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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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332/957

歴史と共になんてただの腐れ縁だろうがそれでも切っても切り離されない縁は確かにある 8

 隣の森村さんん達との話しや、学校帰りの勉強会の話しに耳を傾けていれば妙に寒いと思えば雪が舞いだしていた。

「あー、この冬最後だといいな」

「桜も咲いているからきっとこれが最後でしょうね」

 桜?

 そんな木あったっけと首を傾げれば陸斗がある方向へと指を差ししめした。

 他の木々の枝の隙間から覗く白く、儚く、幽玄な。

 遠目に見ても確かに桜かな?と言うようなまばらな花に畑を出て白樺並木の方へと足を向ければそれは柵のすぐ外に在り、冬の間なら雪に埋もれていた柵を押し開けてて向かえばすぐ側にその木はあった。

「なんか寂しい木だな」

 遠目から見た様にポツリポツリとしか咲かない花に

「周りに木があるからかな?日当たりもあまり悪いようだし……」

 言われればそうだなと陸斗はよく見てるなと感心すれば

「知ってます?桜の木って枝の三倍ぐらいに根を張るんだって」

「知らないし」

 驚く陸斗に

「根を張る事は知っているが、三倍とは知らなかった。東京じゃあ根を張るから桜を植えるなって言ってるんだ」

「何で?」

 素直に疑問の色を浮かべる顔の陸斗に俺は真顔で言う。

「水道管をぶち破るらしい」

「ええ……」

 嘘でしょとは言わないが信じられないと言う顔の陸斗だが、桜の木ではないけど母校の小学校が何かの木が水道管をぶち破ったのであながちウソではないだろうと思っている。

「どっちにしても樹齢もそこそこ行ってるからな。

 ソメイヨシノなら六十から七十と聞くけど、山桜は百年だったか?」

 今から逆算して考えれば爺さんが産まれた頃、もしくは非違爺さんが結婚した頃だろうか。挿し木で苗を育てたはずだから雪深いここで育てる前に別の、例えば下の畑で何年か過ごしただろうと考えれば百とは言わなくても納得する樹齢はあるはうだと思う。 

 太く、小さな傷から溢れた蜜が固まる様子に歴史を感じながら雪で折れた枝を見るも、そこから伸びた枝に花が咲いていて、思わず笑みが浮かぶ。

「麓でももう桜は終わったと思ったのにな」

「ソメイヨシノよりも山桜は少し遅いですからね」

「先に葉っぱが出るから寂しそうに思うんだよな」

「塩漬けにした葉っぱの桜餅美味しいですよね」

「詳しくは飯田さんに聞こうねー」

 長命寺桜餅と道明寺桜餅の二種類あるが共通する事は塩漬けの葉っぱが使われていると言う事。俺はこっちに引っ越してきて道明寺の桜餅に驚きの感動を覚えたが、宮下はテレビで見て道明寺桜餅を知ったと言う。

 俺は道明寺のもっちもっち感が好きだが、宮下に無理やり食べさせればやはりおいしいと言う。

 うん。美味しいは正義だ。

 カレーが飲み物の様に美味しいは正義。二度言ってみた。

 固定概念を壊すのは相応以上の勇気がいるが、美味しければ茶が怖い。

 さっきまでの否定の言葉は忘れてまったりとした平和な時間が過ぎるほど穏やかな時はない。

 そんなタイミングで

「綾人ー!陸斗ー!

 ご飯だから帰っておいで―!!!」

 宮下の俺達を呼ぶ声。

 これぞ平和。

「今戻る!」

 そんな返答に「ご飯なくなるよ!」なんて脅迫は、水野達が居るから本当にヤバいと陸斗に急いで帰らないと何もなくなるぞと急かして急な斜面の山道を駆け上がる。

 案の定と言うか一番上の畑でばててしまえば烏骨鶏達と親はどうしたと言う様に起きだした子供達がおやつの時間ですかと集まってくる。知能的には同レベルなのか烏骨鶏と一緒に砂場で遊んでいるのを水野が子守をしてくれていた。そんな烏骨鶏に向かって

「おやつよりご飯をくれ……」

「何バカなこと言ってるのさ」

 駆け上がった事で息が切れて玄関を前に倒れる俺を他所に陸斗は台所へと向かう。

 何か言いたげな先生が俺を担いで縁側へと転がしたところで

「陸斗と話は出来たか?」

 昨日俺が溜めていた事を突かれるも

「とりあえず桜の木の周りの木は切ろうと思う」

 全く関係のない答えの理由はやっぱり桜餅だろうと思う事にして置いた。

 

 やがて起きだしてきた奥様達は隣に子供が居ない事に慌てて起きて来たけど、二日酔いのお父様方をおもちゃに既に朝ご飯を済ませた後。当然高校生達が活躍して、都会っ子三人組はこんなにもにぎやかなのにまだ夢の中だ。

「おはようございます。寒くはありませんでしたか?」

「おはようございます。子供達がすみません……」

 申し訳なさそうな顔に俺が面倒見たわけではないので

「いえ、良ければ後で風呂に入れてあげてください」

 残念な事にパジャマは既に砂場で泥だらけだ。

 そんな姿を見て何て事と言うようなお母様達はやられたと言う様に頭を抱えていた。ありがたい事に土間があるので温かい家の中でおままごとを楽しんでいたり、早く起きたのか土間ストーブの近くでごろごろとお昼寝にはいろうとする様子はストーブに注意と言うくらいの落ち着きを今は取り戻している。

 ひと遊びしておなかもいっぱいになったからね、後は寝るだけ。

 暖かな濡れたタオルで顔や手を綺麗に拭って綺麗な服に着替える頃にはもう半分夢の中。

 園田が大黒柱を磨く横で敷いた布団に転がせば朝からお昼寝タイムに入った子供達は静かな物だ。

「勉強見ながらついでに見てますよ」

 近くにお菓子とジュースを用意すれば最低限の時間稼ぎは十分だ。

 お母様達は急いでご飯を食べて、再度草刈りを頑張ろうとした所で……

「雪が降ってるとか?」

 先ほどよりもじゃかじゃかと降り出した雪にどうしようか悩むお母様達は……

 土間にキャンプ用品の机を持って来て昨日の戦利品で作品を作ると言う、隣の部屋で勉強してるからやめてよと思いながらも子供がすぐ隣で転がっているので出て行けとは言えないミステイク。

「まぁ、昼寝ならすぐに起きるだろ」

 眠りの浅い先生の説得のない言葉にとりあえず子供の昼寝の邪魔をしないように静かにしているお母様達に俺達も黙々と勉強に励むのだった。



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