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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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手を伸ばしても掴みとれないのなら足を運んで奪いに行けば良い 4&5

手を伸ばしても〜の3話の重複がありました。

変速となりますがこちらで追加の4話と5話を掲載させていただきます。

ご連絡下さいました皆様ありがとうございます。

大変失礼しました。

「おや、貴方たちもそう思うかい?」

 

 隣の席の男性がこの国では通じないと思った母国の言葉を使って話に入って来た。

 知り合いかと思うも知らない顔。

 そして同席する女性も見るからに高級そうなドレスアップをしていてガチの金持ちだとようやく溶けた緊張が戻ってきた。

 だけどその女性は困ったかのような顔をして仕方がないわね、なんて言う理由は多分私達が二人の子供の年頃だからだろう。

「あの名店で修業した弟子たちの店だから期待していたが、残念だ」

「すみません。初めて来た国なので比べる相手が分りません。それよりも日本語上手ですね。国に居るのと変わらないくらい綺麗でビビってます」

 寧ろ俺達の方が日本語下手で得すみませんと言うも男性は機嫌よく笑い声を立てる。

「そうか、なるほど」

 なぜか不思議と一人納得をしている意味も分からない俺だが

「フランスを楽しんでいるか?」

 そんな観光客に対する質問。

「ええと、仕事で来ていて明日帰る予定なのでその前に一日フリータイムをもらって妻とディナーを楽しんでいます」

「楽しんでいただけているようで何よりだ」

 男はニコニコと笑いながら

「所で何の仕事をと聞いても?」

「ええと、城の修理にきました。あ、城って言っても立派なお屋敷って感じで、知人が購入していろいろ補修工事をしているので勉強に来ないかって誘われてフランスに来ました」

「ほう、日本人はやっぱり勤勉だ」

「はい、妻が庭師の職人で、俺も見習わないと気合が入ります」

「奥様まで!」

 実桜は少し恥ずかしそうにちょこんと頭を下げた。

 男性は手にしていた呑みかけのワイングラスを掲げての挨拶。とてもスマートな挨拶にこう言う大人になりたいと思うも絶対に会わねーと笑われるだけだろうから笑われないように成長したいと一つの目標にする。

「とはいっても明日は打ち上げなので一緒に働いた職人さん達とランチパーティの予定です。

 オリオールさん、城のキッチンを預かってくれてる人なんですけどその人の料理が……

 こう言ったら悪いのですけど、ここのレストランのお料理よりすっごく美味しくってすごく楽しみなんです」

 実桜もここの料理が緊張で味が分らないと思ってたけど違った反応で俺の味覚が正しかったかとほっとするも

「オリオール……」

 小さな声で呟く男性に実桜はそうだと手を叩いて

「明日お昼頃お時間空いてますか?」

 そんな問いかけに何をと言いたい所だが

「午前中は仕事があるが、午後は時間があるな」

 マメに返事をする男に実桜はスマホを取り出して

「ここだけど場所判ります?

 この城の改修工事をしているのですが、この城ってばお城なのにサッカーグラウンドがあってその側のクラブハウスを改造してレストランを作るんです」

「レストラン、それは魅力的だ」

 男性は胸のポケットからスマホを取り出して地図から大体の場所を見つけ出してマークを付けた。

「お城を買った綾人さんって言う人なんですが、連絡を入れておきます。

 よかったらランチパーティに来て下さい」

 おいおい、と思うも

「良いのかい?見ず知らずの間柄なのに」

 警戒しなさいと男性は言うが

「だって悔しくないですか?こんな高いお料理食べてこんなにもおいしくないんですよ!

 オリオールさんと飯田さんのお料理を食べて口直ししましょう!」

 女性の食に対する情熱に俺も夫妻もドン引きだが

「良かったらご家族も友人も誘ってください」

「良いのかい?勝手に人を誘って。

 それは綾人と言う人物を通じてやくそくするものではないか?」

 冷静に正しい事を言う男に実桜は首を横に振り

「綾人さんなら仲間内の評価ではなくそれ以外の評価を求める人です。

 身内びいきのレストラン何て開店しようとしないはずなので全く知らない人からの評価を欲しがると思うのです」 

 実桜もちゃんと考えての言葉だったので男性も黙り込んでしまうも

「あ、ですが来る時軍手と少し汚れても良い恰好で来て下さい」

 なぜにと思うも

「綾人さんって言う人の持論では働かざるもの食うべからずだそうなので、少し庭の木の実の収穫をお願いしたいのですがどうでしょう?」

 男性は何かを考える様に何度か瞬きをして

「それは面白い、是非とも参加させてもらおう」

 何故か二人は握手して連絡先を交換し人数は明日の仕事のメンバーをそのまま連れてきたいと言うので二十人くらいになると予想を立てた。

 思ったより大人数だったが、その分働けばいいと実桜は笑い、一期一会、ではない物の旅先で出会った夫妻はワインを飲み終えた所で席を立って明日を楽しみにしていると言って去って行った。


