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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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嵐の後の空に虹がかかる様に 3

 先生が参加した様子を土間を挟んだ台所側の畳の部屋から様子を伺う。

 先生は再び内田さん一家を縁側に座らせて、原因の雅治に短く説教をする。人の命を何だと思っているのかと。

「お前達はこのまま無期限で自宅謹慎とは聞いただろ。それだけの事をした事は自覚は出来たか?

 高校は義務教育ではないから反省がない限り夏休み開けても復学させるつもりはない長い夏休みになる。それに篠田もいつ警察にも行ける準備と用意はしてある。警察に厄介になった段階でお前達は退学処分と言うのも入学式の時に説明を受けていたはずだ」

 言ってそっと溜息を吐く。とても風呂上がりは上半身裸で人の家を闊歩しているような人物とは思えないアンニュイな表情をする様子に圭斗の表情筋が痙攣しているようにも見えた。

「遠まわしに言っているが学校としてはお前達のような問題を起こした生徒には自主退学を求めている。学校はボランティア活動の組織ではないから。陸斗はあばらと左腕の骨にヒビが入った立派な暴行事件だ。お前のご両親はこうやって謝罪に来てくれてるが後の二人は何時謝罪に来るか。まぁ、ここに来られても吉野が困るから月曜日に学校の会議室で話しあいだ。

 それを含めて一度ちゃんと自分達がした事を思い直せ」

「……はい」

 俯いて反省しているかどうかは判らないがすん、と鼻をすする音が聞こえてきた。退学もしくは自主退学、その言葉が堪えたようだ。

 親同士の会話ではどんな事になっているのかわからなかったものの、先生が間に入った事で現実味を帯びた処分にようやく自覚したらしい。

 俺は頃合いを見計らってお茶と漬物を用意する。

 お盆に乗せて今は冷たいお茶よりも熱いお茶だろうと急須に茶葉を入れてバアちゃん好みの濃いぐらいに蒸らしてから茶卓をセットした茶碗に注ぐ。そしてお茶請けは雑草のように育ってしまう野沢菜。塩はきつめで十分発酵したしょっぱすっぱい野沢菜はこれだけでご飯がどれだけも進むバアちゃん直伝の一品だ。

「だいぶ話し合ったので喉が渇いたでしょう」

 お盆を持って縁側に向えば圭斗が慌ててお盆を受け取ってくれた。

「おまっ、怪我してんだから重い物持つな!」

「これぐらい軽いもんだよ。それに大事にして筋力を衰えさせるよりは少しでも日常と同じ生活をする方がいいんだから」

「じゃなくてまだ熱もあるだろう。先生、こいつに何か言ってよ!」

 差し出されたお茶と漬物に真っ先に手を伸ばした先生は

「綾人は明日先生に怒られる予定だからほっといていいぞ」

「綾人君、怪我を?」

 驚く浩太さんに

「昨日納屋を片付けていた時に鎌が落ちてさくって」

 服の上から傷口を指させば鉄治さんもろとも痛そうな顔を俺に向ける。

「まぁ、そう言う事で頼る親も親戚も居ないから先生に助けてもらってるんですよ」

 言いながら俺もぺたりと座れば鉄治さんはお茶をグイッと飲んで

「そう言うのは早く言え。こんな長居して済まなかった」

 言わなければまだ居続けたのかと考てみる。

「病院で処置はしてもらえたので大丈夫ですよ」

 まだ少し頭はボーっとしているけどそれは昨日よりましで朝起きた時よりも楽になっているからもう一眠りすればいいだろうと何の保証もない自己判断をしておく。

「じゃあ、明日は……」

「十一時に予約が入っているので朝皆さんに挨拶したら抜けるのでお願いしても良いですか?」

「それは構わないが、ただアレは少し何とかしておいてほしいんだが……」

 アレとは足元にやってきた烏骨鶏の事だろう。

 こけっ、と首をかしげて俺達を見るも#餌__おやつ__#を貰えないと判れば足元の土をついばむ様子に

「明日から小屋の中に入れて置きますので大丈夫です」

「いや、前から思ってたんだがキツネとか獣害は大丈夫なのか?」

 心配そうな顔で見られるものの

「ないとは言えませんがいろいろ経験積んで対策して来たので大丈夫とは言えませんけどなんとかなってます。こいつらも最初は窓を開けただけだった時もあるのでそれでいいでしょう」

 ただでさえ運動しすぎで肉質は良くても脂身が少なめなので飯田さんからは不評をいただいている。仕方がない。次回ご利用になっていただく時までにはプリンプリンな魅惑的な子に仕立ててあげようと後で飼料を買う事を決めた。主に高タンパクな奴らを。

