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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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夕立のような 1

「え?茅が調達できないって……」

「茅と言うか職人が予定がいっぱいでして……」


 内田さんが申し訳無さそうで息子の浩太さんと山川さんと頭を下げに来た。

「今年はいろいろな所で葺き替えが予定されてまして、知り合いをあたってみたのですが全部予約が入ってましてね」

「はあ……」

 ぼんやりと話を聞く。それはつまり……

「屋根を変えれないという事でしょうか?」

「いえ、茅の屋根が作れなくなっただけで普通にガルバリウム鋼板だけになります。ちゃんとした下地を作って合板を張って防水シートを敷き、ガルバニウム銅板を貼ります。ただここは寒冷地なので断熱材を入れないと冬場死ねますね。水道管もろとも」

「いや、多分入れても水道管は逝くと思いますが、せっかく建て直すんだから浮いた茅の代金を使ってとことん断熱に変更ですね」

「ありがとうございます。

 それでですが、大変言いにくいのですが……」

 言いにくそうに内田さんが山川さんを睨みながら

「大変申し訳なく思いますが茅を譲ってはいただけないでしょうか」

 山川さんの両手をついての申し出だった。

 なるほど。

 調達には時間がかかるとは言っていたが品薄なのはこの話を始めた時点で察していたつもりだったが譲って欲しいときたか……

「品薄だったのは今始まったことではないのですが、だんだん茅葺の屋根が無くなっていき、生産者も減っていきました。

 田舎では昔は互助していたと聞いた事があるかも知れませんが、今この近辺の集落や村にも茅葺屋根は御存知の通り見当たらなくなったと思います」

「だから茅を譲れね、虫のいい話だよね」

 体を縮こませる山川さんの背後にある窓から見える小屋を見れば屋根は一日中日陰の部分が腐りだしても居る。所々虫の巣もあるし、どこからか飛んできた草が成長して小さな花を咲かせている。

「別に一度は壊そうかと思っていた小屋だから茅葺きでなくなる事には未練はありませんが……」

 埃っぽくてカビ臭くてゴミが溢れて謎の瓶詰めが並んで虫が徘徊している小屋に懐かしさもなにもない。業務用冷蔵庫を置いたり農機具が濡れたりしない屋根と壁のある小屋程度にしか価値は見出してなかったので屋根裏で干していずれはと確保していた茅が有効利用される分には問題ないと思う。

「ただ、ちょっと思い出がね」

 言って苦笑。

 二人共バアちゃんが用意した物だということは知っているので視線が茶托の茶碗から離せなくなっている。

「いえ、なに。茅を持って屋根裏に持っていくのは俺の役目でして、あれだけの量を運んだ思い出とか、その時何回か階段から滑り落ちたとかそう言った思い出です。

 ですので、それを下ろすのかと思うとちょっとため息がと言うかなんというか」

 思い出と感傷を織り交ぜながら冬の早いこの地域ですぐに取り掛からなくてはいけない懸案に正直迷っているほどの期間はないだろう。

 正直寂しい気持ちがいっぱいだが、また数十年後に表面だけの部分を葺き替えたりしなくてはいけないと思うのは、一般的な家の屋根でも同じかも知れないがそれでも入手は困難ではなく職人はもっと減っている事も考えればこの選択は仕方がないというものだろう。

「良いですよ、茅売りますよ。

 うちのはススキですが大丈夫ですか?」

「ありがたい。ススキは競争率が高くて入手がだんだん難しくなってきたので」

「ですよねー。うちもバアちゃんがいなくなってからススキを育てるのをやめたぐらいですから」

「そう言えば畑の下の方はススキがいっぱいでしたね」

「屋根用にってバアちゃんが。バアちゃんがいなくなって小屋をなくすつもりだったから普通に刈り取って肥料にするとか烏骨鶏の寝床にするぐらいしか使いみちがないので」

「あの、それならあのススキを刈り取りに来てもよろしいでしょうか!」

 山川さんの真剣な申し出に対して俺は申し訳ないくらいに草刈り要因として山川さんに詰め寄ってしまう。

 内田さんは何やらさっちしてか厳しい顔をして山川さんの肩に手をかけていたが

「季節になったら知人達に声をかけて刈り取りに来ますので!」

 再度の懇願に

「費用は一切持たないので代わりに降ろした茅の処分代位は持ってください」

 俺は冷静に今回の改築代を減らす方法を考える中

「二人共!」

 浩太さんが声を張り上げた。

 俺たちの顔をじっくりと見て

「知り合いの農家は多いので皆さん肥料として喜んでもらいに来るでしょう」

「もちろんうちの分も残してください」

 自分の家の分ぐらいはキープしたいと先に申し出ておく。

 何が悲しくて有効利用できる物を他人にタダで渡し別物の類似品をわざわざ買わなくてはと言う物だが……

「そんな必死に言わなくても大丈夫ですよ。村の農家さんに一声かければ皆さん勝手に貰いに来ますから」

 言いながらその手配は任せてくださいと内田さんが責任を負ってくれた。

「じゃあ、これで見積もりは随分と変わりますね」

「と言いたいですが、やはり試算しても百万程度変るかどうかです」

「なかなか厳しい!」

「ですが工期はその分早く終わる予定です」

「冬になると路面が凍結するからその前に終われば問題ないです。

 スリップして谷底に落ちなければ問題ないですね」

 ただでさえ私道なのだ。柵がない場所もあるのでこればかりは気を付けてもらいたい。

「でしたら図面の方は屋根の変更をしてこのまま進めさせていただきます」

 広げられた図面を改めて見ながら説明を受けるのだった。







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