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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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夕立のような 4

 内田親子が説得の末やっと帰ってもらい、できた友人宮下は簡単な夕食を作ってくれていた。

 友達万歳!と心の中で絶賛するもののテーブルの上に並べられたのは鍋だった。

 普通に白菜やネギ、うちにはないキノコ類をふんだんに入れて飯田さんが買ってくれた鶏肉もザクザクと入れてくれた。出汁は昆布と椎茸と化学調味料に醤油とほんの少しのお酒のみ。最後に塩で味を整えて

「さあ食べようか!」

「この真夏に鍋とかありえんだろ」

 圭斗は言いながらも取り皿に鶏肉ばかりを入れていれば宮下によって強制的に白菜もこんもりと盛られていた。

「季節は夏だけど気温は二十度だから全然問題なし!」

 作った手前何が悪いと宮下は断言しながら小さな一人用の鍋に汁と野菜、少しの肉を取り分けていた。

「これは陸斗が目を覚ました時用だから食べたらひどい事になるからね!」

「綾人ーそれよりも先生の器にもとってくれるー?」

「ああ!先生もそれぐらい自分でしろよ!」

 言いながら器を受け取り一種類ずつ取り分けていく。圭斗に白い目で見られながら

「俺と綾人の仲、羨ましいんだろー?せんせーは先にビールを飲みたいんだよ」

 何かとガンバってくれた先生に仕方がないと言って甘やかす俺が一番悪いのはわかっているが

「あ、お肉多めで」

「年寄りは野菜で十分だ」

「十歳しか違わないのにひどい!」

 なんて言いながら鍋の中のタンパク源を必死に奪い合いシメの雑炊をすすりながら鍋のつゆの最後の一滴まで奪い合って夕食は終わる。


「宮下ごちそうさん。お前立派な嫁さんになれるぜ?」

「えー?だったら先生もらってよ」

「良かったな、これで永久就職につけたぞ」

 ひゅーひゅーと囃子立てる圭斗達を見ながら俺はもうぼんやりとおねむの状況だ。座布団を丸めて頭を乗せれば一瞬で寝落ちの気配。

「ああ、綾人ここで寝るな。部屋に戻ってベットに行け」

「だけど陸斗が……」

「ちゃんと俺らが見てるからお前は先に寝ろ」

 圭斗は陸斗の事は兄の俺に任せておけと言うものの部屋に戻る体力がもうなかった。


 一瞬で落ちた綾人に宮下は客間から毛布を持ってくる。霧も降りてきて今夜は降るなと濃い森の匂いに家に連絡を入れる。

「綾人のとこに泊まってくる」

よく打ち慣れた一文はすぐに出来て送信すればすぐに返事が来た。

『あまり飲みすぎるんじゃないよ』

 うちの店のアルコール大量購入者に宴会が繰り広げられているとでも思っているのだろう。

 友人宅に外泊を認め、一度就職した先を一年で辞めて戻ってきて以来目的なくスーパーのパートを続けている事を許し(てるわけじゃないだろうけど)今もこうやって体を気遣ってくれる母親を篠田兄弟が羨むのは当然だと、この当たり前のような愛情が手に入れられない子供もいる事を哀れむ事ができる俺は幸せ者だと改めて思い知る。

 鍋を洗って片付けて先生の為に改めて酒の肴を用意する。

「せんせー、お酒ばかりじゃ体壊すから、ちゃんと食べながら呑んで」

 台所の棚から日本酒を持ち出してコップ酒を呑むという情緒のなさに呆れるも

「宮下は酒飲むなよー。圭斗は潰したから何かあった時の車運転よろしく」

「早くね?!」

 言われて圭斗を見れば洗い物をしていたほんのわずかな時間で赤ら顔で横になる圭斗をかわいそうにと毛布をかけておいた。

「せんせー程々にしてくれよー」

「んー?まあ、こいつももう大人になったんだから大人の付き合いを学べって言うもんだ」

 落花生を圧力鍋で塩茹でした物を摘みながらちびりと酒を呑み

「所でお前動画を撮るの上手いな?」

「そう?時々綾人に動画で植物の観察日記を撮れってバイトやらされているから。あと変な植物の育て方を調べろとか」

「勉強苦手だったくせによくやるなあ?」

「ネットで調べてコピペで抜粋したものを綾人に渡しただけだけどね」

「アイツ、お前にそんな事させてるのかよ」

 心底呆れて綾人を甘やかすなと言われてしまう。確かに綾人からしたらそんな情報一瞬で収集できるだろう。自分よりもはるかに多い情報を集めれると思うけどそれをバイト料を払って俺にさせるあたりほんとに人良すぎだと思う。

「でも俺は楽しいからどんなつもりでやらせてるか知らないけどバイト代くれるから付き合うし、動画撮るカメラも綾人が色々買ってくれるから俺の懐は問題ないしね」

 先生は知らないと思うけど綾人の田舎暮らしの様子を動画に上げていたりしている。好評かどうかは分からないが一定の視聴者は居るし、広告収入も入っている。当然折半だ。パートの合間にコツコツと撮って編集して綾人に不都合がないか確認してもらってから動画を上げる。週一本あげれるかどうかだけど趣味で楽しむ分には楽しいと思う。

「まあ、お前がいいならそれで構わないが、お袋さんの為にもちゃんと就職して安心させてやれよ」

「この俺様を就職させてくれる所があればね」

 ふふんと笑っていえば先生は絶望の顔をして「まずどこもないな」と失礼な事を言ってくれた。

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