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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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心は広く持ちたいと言う事を願っております 9

 昨日とは違い時間通りにお昼を食べて、時間通りに仕事が終わった。

 きちり、きちりとしているのは時間になると飯田さんが鍋と麺棒を持って来て時計代わりにガンガン鳴らすのが最大の理由だ。

 皆さんその音はさすがに辟易としてか飯田さんが鍋を抱える姿を見ただけで切り替える姿には何だかトラウマのようであの穏やかな人の隠れた一面が見えて少し警戒心を持ってしまう。宮下はあまり気にしてないようだけど、俺を含めた皆さんは明らかに覚えているようにも見えた。

 まぁ、昨日の姿は中々に強烈だったからな。綾人が

「忠犬だったのに狂犬だった」

 なんてぼやいていたのを思い出してそう言えばさと宮下に言えば

「番犬には変わりないからいいんじゃない?」

 綾人の扱いの雑さを改めて思い知る事になった。

 俺と同様で宮下にとっても恩人なのにと思うも

「恩人だからこそ綾人が望むのは対等な関係の友人だ。パシリにされるけどそれににあった物もちゃんと返してくれている。レート換算がちょっとおかしいけど、悪い事をしたらちゃんと怒ってあげるのが友人だと思うから。

 それは綾人だけでなく、飯田さんにも当てはまるし、もちろん圭斗にもだ」

「ちょっと会わないうちに随分物事を考えるようになったな」

 感心してしまう。

 いつも綾人の金魚のふんと言うか綾人のおまけと言う感じで綾人のイエスマンなだっただけにこれを成長と言うのかと自分は成長しているのかどうか圭斗は考えてしまう。だけど宮下は難しい顔をして

「綾人にとって真実俺達が居なくても何も困る事ないと思うんだ」

 それは衝撃な告白だと思った。

「金銭的な面でも、知識的な分でも、こうやって動こうと思えば世界の裏側にだって迷わずに来れるんだ。

 俺は先生に行けと言われたから動けただけで、こっち来てから綾人が作った人脈を見てみろ。お金が動いているからとはいえここまで人を動かす事なんて出来ない」

 悔しそうな表情に成長したつもりだけど綾人はもっと上を行っていると認めたような言葉に俺も気付かされて悔しく思う。何今頃そんな事を宮下に気付かされてるなんてと恥ずかしく思うも

「だけどそれだけ凄い綾人でもこの間みたいな家族の事になると年相応、ううん。親に捨てられた時のガキになるんだ。

 抱えきれない、捨てきれない思いを無駄に頭が良いせいで欠片も忘れられなくて。忘れればいいのにって思うのに無理だからって新しい事を覚えて記憶の隅に追いやるなんてほんとバカだなっておもうとね、なんだかほっとけないんだ。

 これからもきっとあんなふうに一人で泣くだろうから、俺はきっとあんなふうに泣く理由なんて一生理解できないから、ずっとそばで見守る事にしたんだ」

 それしかできない無力だと言う様に笑う宮下は「今は物理的な距離があるけどね」と苦々しい顔をする。

 まるで綾人が親に捨てられた事を自分のせいにするような感情移入に宮下の不器用な危うさを見つけてしまうからすぐにその思考を霧散する様にがしゃがしゃと乱雑に頭をこねくり回せばもうさっきまでの不安げな顔はない。

「なにすんだよ!」

 逃げる様に走り出した宮下を追いかけて山川さんにちょっと離れますと断ってから宮下を追いかけて行けばちゃんと宮下は皆さんの迷惑にならない方に走り抜けていて……


「飯田さん!圭斗が酷いんです!」

「ええと、おなかすいたのかな?」

 全くよくわからないけどと言う様にあーんと言いながら陸に食べさせようとしていたシナモンドーナツを俺の口の中に突っ込んでくれた。

「あっつっ?!」

 おもわずふきだしてしまえば言葉も判らないオリオールが噴き出して笑い、凛ちゃんの面倒を見ていた陸斗も思わず凛ちゃんを抱えて逃げるのはさすがに酷いと思う。

 あわてて陸斗の飲みかけのミネラルウォーターだろうかを貰って口の中を冷やすも、常温ではどうしようもないのでとりあえず慰め程度に飲まして貰えばおやつの時間も終わった為にオリオールの助っ人の二人はいつの間にか帰ってしまっていたようだった。

