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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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恵みの雨が来る前に 8

 草刈りに出掛けたら隣の畑の人と出会って挨拶を何度も繰り返す事になった。

 放置した土地の事を謝り、近く長谷川工務店の方が草刈りをしてくれる手筈になっていると説明をすれば、やはり狭い谷あいの町。皆さん長谷川さんを知っていたのはやはり動物除けの柵を立ててもらっていたからだった。

 そこでやっと俺に興味と言うか、警戒を取ってもらった所で俺が吉野の孫だと言う事を知って「こんな若いのに」なんて憐れんでくれた視線は大きなお世話だ。

 ただどこの畑を言ってもジイちゃん、バアちゃんの話題となり、話の流れで内田さんとの付き合いから家の手入れをしてもらってるとかいずれ冬場だけでも街に降りてくるために町のはずれの家を買ったとか知らず知らずと俺から情報を抜き取っていく話術に対する俺のプライベートに対する防衛システムはほぼゼロにも等しかったが、その程度の話題なら明日町中に広まっても問題ないだろうと提供はしておく。その提供の中にさらりと

「この飛び地の管理も大変だから誰か引き取ってくれる人が居ればいいんだけどね」

 なんて猟友会の皆さんとその奥さんに鍛え上げられたお年寄り受けする笑みを浮かべて大変だーなんて言う事もぼやいておく。毎年税金を払う事を考えれば格安で譲る事も考えている。さらに言えば宅地扱いの土地もいくつかあるのだ。隣の家が息子の家にと買い取ってくれればいいなと思いながらも期待しながらとりあえず道路にはみ出さないように草を刈って後にするのだった。

 肉体的よりも精神的な疲労にぐったりとして帰って来て真っ直ぐ五右衛門風呂に直行。お湯につかっていれば

「なかなか気持ちよさそうですな」

 与市さんが窓からお帰りと挨拶をしてくれたので

「良ければタオル置いておくので仕事上がりに使って行ってください」

「懐かしいなぁ」

 目尻に深い皺を寄せて笑みを浮かべ折角だから帰りに浴びさせてもらうと言ってまた山に登っていく様子を見送るのだった。

 この日は霧が降りてきたから少し早目に切り上げて皆さんは帰って行った。

 与市さんはよほど五右衛門風呂を楽しみにしていたようで皆さんの心遣いで一人先に五右衛門風呂を堪能していたから与市さんがお風呂を上がるまでにいろいろ片づけをしていつでも帰れるようにと準備をしていた。勿論与市さんもその時間は読めるのでゆっくりととまではいかなかったが俺の感覚では普通にお風呂に浸かる程度で上がって来た。 

 因みに俺が昼に入った時に少し薪をくべたので熱めだったと思ったが与市さんはまだぬるいと言うが健太郎さんが

「親父は熱いの好きだからな。そろそろ年なんだから気を付けろよ」

 そんな小言を笑って聞くのだった。

 

 途端に静かになってご飯の準備をする。そして五右衛門風呂も洗って入れなおす。これは一種の飯田さんが来る前のルーティン、と言うか一人暮らしの不規則な生活をリセットする為の儀式だと思っている。相手は飯田さんじゃなくても良いが、先生相手じゃやる気も沸かない。だから飯田さん。別に気持ちよく料理をしていただくためとか美味しいご飯の為とかそんな下心があるなんて言わないけど。

 せっかく遠方から車を飛ばしてくれるのだから少しでも休んでほしいと言う思いで丁寧に迎える事にする。滞在中はぞんざいな扱いになるがそこは所詮は男同士、気にしない。 

 ゆっくりと時間をかけてお風呂にお水を溜めてお湯を沸かして行く。そこは経験からの感で適当に沸かして行く。そしてちゃんとお湯を混ぜて温度をちゃんと確かめておく。全自動のお風呂と違ってお湯の上部は熱くても下の方はぬるかったりするからこの温度差にびっくりしないように気を付けておく。

 もっとも飯田さんのご実家もそれなりに古民家なので逆に気を使わせて申し訳ありませんと言われたがどっちにしても俺も入る風呂なので気にしないでくださいと言うしかないだろう。

 掃除も終えて風呂の準備も出来た。足りない調味料はちゃんと補充したし、風呂の準備の合間にご飯も食べて、高校生達に勉強を教えながら時間を過ごす。

 もうすぐ中間テストを控え、陸斗と園田はわちゃわちゃと緊張している様子だけど、先生とこの三人組は、元々中学受験(失敗)を経験している為にテストに対する集中力はどんと構えるおっさんのような謎の貫録を持っていた。

 まあ、それは自信から繋がる余裕なのだろうが、園田はともかく陸斗の緊張癖はあまり宜しくないが十数年に渡る環境のせいなのだ。これは寧ろ俺がどうこうできる問題ではなく、父親となった圭斗の試練(?)だと思って俺はあまりかかわらないようにしている。手を差し伸ばせたらその方が良いのだが、親に放置された俺がそれに対する術はなく、それを拒否して育った俺にとっては未知数の問題だ。

 いや、まったくと言ったらそうではない。

 バアちゃんが居たのだ。

 バアちゃんが圭斗に施した無償の優しさを見て来た俺は決して望んだ物ではなくサポートする物しか与える事しか知らない。

 たとえばお振ると言った俺の服だったり、誕生日と称してお揃いの物を買ったり、遊びに行った折にお菓子や強請るごはんの食材だったりと遠回しな手段しか思いつかなく、その行動となる根本を知る圭斗は頭を抱えつつも俺の行動を止めない辺りそれは陸斗に必要な物だからと、あいつの行動原理は何時も妹の香奈と陸斗に起因する。自分の事はいつも後回しな圭斗を可哀想と思はないのはそれが圭斗の意志と言うのを俺は割り切るが、いつ宮下の何とかならない?なんて言う視線に俺が頭を悩ますのもいつもの事だ。

 おかげと言うかなんだかんだ俺にも人間性が出来たなと誉める先生に焼き栗を投げつけたのは無邪気な子供心だと思いたい。

 それはともあれ高校生達の雑談交じりの家庭教師を終えた俺は早々にベットに潜り、気持ち少し寝坊して庭へと出れば既に出勤していた烏骨鶏と隣の離れから零れ落ちる楽しげに弾む笑い声に寝坊したかと思うも、正面から昇る太陽に気持ち遅れたと言う程度しか遅れてない。

 顔をひきこんだ山水で洗い、冷たさに身を震わせ目を覚まし


「おはようございます!」

 

 離れの扉を開ければ飯田さんを始め小山さん、山口夫妻ともに柔らかな笑みを浮かべ


「おはようございます。

 本日もよろしくお願いします」

 

 ひとっぷろ浴びてさっぱりとした飯田さんの挨拶に今日も良い一日が始まる予感は絶対だと確信を覚えた。





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