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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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夏の向日葵の如く背筋を伸ばし顔を上げて 8

 派手なバールの賑やかさに烏骨鶏達が騒ぐ様子に大工の一人が茅を抱えて烏骨鶏小屋にポンと放り込んだ。その瞬間物音で怯えていた事なんて忘れて突如放り込まれた茅に興味を向けて茅を突いてみたり、踏みしめて感触を試したり、警戒したりさまざまな様子だったけど好奇心は強いうちの烏骨鶏達は気にしてないふりをしたりしながらも遠巻きに見ていたりしている。

「烏骨鶏だ、可愛いなぁ。小さいなぁ。家にいたのは夜店で買ってきた奴だったけど、ある年のクリスマスに食卓にチキンが並んでな、珍しいと思ったらばあさんが「やっと食べごろになった」と言ってね、それ以来トラウマなんだよ」

 そりゃトラウマになるなと思うもやっぱりかわいいなぁと何度もつぶやいて眺める大工さんに

「奥さんと喧嘩しないように相談してから飼ってください」

「ふふふ、うちの奥さんはネコ派だからむりでしょう」

 ふふふと諦めたかのように笑い

「また見に来ても良い?」

「奥さんと喧嘩しない程度なら」

 言えばふふふと笑って去って行ってしまった。ちょっと待ってよ、それってどういう意味だよと顔が引きつってしまうも宮下がやってきて

「綾人なんかすごく疲れてる顔してるから少し休んだ方がいいよ。輸血するくらい血が減ったんだし抜糸するまで大人しくしろって言われてるんだからさ」

 かわいそうな子を見る視線と共に手を引っ張って俺を外の手洗い場に連れてきて手を洗わせた後しっかりと水分を取ってシャツをはぎ取られてしまい、部屋の前まで案内されて

「内田さんには少し休ませるって言っておくから」

 そう言って部屋の中に閉じ込められてしまった。どこのオカンだ。

 目の前で閉ざされた扉を見て何か烏骨鶏の気持ちが分かった気がしたかも。

 まあいいかとズボンをはきかえてベットに横になれば窓の外は賑やかだけど布団をくるりと体に巻きつければすぐに瞼は重くなった物のふと思いついて頑張って起き上がり

「森下さん居る?」

 部屋の窓から森下さんを呼んでもらうも声の届く距離に森下さんは居た。

 すぐにバールを持って急ぎ足で来る姿は街中で出会ったら逃げなくてはいけない光景だなと思うも俺は抽斗から封筒を取出し

「ええと、今日二十二人位でしたっけ?」

 言いながら万札を取り出して二十五枚ほど取り出す。

「準備してくれてたんだ」

「何かあっても良い様にって、ええと、先に帰った長沢さんの分も。内田さんと長沢さんには二枚、宮下にもおばさんにって」

「だったら後は俺が引き受けます。怪我をしてるんだったらちゃんと休みなさい」

 左胸の傷は服の上からじゃわからないがと思ってたけど、今宮下にシャツを奪われた所だった。窓越しの森下さんの目の前に左胸に大きな絆創膏を貼ってあれば顔を青ざめさせて目元を盛大に引きつらせるのも頷けると言う物。

「あとはお願いします」

「綾人君も無茶しないように、ね!」

「あはは、はい……」

 少し怒っているようにも見える怪我の怖さを知る職種の森下さんに頭を下げてお願いしますと言って今度こそ窓とカーテンも閉めてベットに潜り込む。横になればすぐに眠たくなって皆さんが帰った後宮下の代わりにと来てくれた高山先生と圭斗に起こしてもらってご飯を食べさせてもらうのだった。

 メニューはおかゆと梅干。

 仕事に行くからと挨拶と様子を見に来た宮下が俺がまた微熱を出していた事に気が付いて陸斗に夕食をお願いしたのだが、やっぱり不安で先生に様子を見に来るように頼んだと言う。目を覚ましたのならと埃を落す為に一度しっかりとシャワーを浴びて来いと引っ張り出され、出た後はたっぷりと消毒液で傷口を綺麗にしてもらい、べっとりと傷薬を付けた巨大絆創膏で覆って薬を飲むまでを監視までしてくれた。

 その後今日の話し合いを陸斗と一緒に聞く事になった。

 とりあえず件の三人組はこのまま自主退学をする事になった。俺達が思っていたよりも学校ではこの一件が広まっており既に彼らの居場所がない状態だった。雰囲気的には陸斗にはすぐに戻って来いな状況だったが療養中という事もあり二学期からの登校としてもらって宿題だけは貰って来た。

 一応登校できるかどうかはまだわからないが、どのみち通信制に変えるにしても四月を待たなければならないのですぐには答えを出せないと現状維持にしてもらっている。運よくこの週末で終業式だから問題はないが、高校生になれば出席日数と言う問題も出てくる。もう一年一年生を続ける事になる事を踏まえて考えるようにと改めて義務教育じゃない厳しさに圭斗は納得いかないと言う顔をしていた。

「まぁ、何ももうすぐ夏休みだしすぐに答えを出す必要はない。

 高卒の資格を取って大学にしろ、専門学校にしろ選択はまだ広く、学ぶ気力さえあれば年齢なんて関係ない」

 先生の突如始まった進路相談室に陸斗は正座した膝の上に両手を拳にして置いて

「今日、大工の人達と一緒に仕事を見せてもらいました。

 内田のお爺さんって言う人です」

 圭斗の息を呑み込む音を聞いたけど陸斗は黙って言葉を紡ぎ続ける。

「色々な仕事のコツとか、技法とか。面白いと思いましたがその時にもし大工に興味を持ったのならちゃんと勉強して資格を取れって言われました」

「へえ?」

「一級建築士の資格を取れたら一人前だって。

 高校卒業して実務経験七年で二級建築士の受験の資格が貰えると言ってました。そして二級建築士になったら一級の建築士の受験を受けさせてもらえるって。

 浩太さんは二級までしか持ってないけど森下さんは一級建築士の資格を持ってるって」 

 説明が苦手なのか俯き加減で、でも聞いた事を一生懸命に伝えようとする言葉に黙って耳を傾けていれば

「先生、どうすれば一級建築士になれますか?

 その話をしてた時にまた皆で今度はこの母屋の方の修理にこようって話になってて」

 俺達の知らない所で仲間を作っていた。友達と言うにはまだ繋がりは薄いがあの小屋が出来上がる頃には立派な仲間に、そして友人になっているだろう。

 それを見守りたいと思うのは間違ってないと陸斗が自分で見つけた人間関係が良い物になれと願ってしまうのは、友人関係が絶望的壊滅状態な綾人の人間関係が物語るのだろうと少し涙を流しそうになった。




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