使い方は自由だ。俺も良く昼寝してるしな。

 バアちゃんが他界してから烏骨鶏を飼うまでの間、一日の大半を寝て過ごし、夜中に目を覚まして何かあるものを食べていただけの日々を考えれば陸斗はしっかりしていると思わず頭を撫でていた。


「綾人さん?」


 いきなり頭を撫でられてびっくりする陸斗に圭斗が可愛がるわけだと一人っ子では味わえない弟の存在の可愛さをなでなでと堪能していれば


「綾人さん、陸斗君。

 お勉強に集中できないようでしたら一緒に料理をしませんか?」

 誘いに来てくれたのは飯田さん。

 俺が陸斗をなでなでしている光景ににっこりと微笑んで

「これからは家庭科の授業です」

 そんな魅力的なお誘いに俺も陸斗も顔を見合わせて

「料理のプロの腕を見るチャンスだぞ!」

「はい!

 一度どんな風に作るのか見てみたかったです!」

 本を閉ざして机の隅にきちんと並べて三人で急な階段を降りて土間へと向かへば小山さんと山口さんが竃を興味深く眺めていた。

「綾人さん、陸斗君でしたね。

 私は飯田と同じレストランで働いてました山口と申します。

 こちらは同じく小山と言いまして、自称飯田のライバルだそうです」

「山口さん!!!」

 顔を真っ赤にして何言ってるんですか?!と喚く小山さんに飯田さんは「へえ?」とニヤニヤと意地悪く笑う。

「ええと、篠田陸斗です」

 飯田さんと小山さんを無視して山口さんを見上げて挨拶をする。空気読める良い子だと、年甲斐もなく勝手口から出て行って追いかけっこする三十代を可愛いなあと見送り

「所で竃でご飯はどうやって炊くのでしょう」

 さすがに経験がありませんという山口さんに俺はにっこりと笑う。

「でしたら是非覚えて行って下さい。俺たち怪我人なので重い物持つなと言われてまして」

 左腕と肋骨にひびを入れた陸斗と左胸に包丁が刺さってまだ抜糸のできてない俺だけなら無洗米を使って炊飯器で炊けば良いとの宮下のアドバイスを実行するだけなのだが、なかなか予定通りにはいかないみたいだ。

「何、それぐらい私でも十分でしょう」

 どこか楽しげな山口さんはお米は多めに炊きましょうか?六合ぐらいでいいでしょうかといってそれだけ炊くと言った。一合でお茶碗二杯分。五人で食べるのに多いのか少ないのか判断に悩むも

「おにぎりにして明日の朝ごはんにいただきたく思います」

「でしたら食べれるだけ炊いて下さい」

 山口さん達の方が食に関してはプロなのだ。しかも馴染みの人の食べる量は把握してるだろうし、ろくなおもてなしをした事のない俺が手を出せば足りないか多すぎるかの二択になるしかない。実際俺は一升ぐらい炊けば良いかなと考えていた大雑把ぶり。烏骨鶏達のご飯になる未来しかないと反省すれば山口さんの言葉に頷くことにした。

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