「実桜、良いのか?あんな約束勝手にとって……」

「んー。今綾人さんに言ったら何人でも連れて来いって返信が来たからいいんじゃない?」


 何とも言えない返信を見せてもらいながら綾人さん本当に良いのかよと頭を抱えていればいつの間にかデザートが運ばれてきて、最後まで残念なディナーでも本格的なフレンチを楽しんだと言う満足感に俺の腕に手を絡めて綾人さん達が待つ待ち合わせの場所へと向かうのだった。




 飯田さんのおすすめブラッスリーで腹がはちきれんばかりに堪能してご機嫌に宮下と圭斗と一緒に酔っぱらって語り合って笑っていれば、少しして岡野夫妻もやって来た。

 二人とも楽しんだと言う様に足取り軽く

「緊張して味が全くわかりませんでした!」

 想定通りの答えに飯田さんは手にもつ持ち帰りの料理を二人に見せて

「帰ったら夜食にしましょう。昔の知人の料理です」

「わあ!飯田さんの知り合いの方なら間違いないですね!」

 二人が入った店も飯田さんの知り合いの店だがそこは黙っておこう。

 すでに車を回していてくれたので直ぐに乗り込みこの料理を食べる為に寄り道せずに真っ直ぐに変えれば想像より早かったのかオリオールがまだこんな時間なのにと驚いていたが、陸斗が居るので早く帰って来たと言えば納得してくれた。

 一応こちらでは成人あつかいなのだが、陸斗のどこか幼く見える顔立ちに早々に戻りましょうと提案したのは飯田さん。

 決してワイン飲みたさに早く帰りたいと言ったのではないと思いたい。

 一時間ほどかけて城に戻ればご機嫌な凛ちゃんが嬉しそうな悲鳴を上げて実桜さんの胸に飛び込んだ。オリオールの元奥さんの腕に大人しく収まっていたが、凛、そう声をかけた途端飛び込む姿は一切になって無くてもこの状況を理解しているのだろうとその賢さには感心するのだった。

 両親と離れた時間を埋める様に早々に飯田さんが用意した夜食を手に二人は部屋に戻っていき、シッターの仕事を終えた奥様方には簡易ベットだけど遅いから泊まってってくださいと、事前にリヴェット達からも言われていたようで着替えを持って風呂場に行く様子に俺達は部屋のシャワーで十分だと諦めるのだった。

 だけどその前に飲み直そうかとダイニングで料理を広げるも飯田さんはワインと自分用の料理を手にオリオールとキッチンに籠り、結局そのまま朝まで出てこなかった。そして俺達もキッチンから溢れて来るいい匂いを摘みにワインと料理を摘みながら絶対今料理している奴美味しい奴何て呪文を繰り返して寂しく寝るのだった。

 

 そんないい匂いにさいなまれた一夜が明ければ今日も気持ちいいほどの青空が広がっていた。キッチンもダイニングも、俺達が最初拠点にしていた部屋も料理が溢れて良い匂いが溢れていた。

 すでにオラスとリヴェットも食器やグラスの用意と盛り付けと仕上げに汗だくになって準備していた。その中には見知らぬ人達もいて、年齢はオリオールやオラス、リヴェット達と似たような年頃。

 誰だろうと思えば飯田さんが新たに仕上がった料理を持って来た所で俺達に気付いてくれて


「おはようございます。

 どうです?おいしそうでしょう?」

「すごいとしか……

 リフォームした時もすごかったけど、圧倒的ですね、この量」

「前回より人数が多くなりましたので。オリオールも他の方も張り切ってます」

「他の方?」

 誰かいるのかと思えば

「ああ、人数が二十人程増えたと連絡を受け取った時点でオリオールに連絡したら量はもう増やせられないから新たに作るかってなりまして、昔の従業員に連絡をして材料を譲ってもらったり買いに走って貰ったりしたり、暇な人間も呼び寄せて手伝わせています」

「勝手に人数増やしたのは申し訳ないと思いますが、飯田さん」

「はい?」

 爽やかな笑顔に俺はそう言う事は一言言ってくださいと言う言葉は正しくないと言うように飲み込んで

「彼らのお給金と材料費を教えてください」

 忙しくて時間がないのに文句を言うのは違うし文句は言えない俺はただただ建設的に事務作業に徹するのだった。

 だけどその前に

「一度ご挨拶させてください」

「それぐらいならどうぞ」

 案内された決して狭くないはずのキッチンなのに三人の応援が入るキッチンは狭く感じる。暫くの間入口で眺めていれば一人は竈の中を覗きこんだり、スープのあくを取ったりしている。中央の机では発酵を終えたパンの生地を丸めて鉄板の上に並べて竈で焼こうとしている人もいるし、ひたすら山のような数のお菓子を作り続ける人もいた。

