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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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歴史と共になんてただの腐れ縁だろうがそれでも切っても切り離されない縁は確かにある 5

 とは言えこの三人組は先生が見捨てれなくて連れてきたのだから何とか面倒を見てやらないとなと座り直して

「見た所お前達が持って来た学校のテキストと塾のテキストのレベルがお前達の学校のレベルに合ってない。

 因みに学校で同じ塾の奴いるか?」

 聞けば三人とも首を横に振る。

「俺達家庭教師に教えてもらってるから」

 いわゆる大手の塾とかではなく、個人の受験対策用の家庭教師とマンツーマンで勉強していると言う。

 なんてこった……

「ひょっとしてお前らの親って金持ちなのか?」

 家庭環境を聞いてしまうのは仕方がないだろう。どうだろうと首を傾げる三人は

「うちは小さいけど会社を経営してる程度。東京の大学を卒業した人の個人経営塾でお母さんが塾の成績じゃ満足しなくて連れてきた」

「世に言う教育ママか」

「情緒教育でピアノもバイオリンもやりました」

「今は?」

「中学受験の時に止めました」

「もったいねえ」

 続けて何ぼだろ?と言えば親がやらせたかっただけなのでという返答になるほどと納得してしまった。

「塾も親がやらせたい物で、家庭教師も親が見つけて来るもので、お前を全然考えてない事だけは判った」

 随分と不快な言葉だが、それを理解してか黙ってしまった羽田の心の中も同意見なのだろう。

「んで、お前の家も会社やってるの?」

 柚木だったかに聞けば

「うちは代々病院を経営していて……」

 効いてググれば

「あ、あった。駅の近くの、結構大きいんだけど?」

「そこです」

 恥ずかしそうに言う。

「この程度じゃ医大受からないだろ。私大の医学部なら行けるかもしれないけど、どのみち留年は決定レベルだな」

 辛辣な言葉だけど現実をただ告げる。

 何か言いたそうな言葉だが

「最初やらせた問題の中にとある医大の入試の数学を取り入れている。

 最低限全問回答が俺の中じゃ最低レベルだ」

 入手方法は秘密だが、その内容に反抗的な視線が改めて戸惑いの色を見せ

「医大だと医大専門の受験用の塾のコースがある。家庭教師よりもそちらで塾通いする方が正解だろ?情報だって常に新しくなるし、問題も流行だってある。

 親が連れてきた家庭教師って奴はそれなりに年齢上がってるんじゃないか?」

 聞けば何でわかるのって言うようなぽかんとした口に

「親から取り込んで生徒を集めなければならないレベル。その先生も医大でなければ悪くはないが、旬が過ぎたんだよ。

 個人の家庭教師雇うならまず塾に行って、今なら先生と個人勉強してくれるコースとかがあると思うから、そこで集中した方が良い。受験の倍率の中に一年、二年集中して受験それだけを勉強してきた奴らがライバルだ。ただ勉強を教えてくれる先生よりちゃんと目的に合わした先生見つける方が重要だ」

 そしてもう一人のガタイの良い石岡に

「将来は?」

「うちは弁護士家系なので」

「一番イージーモード。どんどん暗記しろよー、計算しろよー、ひたすら勉強しろよー、とにかく経験を積めと言う以外ないな」

 言えばピシリとこめかみに青筋を走らせ

「弁護士の資格は一番難しい資格とされてます!六法全書を全部暗記しなくてはいけないし、大学だけじゃ試験は無理だし!やればできる何て生易しい世界じゃないんだ!」

「だったら別に継がなくてもいいんじゃね?六法全書丸暗記するのが苦痛な時点で適正なんてないだろうし?」

 そんな挑発に顔を真っ赤にするのを眺めながら

「弁護士じゃなくても司法司書でも立派な仕事だ。ストイックに勉強できなくて文句言う奴の世話何てこの先の事を考えれば誰も面倒見たくないしそんな奴に未来何て見いだせない。

