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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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優雅な城主には程遠い 5

 夕食と言うべきか朝食と言うべきかと考えながら食べればそろそろ外が静かな時間。

  昨日はどうだったかと宮下に聞けばカールがもう少しこの城を探検したいと俺が昨晩早々に寝た為に城にあったベットで寝れるようになったためにお役御免になった折りたたみベットを使って空き部屋に泊まってたと言う。

 もう、そう言う事は先に言ってよ。

 部屋の掃除とか来客用ではないが一応いくつかベットを使えるようにしていたのに何でよりによって折りたたみベット何て使うかななんて思っていれば

「屋根裏に宿泊されたのです。運び込めるのはそれしかなかったですからね。パリの夜景が見えるからとか言って、今朝は中々健やかなお目覚めでしたよ」

 デザートにリンゴのコンポートを乗せたパイを頂きながら

「カーテン設置してなかったのに」

「鎧戸で十分だったそうです」

 逆に真っ暗じゃんと思うもパリの街並みを眺めながらって事はフルオープンだっかと朝日眩しくてごめんなさいとカーテンの発注もしないとなと脳内メモにはりつけておく。

「そう言えば何か出かけるとかどうとか?」

 思い出したように飯田さんが聞く。

「いや、先生の時観光とか一切時間取らなかっただろ?オリオールとかマイヤーにずっと小言を貰ってたから。少しはフランスを体験してくれって言うから出かけようかってね」

「ああ……」

 それだけ言って少し遠くを見るような視線の飯田さんだったが何度か瞬きをした所で

「夏休みの思い出が折角フランスに来たのに城の中だけじゃ退屈ですからね。

 少しは体験学習ではありませんが異国の空気に触れるのも大切ですよね」

 なんせフランスに来てもやってる事は山の上と同じだ。

「挙句に陸斗はずっと勉強と保育しかやってない。凛ちゃんが懐いたのは良いとして、折角フランスまで来て何も遊んでないのは可哀想だ」

「まあ、仕事で来てるとはいえここしか知らないって言うのも可哀想ですね」

 そんな思いを先生に欠片でも向けれたらオリオール達にチクチク言われなかったのだろうけどと反省をして

「そんなわけで明日は遊びに行こうかと思います」

「良いのですか?明後日は打ち上げでランチパーティの予定でしょ?」

 因みにそれが終わった夕方に圭斗達は空港に向かってそのまま日本に帰る。

 物凄いハードワークだが飛行機の中で寝れば時差の苦しみも半減できるだろう。こちらに来る時緊張して飛行機の中で寝れなかった宮下を思えばそれぐらいがちょうどいいと俺は思うも

「浩太さんや山川さん、岡野夫妻はどうなってます?」

「一応事前に聞いてはあるんだけど浩太さんはこちらの人達の技術を学ぶって言ってるし、山川さんは何度か来た事があるから空港でお土産を買えればいいって言ってるから無理に連れ出そうとはしないけど岡野夫妻は街に行きたいって」

「凛ちゃんはご一緒にですか?」

「あー、それについてはリヴェットが何か対策をしてくれてるらしい。明日の朝まで待ってくれって」

「あてになりませんね」

 一緒に働いていたのにきっぱりと言い切る飯田さん。え?なんて思っていれば

「リヴェットもそうですがオリオールもオラスもみんな女性が困っていれば手を差し伸べる奴らばかりなのです」

「女性ばかりじゃないでしょう?」

 飯田さんだってしっかりと助けられてたはずだと言うも

「レディファースト、この国ではその精神徹底してますよ」

 辟易と言うような顔はそれを勘違いして結婚を意識した過去に繋がるのかとワクワクしながら耳を傾けていればさすがに飯田さんもあまり語りたがらない話に繋がるのを思い出してかくしゃっと顔を歪める。

 これ以上つっこむとへそを曲げられるのでこの話はここで終わりにする。

「じゃあ、凛ちゃんの件はリヴェットさんの答え待ちだね」

 何って話している間に俺だけ一足早く食事を終えていた。だけど時計を見れば山ではいつも夕食を食べていた時間。通りでお腹が空いたわけだと納得すれば

「飯田君!悪いけどごはんもらえる?食べたらもうひと踏ん張りしたいからって、綾人さんおはよー!」

 これからも働くと言うのは岡野妻。実桜さんだったなと少し変わった名前に印象は深い。桜が実を付けるなんて、ないわけじゃないが自家受粉しないので他の品種の花粉で初めて受粉して実になると言う流れになる。花弁が散った頃見た事あるかもしれないが、ちゃんと成長する所はあまり見た記憶もないし、どっかの公園で奇跡的に実った桜の実を食べた友人はあまりのまずさに凄い顔をしていた。とは言えこの名前を娘につける親もまた勇気があるなと、だからこんなにも男勝りになったのかと思ってしまう。男の子に心太と名前を付けるような感覚ではと思うも、ここまで逞しく、そして今では一児の母だ。岡野夫事蒼さんをここまで真っ直ぐで勤勉な職人にしてくれた人なので応援をしてあげたい気持ちは膨らんでいる。とは言え明日のお出かけが楽しめる様にと俺が準備するだけだが……

「実桜さん、労働の時間守ってくださいよ!」

「判ってはいるんだけどね。ほら、最後まで参加できないから少しでも触れていたいって言うかさ」

「暗くなるからあぶないですよ?」

 飯田さんも止めようとするも

「大丈夫よ!鋸とハサミを持って庭木を剪定するだけだから。重機は乗り回さないよ」

 指をさすのはマイヤー達が来た時にボコボコにして行った植木たち。素晴らしい事にこの季節の木々の成長は早くだいぶましに見えるようになったので凄いなと植物の逞しさに感心をしている間にオリオールが用意した晩ご飯をものの数分で食べ終えればオリオールは目を見開いて驚いていた。

 うん。多分この城に居る中で一番男らしいのは実桜さんのような気がしてきた。

 最後にぐびっとスープを飲んで口を拭い

「それじゃあ少しでも明るいうちに切って来るね」

 朝からずっと働きづめなのに足取りの軽い様子を尊敬してしまう。

「うちの山で働かないか誘いたい」

「えー?その時は俺と凛ももれなくついて来ますよ?」

 からからと笑いながら手慣れた様に凛ちゃんを抱っこして「あやとおじちゃんですよ~」と刷り込みだしていた。

「おじちゃんは辞めろ、お兄さんと教えてくれ」

「二十歳以上の差があってお兄さんとはずうずうしいですよ」

 それでもおじさんとは呼ばれたくないのは俺が独り身だからだろう。

「それよりも明日行きたい場所決めた?」

 俺以外の人に用意されていく料理の配膳の邪魔をしないように一番キッチンから遠い場所に位置どれば

「金無いんでルーブル美術館行って後は街をぶらついて折角だからどこかの店でちゃんとしたディナーが食べればと思ってます」

 ちゃんとしてなくっても良いんですがと言う断りを入れるのはやっぱりまだ若い二人の経済的な問題だろう。

「折角ここまで来たのだから何か思い出になればって思ってます」

 照れながら言う元ヤンキー君はかなりの愛妻家。凛ちゃんもこの年で人見知りも少なくにこにこしている様子からこう言うのを幸せ家族かと綾人は学びながら眩しい物を見るように目を細めてしまう。

 それを見ていた宮下と圭斗は綾人にも幸せを教えてくれる家族が出来ればいいのにと、地雷にも似た言葉は言えずにただ願うのだった。






 

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