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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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雲の中でかくれんぼ 6

 とろっとろのオムレツとカリッと焼かれたベーコン。細かく切った野菜の入ったコンソメスープにパンとレバーペーストが古民家と呼ばれる木と土でできた日本の伝統家屋に不釣り合いなほどの洋風感を醸し出していた。

 目の前で懸命に食べる成長期の少年は

『ムッシュ!俺こんな美味しい朝ごはん食べた事ないよ!』

 飯田さんの事をフレンチのシェフと言う紹介をせずに水曜、木曜に遊びに来る料理好きなお兄さんとフレンドリーさを持って貰うように紹介すれば

『ムッシュではなく気軽にイイダと呼んでください」

『ダコール!なら俺の事はオリーって呼んで!』

『ファンの方に恨まれそうですね』

『俺はイイダご飯を独り占めするアヤトに嫉妬だ!』

 何だか楽しそうな二人に俺とチョリさんは黙って昨日の残りの鍋の処理に励む。

 飯田さんは昨日の鍋のお味を再調整した後(苦っ!)ご飯を入れて朝からおじやを用意してくれるのだった。

 オリヴィエはなにそれと言ったけど飯田さんはこの国のオートミールみたいなものですよと判りやすい説明をするのに俺もなるほどと聞いていたが、烏骨鶏のトロトロのオムレツは貰ったとは言えあまりに何か格差のある食卓に俺がこの家の主人じゃなかったっけと何度も首をかしげてしまうのは仕方がないだろう。

『それにしてもこんな山奥でマサタカにも負けない綺麗なフランス語を話す人に会えるなんて思ってなかった!』

 片言で悪かったなと思うも相手は子供。悪気はないのだろうと言うか、この程度の嫌味は高校時代に散々鍛えられて右から左に流れて行くのでノーダメージだ。

『そうですね。俺も綾人さんの家でなければオリーに会えなかったので奇跡みたいな出会いですね』

 おやおや?珍しく飯田さんが遠回しに毒を吐いてらっしゃる。

 ちらりとチョリさんを見れば俺が視線を向けた事で今の言い回しが感動からの言葉ではない事に気が付いたようだ。

 さすが年の功。

 なんては言わないけど、テンション高いオリヴィエに聞こえないように俺に耳打ちをする。

「彼ってひょっとして……難しい人?」

 なんて言えばいいか判らないような、でも曲者とでもいうような聞き方に俺はどうだろうと思うも

「飯田さんはサービスのプロだから。

 笑顔でえげつない言葉を言っても不快感を与えない、特殊技能をお持ちだから」

 比較的丁寧に俺に対しては対応してもらっていると思っている。だけど前に下の街で一緒に蕎麦祭りで新蕎麦を食べに行った時、高校の元クラスメイトにばったりと出会って俺が無職だと知れば学年順位トップがと大笑いされた時に連れ立っていた女の子達をフランス仕込みのナンパ術(?)で一瞬に落として元クラスメイトを一瞬で捨てさせると言う謎の技術を披露してくれた事を思いだした。

 元クラスメイトのからかい何てほんとすり抜けるほどすぐ横の修羅場の方が俺は気になっていた。

 そんな話を思い出しながらチョリさんに説明をする。要点だけを端的に。

 ここに波瑠さんがいたら一時間ほど説教されそうな予感しかなく、苦笑しながら聞くチョリさんのその笑いの部分は俺の説明か飯田さんの話しかちょっとだけ知りたい。

 どっちにしてもだ。

 言葉が通じない。これは便利だなと、飯田さんは俺がチョリさんに話をしている内容にぎょっとしていた物の美味しいご飯で一発でなついでしまったオリヴィエは怒涛のフランス語での会話が止まらないと言う様に料理のおいしさを語り続けていた。

 言っておくけどしゃべるのは得意じゃないけど文字と聞き取りに関しては俺は問題ないよ?

 さりげなく俺をディスりながらの飯田さんべた褒めはこの年齢の子供ならあるあるなので大人な俺はスルー出来るけど、思うのはただ一つ。

「俺が言うのもなんだけどあの子コミュ力ないでしょ?」

 とりあえず自分を棚の上にあげて言えば

「まぁ、オリヴィエクラスになると周囲はみんな子供はかわいいって言う年齢ばかりだからね。

 孫を見る目で和んじゃうから」

「注意しろよ」

「バイオリンを弾く場所でしか集まらないから、子供からプロになる子達は絶対舐められるからプロ意識すごく高いから。おじいちゃんたちの機嫌を損ねる真似は絶対しないから怒る人なんていないんだよ」

「タチわりぃー」

 そんなガキを預かったのかと半眼でデザートを食べるオリヴィエの視界の外から睨みつけるも

「オリヴィエクラスになると声のトーンで感情を読み取るから。

 しっかり警戒されてるから……7月の演奏会までうまくやろう?」

 同じく滞在するチョリさんも演奏会が無事出来るようにお願いしますと言われてしまうも

「それはそっちの事情。 

 俺は部屋を貸すだけだから」

 そう言ってご馳走様とかなり食べた雑炊の茶わんを水道に置いて

『七時にタクシー呼んであるからチョリさんは駅まで送ってもらう様に。

 飯田さんは食べたら寝る!

 で、オリヴィエは暇そうだから俺と一緒に畑の仕事だ!

 ここでは働かざる者食うべからず!

 三百年以上続くらしい我が家の家訓だ!』

 パンと派手な音を立てるように手を叩けばそれが合図と言わんばかりにクラクションが鳴る音に外を見ればタクシーが家の門の外で待っていたのだった。











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