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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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夕立のような 3

 ドカッ!!!


 理由なく殴られて勢いのまま校舎の壁にぶつかったせいで痛みは二倍になった。


「ったく、金持って来いって言っただろ陸斗くーん」


 三人のクラスメイトに肩を組まれて逃げ出せないように周囲から哀れみの視線を受けながら引きづられ旧校舎の裏まで連れてこられ三人の要求が無理だと言えばいきなり殴られた。

「ごめんなさいっ!

 だけど五万何て無理だよ!」

「無理でも調達できるだろ?

 今までだって持ってこれたじゃないか」

「だって、それは……

 だけど今は……」

「はあ?何言ってるかぜーんぜんわっかんないんだけど!」

 その声とともに陸斗は腹に強烈な蹴りを受けて空っぽの胃袋から胃液を吐きだしながらお腹を抱えて地面に横たわるのだった。

「弱っ!まるで俺が虐めてるみたいじゃん?」

「ひでえ!それっていじめじゃん!」

 クラスメイトはそう言って三人で大笑いの声をあげる。

「大体、うちから仕事貰ってるんだろ?だったらお前の金はうちから施されたものなんだから、うちの金なんだよ。

 それを俺が使うのになんの問題があるんだ?」

「内田君、そんなの……」

 あるわけがないと言う常識を口に出す前に内田と共につるむ大野と小林は黙れとうずくまる陸斗を何度も蹴った。

「やめて!」「ごめんなさい!」「許して!」

 何度も繰り返して叫べど

「これは教育なんだよ?

 言われた事は何をしてでも守るって躾だ。ちゃーんと記憶しないとなあ?」

 内田は昏い顔をして陸斗を見下ろす。

「せっかくテストも終わったしぱーっと遊びたかったのに計画が台無しになっちゃったんだよ?」

 涙と鼻水で汚れた砂だらけの顔に向かって内田は笑う。

「来週は倍の十万持って来い。

 持ってこなかったらどうなるかわかるよな?」

 ゾッとするような笑みを向けて三人組は去っていき、絶望に満ちた嗚咽が暫くの間響いていた。




「こんなこっただろうとは思っていたが、随分と古典的で陰湿な手口だな」

「あーやーとー、感心してないでちっとはどうするべきか考えてよ」

 高山先生、あんたの学校の生徒だろと睨んでしまうのは仕方がないだろう。

「そうだよ。俺何度止めに入ろうとしたか」

「宮下よく我慢して動画を撮ってきてくれたよ。ありがとうな」

「綾人にはいっぱい恩があるからね」

 宮下はこれぐらいはお安い御用だと言うも顔を真っ青に、でも膝においた握り拳は怒りに震え唇を噛みしめながら怒りの衝動を制御しようとするも鼻呼吸なんてできないと言うようにハアハアとまるで体温を口から吐き出している野生の獣が涙を流しながらただひたすら堪えていた。

 誰もがそれ、陸斗の兄。圭斗を見ないように視線どころか顔も見ないように背中を向けながら今後の事を話し合う。

「陸斗は当分安静って事で学校には届けてある。このまま二学期の始業式まで休みって事にしたが……」

「綾人、学校にまた行けると思う?」

「あの三人組がいる限り無理だろう。居なくなったとしても同じ事の繰り返しになるだろうな。ただ義務教育は終わったから。通信学校、専門学校選べる道はいくらでもあるが、高卒の資格ぐらいは欲しいけど陸斗が動けるかは判断するには時間をかけて見守るしかないだろうな」

「圭斗本当に悪かった。学校でこんな事があってはいけないと言うのに」

「先生は、悪くないよ。担任でもないし、学年だって違う。部活の顧問ぐらいの繋がりしかなくって陸斗はほとんど部活にさえ行ってなかったんだし……」

 先生は関係ないと言うも心の中で何度も「何で守ってくれなかったんだよ!」と言う叫び声が俺達の耳にも響き渡っていた。


 傷だらけで意識が朦朧としている陸斗を顔なじみの保健室の医師に見せて救急車を呼ぶではなく直接病院へと向かった理由はここから病院まで片道二十分はあるからが一番の理由。病院に連絡して受け入れ態勢を整えてもらい、ちょうど空いていたと言うかこのような事態に全学年授業が急遽変更で帰宅する事となり、宮下は綾人と連絡を取りながら必要な書類を医師に用意してもらっていた。

