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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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雲の中でかくれんぼ 7

 チョリさんは東京に一泊で戻ってくるとオリヴィエに約束して幸田さんに駅まで連れて行ってもらうのだった。

 俺の横で不安げに見送るオリヴィエを飯田さんと共に見守る。

 そう言えばオリヴィエは最初から不安げだったなと思うも今は昨日来た時のバイオリンを抱えてないので余計心もとなさそうだった。

 やがて去って行った幸田さんのタクシーを見送れば

『それでは一休みさせていただきますね』

 普段はバアちゃんのお酒を一通り飲まないと寝ないくせに今日はさっさと寝るのですねと視線で訴えるも気付いてませんよーと言わんばかりに自発的に布団にもぐりこむのだった。

 ちょっと待て。

 今まで俺が引っ張って布団に突っ込んだ努力は何だったんだ?!

 そんな思いを無視するかのようにあくびを零しながらさっさと布団をかぶってベル姿を心もとなく見守るのはオリヴィエも一緒。

 仕方がないと言う様にいつの間にかどんよりと暗くなった空からぽつぽつと雨も降りだしてきて

「今日も雨だな」

 山の春の雨はまだまだ凍えるような寒さを覚える。

 俺は木槌を鳴らして烏骨鶏小屋を開ければやはり雨にぬれるのはごめんだねと言う姉さま方が我先へと戻ってきて憂鬱そうに「くー、くー」と鳴くのでおがくずを持って来て鳥小屋の中にひっくり返すのだった。

 陸斗なら綺麗に平らにならすのだろうけど、俺はおがくずの山をそのままにしてついでに藁を放り込む。

 入口でオリヴィエが不思議そうに眺めているのを気にせずにせっせと仕事をしていれば山になったおがくずで遊びだす烏骨鶏と、卵を産みたいのか部屋の隅で器用にも巣を作り始める烏骨鶏もいる。

 一応気を使ってちらりちらりと観察していれば、怖い怖いも好奇心。

 扉の影とではないけど堂々と見学する様にもうちょっと近づいても良いぞと言う所だが、どうせ鳥臭さと飼育小屋の衛生問題であまりお近づきになりたくないと言う所だろう。

『怖くないぞー。飯田さんも最初はビビッて入れなかったから』

 背中を向けていてもいきなり話しかけた相手に手に取るほど判るぐらいビックリするオリヴィエをどこか昔の自分に重ねてしまいながら笑い

『朝食べたオムレツ美味かっただろう?』

 声をかけても返事はない。

 だけどそこに居る気配に

『こいつらが産んだ卵なんだ。美味いだろ?

 普段は家の周辺を好き勝手遊び回って、そこら辺の雑草や虫を食べてる。

 自然の営みって奴だな』

『……』

 反応がないのも気にせずに話し続ける。

『今日はこれから雨も降るからな。濡れて風邪をひくとこんな小さい命、あっという間に終了しちまう。

 だったら風邪をひかないように家の中で遊んでもらうのが一番だ』

 一生懸命おがくずの山の片隅で埋もれる様に寝床を作る烏骨鶏も要れば、それを羨ましく横取りしようとする烏骨鶏もいる。それを傍目にせっせと巣材の藁を運んで自分の好きな場所でいつの間にか巣を作った烏骨鶏が卵を産めば、放卵したいその烏骨鶏を追い出して巣を横取りして卵を産もうとしている烏骨鶏もいる。存外とカオスな光景だなといつまでも眺めさせていればいいのかと思いながら小屋の外に出るも

『もうちょっと見ていて良い?』

『……べつにかまわないが、ここは烏骨鶏達を食べようとする野生動物も多い。

 ドアをあけっぱなしにすると一瞬で全滅だから、戸締りには注意する事』

 こればかりは命の問題。真剣に伝えれば声の音で人の心を知る事の出来るミューズに愛された子供は真剣な眼差しで頷く。俺はそれを信頼として後は任せたと言って畑へと向かう。

 まだまばらな降り方。

 畑仕事に支障はない。

 毎日のルーティンではないが一通り畑を回って様子を見る。これはバアちゃんもよっぽどの雨ではない限り止めても止まらない責任にも似た物だ。

「命を持て遊ぶ人間のエゴだな」 

 これは昔ジイちゃんがが言っていた。 

 木を切る為に育てるのも、花を愛でる為に育てるのも、そして、命を繋ぐラメに育てるのも総てエゴだと言い切ったジイちゃんがの言葉は

「エゴならエゴで責任を取ればいい。

 動物を飼うのなら最後まで責任を取り、野菜を育てるのなら美味しく頂く、それだけだ」

 と言って俺を見て

「子を産んだのなら成長するまで、独り立ちするまでちゃんと見守るのが親の仕事だ。

 子を育てるなんて母ちゃんに押し付けた俺が言える言葉は何もない。

 子供が育っていくのを見守り、必要な時に手助けをして、道を誤った時叱るのが親の務めだと思っていた。

 ただ、子供が大人になっても子供には変わりないと言うのがジイには欠けていた」

 苦々しそうな顔で笑みを浮かべるジイちゃんがはあの時には全部わかっていた事を、オヤジにここに捨てられてから理解した事だが……

 これは人のせいにせず俺が人の心の機敏さに対する鈍感さが招いた結果だと結論した。

 畑を一回りしてもオリヴィエは烏骨鶏ハウスの中でずっと烏骨鶏を眺めていた。

 扉から一歩入った所。

 不思議な事に扉を境に仲が暖かい事に気付いただろうか。

 トイレの躾の難しい鳥類にこの鳥小屋の中はオリヴィエの目にどう映るだろうか。

 いつかは飯田さんのように克服して烏骨鶏につ突かれながらも卵を奪う猛者になって欲しいと思うもオリヴィエに関してはそうではない様子な事を感じながらも俺には分からない何かを感じ取っているように見えて……

 俺と同じように何かを欠けてしまった子供にも取り戻す機会はまだあると言う様に生きて行くうえで一番難しい、きっと初めての自由な時間を自分でコントロールする術を学んでもらう事にするのだった。

 まさかそれがお昼に呼びに行くまで烏骨鶏を眺め続けるとは想像つかなくても自分の時間を自分で管理する、それはいつまでも子供ではいられないこの世界で自分を律すると言う大人の一歩は……

「クケーッッッ!!!」

『!!!』

 おがくずにご機嫌な烏骨鶏の可愛さに触れあおうとして小屋に入ろうとした瞬間烏骨鶏に叩きだされる様子にまだまだ子供だなという事だけは見て見ないふりをして置いた。



 




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