夏の向日葵の如く背筋を伸ばし顔を上げて 1
我が家は他所様より多分少し、いや、かなり朝が早いと思うのだが、陸斗の生家での生活と大体一緒な為に俺が水路を開く頃には眠い顔を隠せないままやってきた。
下着類を含めた衣類を宮下の仕事先の衣料コーナーで何着か見繕って来てもらい、バアちゃんが大切にとっておいてくれた俺の小さくなった服を引っ張り出してきて農作業を手伝ってもらうに当たり着れる物がないか物色した服に着替えて「おはようございます」と挨拶をしてくれるのだった。もっとも二人とも怪我人なので農作業もろくにできないが、お互い右手だけ生活なので至る所でうめき声が聞こえるのはご愛嬌。決して右手兄弟と言うのはやめてほしい。
陸斗は最初、一階の俺のすぐ隣の使ってない部屋を使ってもらおうと思うも、俺がネットで買いあさった古本を詰めた本棚の部屋が良いと二階の本部屋を使う事になった。もっとも襖で仕切られた部屋なので隣の部屋に布団やちいさな茶卓、取り壊される小屋に在った虫食いで痛んだ古い箪笥を宮下がリメイクして新しく仕立て直した箪笥に服を詰めた場所が陸斗の部屋になった。二階には水場もトイレもないから不便だぞと言うもどうやら本部屋をいたく気に入ってくれたようで、昨夜はお風呂に入った後はずっと本を読んでいると言う。
随分遅くまで起きていたなと思った物の
「学校で借りてきた本も捨てられちゃった事があってずっと読みたくても読めなかったから……」
恥ずかしそうな告白に改めて篠田家の親に怒りがふつふつとわき上がる。
「まぁ、夏休みだし時間はあるしな。本を読むのは悪くないから止めないけど。だけど一日どれぐらいか決めておかないと終わりがないから注意しろよ」
「はい。何か勿体なくって何度も読み返してしまいます」
「いや、そこは読み返さずに進もうよ」
完結した物語を読み終えるのがもったいなくて終わらす事が出来ないと言う可愛らしい理由に確かにと終る事がないと思った物語の結末に寂しさは半端ないと思うのは今も感じる事だが
「さて、今日から大工さん達がやってくる。ご飯を食べたらそれまで少し勉強しよう」
「はい」
昨日宮下が焚いてくれたお米はおにぎりの形にして冷凍してあった。
レンジでチンしてインスタントの味噌汁を用意する。熱っぽいのは無くなったもののまだ抜歯されてない傷口が引きつって痛みと痒さを覚える。幹部にビニールを置いて回りをテーピングでがっちりと水が入らないようにしてシャワーを浴び、さっぱりした物の毎日五右衛門風呂の俺としてはなかなか物足りないと感じていた。もっとも陸斗もお風呂はシャワーでさっと済ませるようにと言われているので五右衛門風呂入れてあげれなくてと思うも、毎日入っていいのですかと言われた時はこの夏場にあの家族はっ!!!と何度目かの苛立ちを覚えるのだった。
食事も終えて陸斗がどれぐらい勉強できるか中学生ぐらいから振り返る事にした。はい。いきなり躓きました。大丈夫です。お前の兄貴と宮下で経験積んでますから驚きはありません。耐性はあります。むしろ九九が出来なかった宮下の方に焦りを覚えたぐらいです。大丈夫です。だけど少し深呼吸させて下さい。はい、気を取り直して……
去年勉強を教えた奴らから中学生の時の教科書を譲り受けているので数年おきの改訂にも対応できるはずだからと英語の教科書を持った時点で凄く嫌そうな顔をした英語の教科書を読む所から始めた。
案の定声が小さくてぼそぼそとした物になるのは発音に自信がない証拠。なのでアルファベットを読む所まで戻って英単語の発音はアルファベットの音で構成されている事を説明して文章の単語ごとにアルファベットを読み上げる訓練から始める。そして一文を全部ひとつの単語として見直して発音をさせる。困惑した顔に俺も一緒に読み上げて訓練を繰り返せばそれっぽく聞こえてきて時間はかかる物の繰り返す事でこう言う物だと覚えるように訓練をする。親が子供に初めて絵本を読み聞かせる時の手法だが意識改革の為にもそれぐらいしても構わないと時間がかかるがそれぐらいかけても価値のある訓練だと俺は思っている。
時間をかけて読み終える頃一台の車が入って来た。
見た事のない車で他県のナンバーだった。
「工事の人かな?悪い、ちょっと顔出してくる。何だったら二階で待ってて」
と、陸斗には家の中で待たせていればその人も庭の隅っこに車を止めて降りてきた。
「ええと、吉野さんでいいのかな?」
「はい。あの……」
誰ですかと言おうとするも
「内田の建築仲間の森下と言います。井上から話を聞きまして、内田の爺様の家の工事をすると聞いてぜひ見学させに貰いました。
と言う話は聞いてませんか?」
「ごめんなさい。ちょっとここの所立て込んでて連絡がまだ。
今から聞くので少し待って……」
と言っていた所で今度は見慣れた車がやってきて、当然と言わんばかりに森下さんの車の隣に止まる。
「吉野さんおはようございます!
ああ、一番乗りだと思ってたのに森下さんが先にいらしてましたか」
にこやかな顔で現れた井上さんに俺は戸惑いを隠さない顔で森下さんの話しの件について聞く。
「あああ、内田さんから連絡が行ってなかったのですか?!申し訳ありません」
井上さんはぺこぺこと頭を下げてくれるも
「いえ、そうとわかれば問題ないので折角なので見学して行ってください。
これと言った価値ある物は古い家だけなので……」
と言えば森下さんにギュッと肩を掴まれた。何で?!と思うも
「兄ちゃんは良く判ってるなぁ!
内田の爺様と言えば儂に大工を教えてくれた師匠の先生でな、駆け出しの頃は師匠の後をついて内田の爺様の仕事の手伝いを良くさせてもらった。
いやー、あの人のノミ捌きの絶妙さ。宮大工をしていただけあって釘を必要としない正確さは今も頭が下がる思いでなぁ」
遠い目で向かいの山を眺めて話を聞く間にまた知らない車がやってくる。一台また一台。どれだけ来るのかと思いながら空きが目立つ車庫の方にも止めてもらうも足りない為に路上にも止めてもらう。待たせるのも何なので井上さんに先に今回改築する小屋を皆に案内してもらうようにお願いしていれば先ほどから車が家に何台も上って行くから手伝いに行けと宮下母に命じられて来た宮下に車の整理をお願いするのだった。




