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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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夏休みの始まり 7

「まぁ、お前が東京に親父さんの事以外でどこかに出掛けるって言うのは良い事じゃないか?」

「俺もそう思う」

 週末先生はそう言いながら夏休みの宿題の作成を俺に手伝わせるのだった。

 夏休みってあと二週間ぐらいしかないのにまだ作ってないのかよと思いながらもせっせと宿題のプリントをっている。

 三人組の勉強効果から昼休みと放課後の勉強会はだんだん人数が多くなっているらしい。まぁ、中間であれだけ成績が上がるのを見れば誰もが気になる所。クラス内の先生の評価はだんだん上がり、そしてそれは校内の評価へと変っていく。

 もともと一点差で順位がガラリと変わるような高スペック学校だ。ほんの僅差を勝ち抜く為にその変化を見逃さないような勤勉さを川上達にも学ばせたい。

「で、あいつら期末はどうなった?」

「さすがに少し順位を落とした。だけどそこは妥当な所だと思う。

 お前に少し鍛えてもらっただけで首位をキープできる麓の学校とは違ってどいつもこいつも向上心が半端ない。先生にはああいう子達やっぱり無理だわ」 

「そう言いつつもなんだかんだ面倒見てるくせに」

「綾人の教材があればこそよ。俺様だけだったらとっくにくじけて教師辞めてたわ」

「先生よく頑張ったな。だからもう少し頑張れ」

「うん。頑張る」

 とりあえずこの一年で学校を変えるのだ。恩師の居る、そして高山昴三十五歳と言う教師の魅力を知る学校に自ら向うのだ。

 移動命令の紙一枚で動くわけではない納得の選択に今は一生懸命このヤル気ある教え子たちに付き合っている。これも先生の原動力になり、高校一年の時入学した折りにあった時の死んだ魚のような目をした人物とは同一に見えないほどの輝きを灯していた。

「午後だけど一度麓の先生の家見に行きたいわ。内田さんにも挨拶したいし圭斗の仕事ぶりも見ておきたいし」

「今日は庭を弄ってるはずだ。コンクリ流して階段もちゃんと作ってとか言ってたな」

「もうそこまでやってるのか?」

「街側の庭の水はけが悪いから先に手を入れようかって。ほら、二軒の間の水路あっただろ?庭の真ん中を突っ切る事になるからこれを期にちゃんと作っておこうかって。

 お隣さんと前の住人本当に仲が悪かったらしくって、雨であふれると先生の家の方に流れ込むような作りになってたらしくってさ」

「あー、先生お庭なんて興味なかったから気付かなかったわぁ」

「そう言う人間が家を買うなよ」

 呆れてしまうも先生は真剣な目で夏休みの宿題を作りながら

「まぁ、気の迷いよ。それに綾人がちゃんと庭に手を掛けてくれるって聞くと今度は好きそうになれるかも?」

「内田さんに縁側作ってもらって街を眺めながらビール飲めるようにしてもらうわ」

「それも良いわね」

 言いながらそろそろお昼を作り出すのに良い時間。ちょうどプリントも一枚作り上げた所で

「昼素麺にするけどいいか?」

「せんせい茄子を油で素揚げした奴が食べたい。お出しにジュッと付けてさ」

「まためんどくさい物を」

「ツナマヨとトマトも食べたい。

 トマトと言えば前にシェフの奴がトマトと卵の中華炒めした奴あったでしょ?あれ食べたいー」

「まぁ、そっちは簡単だからいいけど……」

「じゃあよろしく!茄子も忘れないでね!」

 ニカリと今から楽しみだと鼻歌まで歌いだす様子に嫌だとは言わせてもらえないようだ。

 まぁ、これくらいたまには気合い入れるかと台所に立てば土間を挟んだ部屋から

「話は戻るけどよ、向こうに行ってる間先生も可能な限りここの番をしておいてやるよ。そうすれば陸斗も気安いだろうし烏骨鶏の面倒も見れるしな。

 だからお前は久しぶりの夏休みを堪能してこい」

「就職もせずに家に引きこもりのニートしてる俺の夏休みって何なんだよ」

 思わず苦笑いをしてしまうも

「何言ってる。年中無休の畑仕事と動物の世話、そして俺様の面倒を見てる奴がニートとは言わん。

 収入こそ畑仕事からの報酬はないが、お前は立派に企業を通して社会に貢献している。

 せっかくこの山から出る気力がわいたのなら思いっきり家の事を考えず自分の欲望のまま遊んで来い。犯罪は絶対だめだけどな」

 プリントを作り続ける先生の横顔を思わずと言う様に目を向けるも、紙面に視線は向けたまま茶化す様子もなく言い放った言葉に俺は開きかけた口から何と言えばいいのか判らず、だけど一度口を閉ざして引き締めて

「もちろん。自分の足で運んで、自分の目で見て、自分の肌で感じて、互換総てを使って満喫してくるつもりだよ」

「そうそう、それが旅の醍醐味だ。

 出発日の日は学校があるから見送ってやれんが、帰国の日にはこの家で待っててやるよ」

 プリントが完成したのかペンを置いて立ち上がって体を伸ばす。

 それから熱せられた脂の匂いに誘われるように台所に来て適当な椅子に座り、肘をついて俺を見上げ

「いっぱい遊んで無事帰ってこい。そうすりゃ両手広げてお帰りって待っててやるよ」

 思わぬ期待してしまった言葉をあっさりと言う先生は俺の欲しい言葉を用意して待っていてくれると言う。

 この間の一件以来皆優しすぎだろうと悔しくも嬉しくて泣きそうになる物の、まだこの段階でなくわけにはいかず

「土産たくさん買って来るな」

「ああ、楽しみにしてる」

 少し照れてしまいながらも切って水にさらしてあく抜きをした茄子の水分をしっかりと取って熱した油の中にそっと入れればジュッと水と油の反発する音と立ち昇る香りと共に妙な気恥しさから少し茄子を上げ過ぎたのはご愛嬌だ。





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