 そして飯田さんもその中に混ざるも誰一人動きを邪魔しないように、そして会話は料理の進行の確認ばかり。味付けに関しては一切文句は言わない物の一応味見だけはオリオールがしていた。だけどその味を確かめれば良しと言うだけで、それだけこの人達の腕が確かな事がうかがい知れる。 

 ちょうどオリオールがバーナーで魚の表面を焼き終えた所で

「おはようございます!」

 大きな声であいさつをすれば皆さん仕事の手を止めて俺を見た。

「ああ、アヤトおはよう。隣の部屋の料理は見てくれたか?」

「はい!全部食べたいのにどうすれば食べれるか今計算中です!」

 何故か全員に笑われると言う、おかしなことは言ってないのにと思うも

「あとすみませんでした。

 レストラン開業について色々な、まったく先入観のない人に料理を食べてもらいたくて勝手に予定より多い人数の方をお招きしました」

 申し訳ありませんと謝るも

「いや、それについては私も気になっていた。

 大工たちはみんな似たような年代だし、誰も文句を言わない奴らだ。

 それじゃあ大試食会にならなくて困ってた所だったから」

 そこは経営をしていた人だけあってちゃんと考えているようだった。

「あと急に応援に来て下さった方もありがとうございます。

 よければ仕上がった料理を食べてから帰ってください」

 言えば皆さん笑いながら

「もちろん久しぶりにオリオールの料理を食べて帰るよ」

「ああ、なんでも新作が幾つもあると聞いた。楽しみにしてる」

「こう言う期会でもなければまた一緒に厨房に立つ事はなかっただろうから、俺達も感謝してるんだ」

 三人のシェフは一度はオリオールの店から離れた物のまたこうやって一緒に料理を作れる事を嬉しく思ってくれているようでホッとした。

「それにオリオールを拾ってくれてありがとう。しかもオラスとリヴェットまで再就職だなんて、俺もこの冬定年だからここで再就職させてもらえると助かる」

 オリオールと一緒に働けることを喜んでくれた人がそんな嬉しい事を言ってくれるから

「その時はお願いします!」

 なんて軽い口調での受け答え。

 皆さん困ったように笑う物の

「オリオールも年なのでその衰えを考えれば今見ていたけどストレスなく働ける環境を得られるのを考えればすごくありがたい申し出なので、今でなくても本気で考えてください」 

 予約させていただきましたと半分スカウトにも似た言葉に少し考えるも

「この店の様子を見てから返事をさせてくれ」

 そりゃそうだ。

 一度店を潰したオリオールが再度店を開けても成功する保証何てどこにもない。ましてや年齢的にもとっくに衰えを迎えている人間に未来を見出すのは難しく

「慎重になるのはしょうがない」

 と言ったのはオリオールだった。

「私とて、私の手で回る規模の店を望んでいる。手伝いは必要だろうが、オラスとリヴェットぐらいでちょうどいい。だがそうなるとまたカオルみたいな子供を育てたくなる、私のジレンマに周りを巻きこみたくはない」

 受け継いだレストランを守る為に家族崩壊に導いた経験が慎重を覚えて、それは一つの恐怖と言う形でオリオールの中に残っているようだった。

 とは言え

「人ではそれでも足りない。再就職先が無ければここに面接に来い。今回の仕事が既に一回目の面接になるだろうから、アピールすると良いぞ」

 何て俺は既にオリオールに振り回されていて失笑してしまう。

「まぁ、これだけ美味しそうな料理を見ればもう十分だから。

 それよりもそろそろ一番最初のお客様がやってくるから、お願いします」

 言えばオリオールは時計を見て

「ああ、そろそろマイヤーが来る時間だな。朝食はカオルが準備してくれたから向こうの部屋で食べてくれ!」

「はい!俺達も起きた順番で食べさせていただきます!」

 なんて言う合間に

「オリオール!」

 実桜さんが凛ちゃんを連れてやって来た。

 それだけでオリオールは凛ちゃんの離乳食を手渡し、このやり取りも今日が最後かと寂しさを覚えるも、まだ眠そうにする子供の出現に食堂の空気が欲懲りとした

 そして実桜さんは俺に向かってオリオールに言う様にお願いされて

「何でこの料理が今食べれないの!!!と彼女は嘆いております」

 作られる身にケーキに目が輝いてしまう様子にまけたのはパティシエの方。

 ケーキの切れ端にクリームを付けて実桜さんに贈呈。

 実桜さんは嬉しそうに掲げた後そのパティシエさんの頬にキス。

 ああ、こっちの人達に染まってるなーと思う合間にオリオールの料理の匂いをかぎ取った凛ちゃんがご飯食べたいと暴れ出したのでキッチンから退場。

 その後ろ姿を笑って見送れば

「さあ、綾人さんも急いで食べましょう。本日の主役ですので早めの準備をしましょう!」

 飯田さんから促されるも

「あー、今日の主役は絶対この料理だから。

 俺料理に負けたー、でも悔しくないー」

 思わず本音を零せば皆さん声を立てて笑ってくれるのだった。

 



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