 お前は勉強どうこうより一度進路自体を考え直した方が良いぞ」

 うぐっと息を呑み込む石岡の名前をググればすぐにヒットして、その地に根付く弁護士一家と言うのがHPの内容から理解できた。

「兄弟は?」

「兄貴と弟が一人ずつ」

「じゃあお前一人ぐらい異色な経歴があってもいいんじゃね?」

 言えば黙ってしまう様子はその無駄にとは言わないが不釣り合いなまでの鍛えた体つきから想像は容易い。

 そんな分析をする俺の視線に

「ずっと剣道をやってました。段を持ってます」

 まるで今も未練があると言う顔で白状した。

「警察とかそっち方面もあるだろ?」

「子供の頃は警官になりたかったのです」

「あー、それなら弁護士じゃなくって警察官のキャリアからトップを目指せばいい。それなら家族も納得満足な履歴だ」

 言えばぱっと明るくなる顔にそんな夢があるならそっち目指そうなと頷けば未来が切り開かれると言う顔に一つの真実を告げる。

「キャリアのほとんどはいわゆる旧帝大出身で、一番人気の大学の法学部は一問でも間違えたら落ちる事で有名な所だ。余計に難しさがレベルアップしたぞ」

 言うも息を呑み込んだ石岡は

「別にトップじゃなくてもいいんだけど」

 逃げ癖ではないが妥協点を見つけようとする。

「まあな。とりあえずキャリア目指す方向で親を説得してこい。多少の誇張も利用してもいいし、目指す大学も決めれば親も納得するだろう。滑り止めだって受けるだろうし。それに他の法学部からもなれるけどなるべくそれに準じる大学を心の中で本命にしておけばいい。もし妥協と言う物をお前の中で作るのならな」

 逃げ道を潰しながら親もそこまで融通が利かないわけないよな?と聞くもどこか自信なさ気な顔に

「とりあえずどちらも法学部だ。入ればこっちのもんだ」

 しゃべりながらもパソコンを動かし続けた手を止めてプリントアウトした物を石岡に渡す。

「キャリア目指すなら余計避けて通れない数学をガッツリやろうか」

「ひゃあああっっっ!!!」

 まるでバケモノを見たと言わんばかりの石岡の悲鳴に

「綾人、あんまりびびらすなよー」

 先生の長閑な声。

「なんかやっと目標が出来た所」

 言いながらもどんどんプリントアウトする問題用紙を三人分に分けて山を作る。

 なにそれと不安げな視線に

「まぁ、専門的な事は俺は無理だし大学に行ってからだから、今はとりあえず反復勉強で苦手意識をなくして学力の底上げだ。

 これから授業前、昼休み、授業後に先生と一緒に勉強する時間を作ればいい。三人とも部活は?」

「「「やってないです」」」

 勉強漬けの青春だなと感心すれば

「俺からも先生に問題用紙どんどん送るから、とりあえず夏休みまではそれを集中にしてやる様に。判らない問題があったらLIMEですぐ相談。金曜は夕方の六時までは連絡取れないからそこだけは約束守れ」

 すぐにスマホにメモるあたりこう言う機敏さを園田達にも身に付けてほしいと思う中やっと仕事を終えたプリンターが吐きだした問題用紙を三人に分ける。

「とりあえず学力の底上げとして今園田と陸斗に勉強させてる内容をこの休みの間進めるぞ?」

 言いながらも渡されたプリントを見てうえっと呻いていた。

「苦手な数学をたくさん用意してみた。国語、社会、理科、英語はお前達の今の学力でも十分問題ないから学校の授業でもなんとかなりそうだからな。何ともなりそうもないう数学の強化合宿やるぞ」

 嫌だ、逃げたいとどこか涙目の三人に

「諦めろー、逃げたら熊が待ってるこんな山奥だ。数学の方が優しいぞ」

 先生の暢気な声が響けば宮下が休憩にとお茶を持って来てくれた。

「とりあえず綾人を信用しておけば間違いないよ?」

 圧倒的俺信者の宮下の根拠ない信頼に三人はお茶で口を潤してすぐにプリントに早速と言うように取り掛かる。

「勉強に取り掛かる態度は良いな」

 勉強に取り掛からせるだけでも苦労した地元の高校生達を相手にしていただけに皆さん良い子だねと心から誉めてあげたくなる。

 そうして始まった勉強への集中力の高さに俺は苦戦してるだろう園田の方へと向かって二人の勉強を見る。だけど園田の面倒を陸斗が見ると言う状況にこれは陸斗には良い勉強法だとそのまま続けさせることにして、幸治に関しては先生に一任する。何やら先生が楽しそうなのでたまには良いだろうと思いながらまだ躓く事もなくプリントを進める三人に「ちょっと外の様子見てくる」と言って家の中は温かいのに外はまだまだ上着を必要とする寒さだけど火照った体にはちょうどいいと昼寝から目が覚めてひと遊びして満足したのかおやつを食べる皆様の様子を見て


「そろそろ今日はお開きにしましょう。

 幸治君を下に送っていきますので皆さんにもそろそろ上に来てもらう予定にします。

 ご飯の準備お願いします」

「はい、お願いされました!」

 

 喜々とした顔がハーブを乾かそうと纏めたり揃えたり、何故かウォッカと氷砂糖でハーブを漬けようとしたり、果物とハーブでジャムを作ってたりと……

 そういや飯田さん作ってたなとなんだか懐かしい光景を思い出しながらよろしくお願いしますとあまりかかわらないようにして幸治を連れて車を走らせるのだった。




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