星空が広がるように 3
飯田さんが来る日のルーティンを陸斗がいても繰り返す。ご飯を食べて五右衛門風呂に入った彼をバアちゃんの梅酒の力を借りて眠らせる。場所はいつもの通り縁側で、障子ごしの柔らかな陽だまりの中でくーくーと寝息を零すまでは数分もかからなかった。ここからはいつもなら山の手入れとなるが、怪我もしているので陸斗の勉強に時間へと変えれば程なくして内田親子がやってきた。
浩太さんは陸斗の顔を見ると何か言いたげに、だけど鉄治さんが挨拶と仕事の予定を告げて小屋の中へと引っ張って行ってしまった。雅治の親だけあってどことなく似ている浩太さんにすっかり顔色を悪くしているが
「陸斗は何も間違ったことはしていない。
家族がいきなりバラバラになって心の向ける方向が分からなくなった浩太さんだって戸惑っているんだ。
自分でした事は自分でケジメをつける。陸斗も雅治君もそう言う年齢だと言う事だ」
自業自得だと言うも陸斗の俯いてしまうその背中を見て
「内田家は大変かもしれないが、お前だっていつまでも他人に振り回されるほど時間はないぞ。あの親と離れれたと言っても世間は篠田家の事情なんて知らないからハンディの方が多い。それに圭斗を支えるのがお前の役目になるんだ。少しでも多く物を覚えてあいつの力になってやるのが陸斗の仕事だと思うんだ」
言いながら本日の勉強にと作ったテキストを用意する。本日のメニューは数学で案の定顔を引きつらせる様子に九九から確認するつもりだ。先は長いがこれも毎年の事なので俺の忍耐力も出来上がっている。
自慢じゃないが記憶力は良い方だ。なので先生に答案の添削をさせられた時の問題はだいたい覚えている。
テストの内容はありがたい事に大体似たようなものだ。なのでテスト対策の問題、それにつながる勉強方を作れば良い。そして、残念な事に俺の母校であり陸斗が通う学校のレベルは高校一年の間は主に中学校三年間の復讐をしなくてはならないそんなレベルだ。
あえて言おう。
公立の中学とはいえ常に成績トップ、全国一斉テストでも一桁前後に居た俺がこの高校でミスるはずがないのだ。スペルミスとか字が汚いとかで減点はもらったけどな。
テストの結果が全ての学生時代の為の俺のテスト攻略法は大変有意義で過去四年の実績があるのだ。圭斗と宮下と言う二人から始まった強化合宿は着実に身を結び、無事卒業し巣立って行って、でも時折SNSに届く内容はちょっとした相談も混ざっている。今の所戻って来たのは宮下だけだが、宮下が戻って来ることは就職が決まった時点で予想がついていたのでやっぱりかと言う思いの方が強かった。
何をどう間違ったか県庁に就職するなんて、田舎あるある公務員最高!な空気がもたらしたものだろうか。
役所勤め一ヶ月してスマホから聞こえる泣き言にスマホの画面越しに仕事の説明を受けて俺が内容を飲み込んで教えながらなんとか一年踏ん張ってみろとそれから毎日かかってくる通話で励ますも半年過ぎたあたりから出社拒否。体調不良で通院させながら休みを取り、なんとか一年間宮下を誤魔化し誤魔化したところで辞表の書き方を教え、それを出したら帰って来いと言えばその日のうちに帰ってくると言う始末。俺は再会して真っ先に病的にやつれにやつれた宮下を見て「ごめん」と謝った。宮下は自身の事を考えて励ましていた事を理解してくれて
「頑張れ、諦めるなとしか言わなかった親と違って、いっぱい相談に乗ってくれてありがとう」
救われた言葉だった。
そのあとは全国的どこでも常時募集をしているスーパーマーケットに面接の予定を入れて戻って来た一週間後には仕事に出かける姿を見送る事になった。
鮮魚コーナーで魚を捌く姿はよく釣りをして魚を捌くのが初心者だった俺の為に捌いてくれた手付きはなかなかどうして手慣れたものですぐに即戦力としてお役に立てていると言う。慣れない衛生基準や鮮度の為に色々厳しいようだが一年を通して寒い職場とぼやくわりにはそれなりに楽しくやっているようで県職員時代のような泣き言は一切言わなくなったあたり性に合っていると言う物だとホッとしている。
だけどいつまでもパート生活をさせるわけにはいかない。いくら実家暮らしと保険と企業年金に入っているとは言え二百万に届かない年収では宮下の将来は絶望的だ。いくら動画サイトで小遣い稼いでいるとは言え知れたもの。一部の成功者のような有名になればバイト辞めてこれで食っていけと言ってやれるが、顔出しNGでやっている以上これ以上は無理だ。宮下をなんとかしないとなと思うも今は目の前の陸斗に集中する事にする。




