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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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恵みの雨が来る前に 7

 はい。

 一発で犯人を見つけてしまいました……

 思わずスマホを睨みつけてしまえば見守っていた遠藤もドン引きで……逃げるようにハーブ畑の中に潜り込んでこちらを伺うような視線だけを投げてくるのだった。

 どうせもう一度かけても通じないだろうからとメッセージを送っておく。

「くそー、小山さん飯田さんと言いちゃっかりしすぎだろ」

 飯田さんはもっとこまめにお礼してくれるので良しとするが

「立派に育ったハーブを引っこ抜かれたくなかったらお話ししましょう」

 と送ればすぐに電話がかかって来た。

「ふっふっふ……

 人質がどうなっても良いのか?」

『ええと、本当に育つとは思わなくて、勝手に植えてすみませんでした』

 すみませんでしたと言う割には声は嬉しそうで反省もしてないようだ。

 俺も全く気付いてなかったし、まぁ、いいけど。

「料理に使う奴ですか?」

『はい!肉料理は勿論、お酒のハーブ漬けなんかにも使えます』

「ふーん?」

『それを使ったデザートは勿論、香りが強いので束ねてお風呂に浮かべればリラックス効果があります。ハンドクリームに混ぜて使ってもらっても良いですし、日本ではあまり見かけませんがヨーロッパではわりとポピュラーな品種です』

「ヨーロッパでも仕事してたの?」

 と言った所で察してしまった。地雷を踏んだと……

『いいえー?仕事で行った時に観光で食べ歩いて勉強した程度ですー』

 少しどころかテンションの下がった声に失笑しつつも

「今度の休みぐらいに様子を見に来て下さい」

『はい、この間飯田から奥様方にハーブ畑を荒らされたと嘆いていたので一度様子を見に行きたいと思ってました』

「ああ、うん。荒らされたって言うか刈り取られたって言うか」

『俺のハーブがあああぁぁぁ!!!』

「うちのハーブです。勝手に黙って植えておいて自分の物だと主張しても通りません」

『うん。だけどね、叫ばずにはいられないでしょ?飯田に取り寄せさせた貴重なハーブだよ?』

「今安い友情って言うか聞き捨てならない言葉を聞いたな」

『はっ!!!』

 わざと巻きこんだような芝居がかった声にもう俺は無駄な時間を過ごさないように諦めて

「とりあえず飯田さんはいつもの通り火曜の深夜って言うか水曜の早朝に来ますので、小山さんは安全運転で来て下さい」

『うん。俺もあいつみたいなバカげた体力ないから。ふつーないよね?

 あ、そうだ。山口さんと奥さんの美和さん連れてっても良い?ゴールデンウィークの間ずーっと働きづくめだったから慰安的に良いかな?』

「あー、今うち柵の工事して少し騒がしいけどそれでよければ無理をしないように泊まりでどうぞって」

『ありがとうございます。二人に話をしてからメッセージの方に返事を入れて置きます』

「うん。それより仕入れの方は大丈夫?」

『はい、今日は予約のお客様が居ないので明日の休みに合わせていろいろ使い切ったりのランチの予定にしてますので』

 固定客は在れど東京の様に人数が限られた場所ではそう言った事も考えながら経営しないといけないのかと感心しながら「残った食材を処分するなら買い取りますので持って来て下さい」と付け加えて通話を終了。

 いつの間にか戻ってきて傍らでずーっと様子を見守っていた遠藤に

「そうだ。明日飯田さんにみんなのご飯作ってもらおう」

 そう言ってスマホで作ってもらえるか聞けばお昼前には任せてくださいと連絡が来た。

 人数と内容はお任せにして、小山さんも来る事になった事を教える。それはもう聞いていたようで、俺からも小山さんから飯田さんにお昼を作るのをお願いしたと言えばそれまでに行きますとの返答。急かせてしまって申し訳ないと思いつつも昨日からみんなで食べるお昼の時間にそう言う事になったから明日のお昼は家でお出ししますと言えば独身の皆様からは大層喜ばれるのだった。

 そんなこんなで今日は麓の家の方を様子を見に行く。

 健太郎さんに留守を告げて軽トラで三十分走った先の世界はうだるように暑く

「別世界に来た」

「お前の家が寒いだけだ」

「さすがにもう雪が降る事はない。と信じたい」

 圭斗に向かってきりっとそこまで極寒の地じゃないと主張する。数日前にはまだ雪が降ったが……今はもう雨だと昨夜一瞬降った雨の事を思いだしてみるも

「そういや山に雲がかかってたな」

「霧か雲かあそこに居るとよくわからないからな」

 なんて言いながらも

「それよりも重装備だな」

 俺の草刈り仕様のスタイルを見た圭斗が暑そうだなと憐れんでくれる。

「昨日長谷川さんとこで草刈りをしてくれるって言うからお願いする事にしたんだけど、とりあえず交通の被害がありそうなところだけでもさくっと刈っておこうかと思ってさ」

「仕事で頼んでいるのなら綾人君がやる必要はないよ」

 浩太さんもやってきてそう言ってくれるが

「草刈りさぼったせいで誰かが事故った時嫌じゃん」

「いや、この街や綾人君の住む村の雑草率を考えればそこは気にするべき量じゃないと思うんだ?」

 浩太さん心が広いなあと思っていれば鉄治さんもやってきて

「雑草よりも雑草に潜む猪とかあいつらの方が厄介だ」

「ああ、はい。あいつらの方が厄介ですね」

 何せこの近辺では新車は買うなと言うくらい野生動物と車の遭遇率が高いのだ。

 もちろん出合い頭に、と言う奴。

 俺の場合は……年に一度まではいかないけど遭遇して、美味しく頂くようにしている。

 ……。

 いつの間にかこの村に染まってるなと、かつて野生動物を見つけて大騒ぎしていた子供の頃の俺に今の姿を見せてやりたいと、ちょっぴり涙を流して

「何か虚しくなっちゃったから草刈りして気でも紛らわせてくる」

「ん?よくわからんが気を付けてこいよ」

 圭斗達に見送られながら俺が無視し続けて手を入れなかったそれなりに車の通る道沿いの草だけを刈り取る一日を過ごすのだった。  

 



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