 検査から頭の骨には異常はなく、肋と左腕にヒビが入り、あとは数を数えるのもバカバカしいぐらいのアザがあった。それは丁度服の下に隠れて人の目には気付かないそんな場所ばかりの暴力を受けていたのは昨日今日の話ではなかったと言う事だろう。中には親から受けたアザもあるが日にちの経過からこれは違うだろうとの医師の予測は親からの虐待を受けた時の診断書を書いてもらったときの先生と同じだったからの話。

「陸君薬が効いてぐっすり寝ているけど大丈夫かな?」

宮下の心配そうな声は

「やっぱり入院させた方が良いんじゃない?」

と言うも

「いや、三人組の大野ってやつのお袋さんがあの病院の看護師なんだ。

 何か話を聞かされて病院まで来られると厄介だ」

「先生、教師の特権使いすぎだけどありがとう」

 入院させようと思った所でギリギリ高山の連絡が間に合い、担当医とも話しあって病院の看護師の息子が院内で何かしたら大問題になるのを当然のように嫌がった医師の思惑も重なり、宮下の車で綾人の家まで運ばれた所で圭斗に連絡が回るのだった。

 まだそれらしい仕事を始めてなかった圭斗は住所兼事務所となる自宅の大改装中だったが、天井を剥がしたそのままの工事状態で綾人が住む山奥に今よりも真っ青な顔で車を飛ばしてきた。

 だけど先ほどお粥を食べて水を飲み、痛み止めの薬を飲んでまた眠ってしまった陸斗とは会話が弾む事なくただ

「兄ちゃん迷惑かけてごめん」

 静かな山奥の障害物の少ない家の中では離れていたところでお茶を飲んでいた俺達の耳にも聞こえ、何で被害者の陸斗が謝らないといけないのかあまりの彼の理不尽な日常に涙を堪えるのだった。


「それよりも内田さん。そんな所にいつまでも居ないで上がって下さい。お茶が冷めてしまいましたよ」

「申し訳ありません。

 うちの孫がこのようなことをしておいて、吉野の敷居を跨ぐなんてまねできません」

 内田祖父と父が両手をついて頭を地面に着けた姿勢でかれこれどれだけ過ぎただろうか。

 親に捨てられた綾人の冷酷になった部分が二人がやって来た所からずっとビデオのに納めているのはまだ誰も知らない。

「俺にあやまるのではなく篠田にお願いします。彼は陸斗の父になろうとしていますので彼に謝罪をしてください」

「綾人、俺は……」

 言葉では言い表せない#感情__怒り__#にそのあとの言葉が告げないでいたままだった。何度促しても形にならない言葉に俺はぐったりと囲炉裏の煙が登っていく為の高い天井を見上げ

「今日はお開きにしましょう。奥さん達が心配しています」

「だが内田の子供が、いずれうちを継ぐ頭になると思った孫が……」

「孫は一人ではなかったと思います。他のお孫さんも同じように可愛がって下さい」

 ハッと一瞬持ち上がった頭を再び地面に擦りつけて静かに嗚咽が静かな森に吸い込まれていった。

 確かまだ小学校の弟と妹がいたはずだ。長男だからとか内孫だからとかで全部を決めて欲しくない。そんな子供がどうなるかなんて、俺のオヤジや圭斗と陸斗のオヤジがいい例だろう。

 そんな父親にはならないでくれ、そう願いながら先生に頼んで帰るように説得してもらい、家のリフォーム代を稼いだと言う達成感もすでにかけらもなくただぐったりとした疲れだけが残された。

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