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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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488/957

前向きに突っ走るぐらいがちょうどいい 7

 城の裏側から出る通路を使って裏庭に出れば城の影で薄暗いはずの庭は先生が草取りやら枝打ちを頑張ってくれてかなり見れる状態になっていた。長い事放置されていたようには見えないものの、まだ枝の切口が新しいのが整えたばかりだと証明している。 

 夜中に騒いでも誰も文句を居ないので飯田さんと巻きこんで小屋の中の残置物を処分した馬小屋を一同どこか絶望した視線で眺めるのだった。


 いろいろ味のある家具があったがシロアリにぼろぼろになった机やイスは少し足で小突いただけで倒れたり、抽斗はそこが抜けたりと再利用が無理と判断した。一応サンダーがあったので木の表面を撫でてみたが、何も処理されてなかったために空気中の水分、要は湿気と経年劣化から磨いても綺麗にならないと言う事が判った。念のためにと引出をチェックしても何も出てくる事もなく、飯田さんが斧を持って来たので薪用に小さくしてくれるのだった。鋸じゃないんだと言えば、他の家具も切らなくてはいけないのでと俺に鋸を贈呈してくれた。俺はそれを無言で先生に押し付けて裏の花壇を耕しだした。先日刈り取った雑草を混ぜた花壇だがさすがに量は減ったものの肥料になるにはまだほど遠い状態。今やるのは空気を含めて新しい雑草を足して土で覆って蓋をする。随分と土ががちがちになってたので一度二度混ぜただけでは理想のふかふかの土にはならない。

「綾人よ、コンポスト造らないと無理じゃね?」

 なんて先生は既存の花壇では容量が狭い事を指摘してきた。俺も判ってたが、この短期間でどれだけできるかが不明だからと悩んでいた所だが……


「残りの日数でこの馬小屋を裏庭の隠れ家に改造する」

 一陣の風が俺と宮下達の間を通り抜けて行った。

 まるで何を言ってると言うような視線の皆様に理解してもらえるように扉を開ける。

「まずは内覧会。

 馬番の部屋と馬達の部屋、そして飼葉を置くように屋根裏があります」

 スマホのアプリを起動して壊滅的なセンスで描かれるこの馬小屋の平面図も同時に見せる。あまりにもわかりにくい平面図に圭斗と宮下は仕方が無しに馬小屋に入れば山川さんと浩太さん、凛ちゃんを連れた陸斗も入って来て、遅れてやってきた岡野夫妻も急ぎ足で馬小屋にやって来た。

「あまり獣臭くないな」

 そんな第一印象。

「どちらかと言うと黴臭いと言うか、埃臭いだな」

「それー。先生と残置物の撤去までは出来たけど、掃除までは完ぺきじゃなかったの」

 言いながらバールを持っていた山川さんが荷物置き場の板を置いただけの天井を突けばすぐにパラパラと砕けて穴が開き

「この天井は使い物にならないな。屋根は外から見る限り大丈夫そうだし、雨漏りの後はない。取り払っても問題ないだろうが、だけど床は何とかしないとな」

 蹄で踏みしめられた地面は抉られたり生活感があったと言う様にへこみがあり歩くのにも不便を感じる。

「土間を作るより床を作った方が早いっすね」

 圭斗も地面を軽く蹴ったり、扉の枠がやけに高いから十分床を作れる高さがあると言う。

「そうだね。厚めの板を使って断熱効果を期待しよう。

 壁は、このままの風合いも悪くはないと思うけど?」

 そう言って俺を見る浩太さんが言う通り、大きな石造りの壁は漆喰を塗らなくても味があり

「これをこのまま生かしたいですね」

 その意見には大賛成だと頷く。

「となると窓を変えた方がいいね。歪みが酷いし、この窓何て開かない。一度ガラスを取り出して枠を作り直そう。古いガラスだから二重窓にして断熱しないとね」

 西野さんの所に修行に出掛けてもうすぐ一年。こう言った事は当然と言うように出る言葉に宮下の成長が分り

「だったら扉の修理も頼むな」

「了解」

「あと隣の部屋とこっちの部屋間の壁に窓を作って欲しい。馬小屋側にカウンターを作って小部屋にミニキッチン作って欲しいな」

「気楽に言うなぁ」

 圭斗は言いながらも手で壁を叩きながらどこに柱があるか探っている。だんだん乗り気になってきたようだ。

 馬小屋用の掃除の為に水道と排水設備はある。電気も通っている。いつから使ってないのかわからないからエドガーに調べさせたらその前の前の持ち主が整備していたと言う。

 馬を飼い散歩をするのが趣味だと前の持ち主が聞いていたのを俺に伝え教えてくれていた。そう、あの広大なサッカーコートは元々馬を話す為の庭だったのだ。広大でフラットなわけだと納得しながらも目の前にある錆びついた水道管が生きているかどうか判らない。

