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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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夏の向日葵の如く背筋を伸ばし顔を上げて 3

 あまりの埃に頭のてっぺんから真っ白になってしまった俺達はとりあえず母屋でシャワーを浴びる事にした。

 包帯の手間がかかる陸斗を最初に入れて俺、宮下とさっぱりする頃病院に行く時間となった。

「じゃあ、留守番してるけど何かしておく事ある?」

「そうだな、昼にトウモロコシを茹でて差し入れしてもらえるか?トマトもキュウリも適当に切って出してもらってもいいし……」

「じゃあ、そこは適当にやっておくよ」

「お任せいたします。あ、あと一応風呂沸かして貰えるか?」

「五右衛門の方?」

 聞かれてうんと頷く。

「なんかうろ覚えなんだけどなんかの用事で来ていた客が五右衛門風呂を使ってたような気がしたから」

「それって、弥生ちゃんやるなぁ」

「相手が可愛そうな話だな」

 悪夢だ、と言いながらあるわけのない空想を振り払うように頭を振って

「まぁ、備えあれでって所だ」

「了解」

 水を飲んで

「じゃあ行ってくる」

「お駄賃にアイス買って来て。うちで売ってないような奴」

「融けない事を祈ってろよー」

 言うも車の中にクーラーボックスは当然のように置いてあるのは必要に駆られての設備だ。

 幾つかお願いをされて病院に出かけた二人の乗る車を見送り家に連絡を入れる。


『綾人の家に大工さんが集まっただけだよ。内田のじいさんの作った家を最後に見にきたんだって』

『そうなの?何事か心配してたわ。

 それよりもあんた一人で大丈夫?』

『大丈夫だから、家の店番お願いします』

 言って通話を切った所で母屋台所の隣の部屋でノートPCを開いて動画の編集を始める。

 綾人は何も言わなかったけど小屋の解体の時に動画を撮らせてもらっていた。

 素人の俺が現場にいるのはまずかろうと井上さんに協力をお願いして記録に残させて貰っている。もちろん皆さん了承済みで、気づいてはいるもの知らないのは綾人だけだと思い出して少し冷や汗が流れた。

 だけど今更だしまあいいかと、頭の痛い宮下家のの問題を振り払うように動画作りに集中する事にした。


 我が宮下家の自宅兼店舗の前に広がる広大な蕎麦畑は実は吉野家の土地を借りている。兄ちゃんとおやじはそこで蕎麦を育て兼業農家として働いている。借りてる土地代は驚くほど安く、うちで取れた蕎麦でおふくろが打った物を収めるだけと言う驚きの値段。もちろんお中元、お歳暮と挨拶もしているが、土地の税金を払っているのは綾人なのにそんなんでいいのかと思うも


『あの土地の手入れしてもらうって考えたら安い物だよ』


 さすが綾人。税金とかそう言った金額と管理費を比べて叩き出した金額がいくらか知らないけどそう言ってくれるから甘えて我が家の借金返済はいつの間にか完済できたのだ。もっとも借金を立て替えてもらったのは綾人の爺さんで、俺の爺さんが親戚の連帯保証人になったとかで一家総出で夜逃げしなくてはいけない所をうちの目の前に広がる、かつて我が家の蕎麦畑だった向かいの土地を買ってもらって借金の返済に当ててやっと返済の目処が立って今から三年前に完済ができたのだった。

 俺がオムツをしていた頃の話なので今ひとつピンとは来ないが、頭がおかしい義姉は目の前の畑を売って家を建て替えようと言って兄貴と喧嘩したのは先週の話。綾人の家を改築する話を聞いて何かに火がついた姉はハウスメーカーの人を連れてきて庭の畑と駐車場の一部を潰して新しく二人の家を建てよう。いつか生まれてくるだろう子供の為にも俺みたいなフリーターと一緒にいるのは教育上良ろしくないと敷地内別居しようと言い出した。

「お金?畑を売ればいいじゃない」

 義父さんの物は長男の旦那の物で、嫁なのだから権利はあるとの主張。残念ながらありませんと義姉の主張から三日後に言い切ってくれたのは綾人だけどね。おかげでおやじ達の戸惑う思考がしっかりと働き出した。

 そんな義姉の謎理論から口論が始まり、見かねたおやじが義姉の親を呼び出して改めて我が家の前の畑は他所様の土地だと言えば、既に勝手に売る前提で義姉の家のリフォームは既に進められていて顔を真っ青にすると言う……その場で義姉を引き取ってもらう事件が起きていた。ただいま緑の紙のご利用を前提に修羅場が繰り広げられているので俺が家にいない方が都合が良いと言うが、綾人はあの義姉が何とち狂った事を言って親父達を丸め込むか分からないからできるだけそばにいろ。分からないことは逐一報告しろ。そんなアドバイスに義姉の家の水回りのリフォーム代を兄貴に請求を回される事になる所を見事守ってくれると言う……事もあって、今では別れたくないと必死に言い寄ってくるもその理由は約四百万のリフォーム代と言うあからさまな物なので当人とその母親以外では着々と離婚の準備は進められている。

 綾人曰く


『大変申し訳ないが蕎麦畑を全部売ってもリフォーム代は支払えないぞ』


 その一言でようやく田舎の土地の価値に気付いた義姉はうちをビンボー人と呼び叫ぶが周囲も知るそんな値段なので今頃何ばかな事を言ってると呆れている始末だ。

 そんな噂は広がり、あっという間に隣町の姉の実家周辺にまで届く事になって着々と進む工事に肩身が狭い思いをしているのはザマアと言う所だろう。

 結局の所は義姉の親父さんが退職後の憧れの輸入車を諦め退職金を前借りして返済に当てる事になった話は昨夜聞いたばかりの情報で、離婚も子供もいないし結婚して二年、ここで兄貴の貯金なのに義姉の使い込みが発覚して財産らしい物もない。なので慰謝料、財産分与もなしで、せめて引っ越し代を持つと言う理由で義姉の責任で話は進んでいると言う。

 綾人に言えば人が良いと言うのだろうが、うちとしては早々に出て行って欲しいと言うのが本音の怒涛一週間だ。正直圭斗と陸斗にまで気を許す余裕はなかったが、綾人の流血事件を見てうちはまだマシだと言う事に気付いて少しだけ心に余裕が生まれたと言うことは言わない事にしている。


 そんな現実逃避をするかのように今作ってる動画は山水の水路の掃除の時のもの。少し前の動画なので掃除しながら蕗を取り、掃除が終わって家に帰ってから圧力鍋で煮て筋を取ると言う渋い動画になりそうだ。でもその後味付けしてから他に七輪で野菜を焼いたり肉を焼いたりしながらビールを飲むと言うまったりとした食事の光景を入れて約十五分の動画はゆったりと時間が進む癒し系だと自負している。

 ちなみに過去あげたものの中で一番の視聴回数の多い動画は綾人に五右衛門風呂に入ってもらった物。顔出しNGでずっとやってきたのでタオルを巻いただけの後ろ姿に謎の高評価と謎の盛り上がりを見せていただき、それ以降視聴者がグッと増えてありがたく恩恵に預かる事になった。

 編集の注意点は個人が判定されない事。ここがどこだか分からないようにする事。そして綾人のかっこいい所を、理不尽でなくこの何もない田舎生活を満喫している姿をと思いながら編集していれば母屋の玄関ががらりと開いた。



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