「センセー、綾人がろくでもない事考えてまーす」

「大丈夫だ。この顔は烏骨鶏の事を考えてる時の顔だ。なんか上手く太らす方法でも企んでいるんだろどうせ」

「考えている事がばれるとはこれいかに?」

 圭斗も呆れている中内田さん一家は車に乗り込み

「ではまた明日。お互い忙しいと思いますがよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 何度も頭を下げてから帰る様子を見送った後車が見えなくなった所で

「よく我慢したな」

 先生が圭斗の頭を撫でていた。悔しくて謝られても済む問題じゃない所まで来ているのに握り拳を広げさせれば手の平に食い込んだ爪が刺さった場所から血が流れているのを見て

「お前も大人になったな、それでこそ陸斗の親だ」

 大人の対応ではなく親としての対応が出来た為にセットされた髪型を崩すようにぐしゃぐしゃと撫でまわせば止めてくれと逃げる様子に笑い声が自然とわき上がる。

 がらり、二階の縁側の窓が開いた音がしたかと思えばそこには宮下と陸斗の顔。

 少し不安そうな顔をしているものの

「宮下!おなかすいたからおばさんのカレーを食べよう!陸斗も手伝ってくれ!」

 言えばすぐに二人が音を立てて急な階段を下りてきて、米が足りない事に気付くも既に宮下が米を水に浸けてくれていたのですぐに竈に火を入れる。

「男性五人分じゃあ炊飯器じゃ炊けないからね。折角だから夜の分も焚くから」

「五人で一升は多くないか?」

 言うも

「余ったら冷凍庫に入れて置くから明日の朝レンチンして食べるんだよ」

 どこのオカンだと思うも言い聞かせる相手が陸斗だ。うんうんと素直に頷く陸斗にお母さんが出来ました。密かにそう思っていればそう思っていたのは俺だけではなく、先生も二人の様子を俺と同じように頷いていたのを見て陸斗の事は宮下に任せれば問題解決だなと言う事にした。

 そんな合間に畑に行って野菜を取る。

 飯田さんの怪しい野菜畑を陸斗と見学しに行き、ついでにトマト、キュウリ、ナス、トウモロコシを取ってくるように言われて鋏と籠を持たせて取り方を教える。

 この時間熟れたトマトは熱くなっていて、それを山水を引いた水路できゅっと冷やす。トウモロコシは皮を付けたままざっと洗ってそのまま薪をくべた竈の中に投入。表面の皮が真っ黒に焦げる頃取り出して綺麗な軍手をはめて皮をむく。立ち上る湯気と蒸し焼きにされてパンパンに膨れ上がった濃い黄色の粒々のトウモロコシに軽く塩を振ってあつあつのうちに陸斗に食べさせた。

「あ、甘い!トウモロコシってこんなにも甘い物だったの?!」

 感動と言う様に貪る様に食べる様子をほっこりと見守ってしまう。

 同じように丸焼きにされたナスも出され、皮をむくのもめんどくささにぱっくりと割って醤油をかけ、中身を穿り出すようにして食べる我が家の定番のスタイルを陸斗にも教える。つるんつるんとうどんでも食べているかのようにナスを食べる様子を皆で微笑ましく見守り、ご飯が炊けて充分蒸らす頃を見計らってカレーを温め山水で冷やしたキュウリとトマトをざっくりと切るだけのサラダ。  

 十分なご馳走だ。

 庭に小屋から出してきたテーブルを置いてアウトドアチェアを先生と圭斗が納屋から引っ張り出してきてくれた。勿論パラソルも設置すると言うサービス心。最後はちゃんと片づけてくれよと心の中で突っ込んでおくのも忘れない。

 キャンプをした事のない陸斗が瞬く間に庭先で出来上がるキャンプ会場に目を輝かせ、庭のテーブルに料理を運ぶ。何事かと集まった烏骨鶏達に巨大化しすぎたキュウリを二つに割っただけの物を放り投げれば食いしん坊チームが我先にと集まっていた。

「さて、準備も出来たな」

 先生がぐるりと俺達の顔を見回し

「まぁ、いろいろあった怒涛の三日間だったが人生なんてこう言う事の繰り返しだ。

 今日を乗り越えた自信を経験値に加えて……」

「「「いただきまーす!」」」

「おい、お前ら俺の話しを聞け!」

「十秒以上スピーチする先生が悪い」

「短っ?!ちょっと先生の持ち時間短すぎない?もうちょっと先生をいたわろうよ綾人ー!」

「陸斗も熱いうちに食べろよー」

「圭斗~!」

「ええと、いただきます」

「陸斗まで?!」

 問題はまだ何も解決してないけど、一つ目の山を越えて俺達は明日から始まる日々に向けて心行くまで釜で焚いたちょっぴりおこげのあるお米にたっぷりとカレーをかけてなくなるまでおかわりをする健康的な遊びを心行くまで堪能するのだった。







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