 そしてことことと煮込まれる鍋の匂いに今夜はスープなんだとスンスンと鼻を鳴らしていれば飯田さんは気をよくしたように小さな皿に取り分けて

「味見してみてください」

「あ、一番おいしい奴」

 宮下が喜んで手を伸ばせば飯田さんは笑いながらオリオールに説明をするのだった。さすがと言うかオリオールは飯田さんの師匠だけあって俺にもたっぷりと小皿で味見をさせてくれた。

 夕方のもうすぐ仕事が終わろうとする時間。車の音が聞こえて来れば練習から戻ってきたオリヴィエと夕飯を一緒に食べると言う様に自称賑やかな食事が好きなマイヤーもやって来た。

 そんな二人を見て飯田さんは大きな鍋と麺棒を抱えて

「じゃあ、そろそろ終わりですって言ってきますね」

 なんて足取り軽くキッチンを出て行くのをオリオールが呆れながらも笑っていた。

 何だかこんなにも楽しい場所なのに、綾人が気付いた縁の中に綾人が居ないなんて寂しいなと思いながら一体いつ帰って来るのかよと心配になってしまう。

 どこかで迷子になったか、知らない人について行ってしまったか。

 そんな事あるわけない綾人だが宮下に言わせたら好奇心のままどっかに足を延ばしているんだろうと言う。そうやって言われたら確かに一番あり得ると唸ってしまえば暫くもしないうちに車が一台、また一台と去っていく音が聞こえ

「ああ、宮下君も圭斗もここでしたか」

 山川さん達が戻ってきて先シャワー浴びさせてもらいますと通り過ぎて行った。勿論暫くして戻ってきた岡野夫妻もこれまた見事に埃塗れで

「凛ちゃーん!シャワー浴びたらご飯にするから待っててねー!」

 親の顔を見て恋しさが沸いたように手を伸ばすも手早くシャワーから戻ってきた山川さん達と交代する様にシャワーを浴びに行って、自分の事より子供を優先する母親の姿を綾人に見せても良い物かと不安を覚えれば

「圭斗、綾人は大丈夫だよ」

 不安を隠さず、俺を安心させるような宮下の声にそうならいいなと信じたかった。

 まぁ、それは当然杞憂になった。

 まるで大工チームと入れ替えのように綾人は戻ってきて

「ただいまー……。

 り、凛ちゃんがいる?!う、うわあああ!もうこんなに大きくなったんだね凛ちゃん!!!ほっぺぽくぷくだね凛ちゃん!!!」

 なぜかいきなり親戚のオヤジよろしくメロメロになっている様子にきょろきょろと周囲を見回して

「お、親の目がないうちに抱っこしてもいいかな」

 抱っこしてあやしていた陸斗に変って抱っこをしようとする物の

「綾人さん。まずは手洗いうがいです。そして凛ちゃんと遊ぶ前に少しお話をしましょう」

「あああ、飯田さん今日も男前ですね……」

「何やらアホほど宅配が届いたのですがみんな綾人さんのお買い物でしょうか?」

「ええと、もう付いたんだ!」

 視線を彷徨わせ汗をだらだらと流し、けっして飯田さんと目を合わせないその様子に何をしたんだと思えば

「さて、今回のお買い物合計幾らだったんです?!

 無駄遣いしないでくださいって言ったけど、箱の中身を一応確認させてもらいましたが、バカでしょ?!アホでしょ?!」

「えええ…… せっかく全力で買い集めたのに……」

「ええ、そうですともね。なので夕飯まで少しあちらでお話をしましょう!」

「いやあああぁぁぁ!!!リアル凛ちゃんと遊ぶんだああ!!!」

 リアルってなんだよと思うけどずるずるとひきずられていく様はここが古城と言うのもあって少しばかりホラー臭さを覚えるが


「まぁ、綾人にはああやって叱ってくれる人がいるから心配ないよね」


 心底どうでもよさ気な宮下の言葉に、俺は頷く以外の選択が出来なかった……





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