「これは一度こっちの人に見てもらわないとな」

 浩太さんの意見に頷けばオリオールがやって来た。

『アヤト、皆さん待ってるぞ』

『すぐ行きます!』

 大きな声での返事。

 側に居た飯田さんがその間に通訳すれば皆さんと一緒に城の中をショートカットして表へと向かえば既に皆さん揃っていて、綾人は初めて見る職人さん達の人数にふむと考える。

「あー、綾人悪い顔してる。絶対この人数ならどこまでできるか工期の期間の短縮を狙ってるー」

「ああそうだな。どれだけ効率よく回してどこまで手を入れようか企んでる悪い顔だな」

 宮下と圭斗の分析になんとなく俺を理解し出した浩太さんと山川さんも他に何が出来るかと頭をひねらせる中綾人は昨日までこの中に居なかった人物を見つけ出して手招きした。

 その二人を隣に置いて

「おはようございます!今回この城の修復をお願いしましたアヤト・ヨシノです。気軽にアヤトと呼んでください!」

 そんな挨拶に気の良い皆さんは拍手でこたえてくれた。

「今回俺のフランスの滞在期間の短さにかなり無理な工期注文をしました。それを何とか采配してくれた皆さんおなじみのバーナードです!」

 俺の挨拶以上に皆さん拍手と口笛で応え、バーナードが若かったらこんな顔なんだろうなと言う人が一番囃し立ててバーナードに拳骨を貰っていた。

「そして建物をハードと言えば家具や食器がソフト、そう言った物をかき集めてくれる事に協力してくれたカールです!」


 バーナードみたいな茶化す事無く盛大な拍手を送る当たり皆さん顔見知りで尊敬を向けているよな気配が読み取れる。アヤトはフランスに来て連絡を取ってからずっと付きっきりでヨーロッパの歴史をカールに教えてもらいながら歴史背景からの食器や家具の文化を学んできた。実戦で買い物もしながら、カールの名前と伝手と言う保護を受けながら教えてもらった記憶とフルに照らし合わせて実物を手にして目を鍛えるのだったが……

「これ……」

 記憶力だけは良いのは自負している。その記憶がカールの知識を加えて一枚の皿を見つけ出したのだ。 

 大量生産品、と言うほど大量ではないがシリーズものとして今も皿の裏のマークは微妙に変えられて販売されている人気シリーズ。山とある同じものの中で俺は記憶する傷に頭の中がショートしそうなくらいの衝撃があって、それからカールに無理を言って店の主人にこの時仕入れた食器類を全部見せて貰ったり、仕入れ先を教えて貰ったり、その時誰が何を買ったのか調べたりしながらカールとバーナードを引き連れて探しに飛びまわったのだ。

 オリオールの店で使われていた食器類や調理器具類がどこに流れたか家に居るようには無理だが可能な限り怒涛のように調べ、カールの伝手をフル活用して買い回ったのだが当然すんなり売ってくれたりもされなければ相手にもされなかったり、向こうも欲しくて購入した物、手放してくれない物も当然あった。

 だけど何とかして手に入れる事が出来た食器はきっと相場より相当高いのだろう。カールの顔が険しくなっていったけど、俺に出来るのはそれを手に入れる事だけだから。決してオリオールに喜ばれる事ではないだろうが、再出発の彼には戒めとなる物が必要だし、何よりも思い出だ。

 俺みたいに記憶力が良いわけでもない彼だがそれでも愛した食器を一目で見抜いてみせたのだ。金額では表せない価値はそれこそオリオールの家の歴史そのものだと俺は思っている。

 ジイちゃんやバアちゃんが特別な時に出してきた大切に残した食器のように。

 

 「俺一人ではドアの建てつけ一つ直せないけど、こうやって沢山の方の手を借りて城の再生はちょっと後回しにして一つ一つ直して行きたいと思います。全部だと何年先までの話しになると思いますので、まずは目先のレストラン……

 オリオールの料理食べてくれましたか?この料理をもっとたくさんの人に食べてもらえることを目標として皆さんの力を貸してください!」

 手を振ってよろしくお願いしますと言えばすぐ側に居たバーナードが手を上げて俺とハイタッチをすれば、カールも手を挙げて頑張ろうとハイタッチ。よくわからない流れになったけどバーナードさんの息子さんもそれから仲間の職人さんともハイタッチと言うカオス振りの中何とか抜け出ることに成功してひりひりと痛い手に息を吹き付けながら一度食堂へと向かう。

 そしてカールとオリオールの対面。

 オリオールはカールの両手を包むように握りしめ、深く頭を下げるのを俺は飯田さん、オラス、、リヴェットと見守るのだった。

 



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