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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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春の足音はゆっくりじっくり 1

 内田さんに依頼して長沢さんがやる気になって数日後、街に降りて来たら寄ってくれと言うLIMEに内田さんの事務所に向えば

「これが設計書と見積もりだ」

 圭斗も連れて来て設計書は圭斗に、俺は見積書を見て

「離れよりは少なくてよかったと言うべきだろうか」

「思ったより簡単に終わりそうですね」

「まぁ、間の廊下を作るぐらいだからな。多少の段差に階段作るぐらいだろうか」

 山を切り開いて作った家の避けて通れない問題にそこは仕方がないだろうと思う。

「作業場の二階の窓を変えて開け閉めできるようにするかそのままはめ殺しのままにするかだが」

「あー、そのままでいいですよ。何だったら脚立持って来て掃除すればいいですし、俺が窓を掃除するわけじゃないですし」

 言えば少し怪訝な顔をした内田さんに

「俺か宮が掃除するから心配はいらないですよ」

 途端に呆れた視線に変って俺を見ていた。

「内田さん良いんですよ。陸斗にバイトと称して小遣い稼ぎさせる理由になるので」

「おま、陸斗を理由にするとは!いくらにするか後で相談な?」

「綾人君……」

 何とも言えない内田さんの視線には圭斗と共に背中を向けて

「週一でいいから風を通して欲しい。雑草も取って欲しいし、水槽の水を抜いて入れ替えて欲しい。夏場は、金魚でも入れておこうか」

「ボウフラ対策としてははいいが、魚臭い水で家の掃除をするつもりか?」

「あー、十円玉でも沈めておくか」

「そこは普通に銅板でいいだろう」

 綾人と圭斗の管理体制にもっと文明を使えと言うが圭斗も綾人もわかってないなと失笑する。

「陸が今家にあった火鉢で金魚を飼っているんですよ。そこからこっちに出張させて行ったり来たり楽しく面倒をみさせるつもりだから」

「ただお小遣いの為の手伝いより可愛がってる金魚へのご挨拶というプラスの楽しみがここにくる足を楽しませてくれるって奴だ」

 ほーと感心している内田さんに内心ちょろいなと思う綾人だが

「ろくに小遣いに渡せてやれないからな。搾り取れる奴がそばにいるなら活用しないとな」

 圭斗は確実に生活の為の節制を考えての言葉だが、親として満足な小遣いを渡せてやれなくて情けないとしょげる割には借金の返済と少なからずの貯金は着々と予定のペースを上回っている。

 理由は理科部の仲間から野菜をいつももらえているので買わなくて良くなったと言うのが一番の理由。肉はうちから分けているので加工食品だけが求められる食費はどこまでも抑えられている。代わりに学校帰りの溜まり場になってしまったが、勉強するための集まる場所だからでてけと言えるはずもない。先生もいなくなり理科部は廃部となってしまったが、残ったメンバーで圭斗の家に集まり今も勉強を頑張っている姿勢に圭斗は黙って応援をするのだった。


 ガラリ……

 内田さんの店のドアが開けば長沢さんがそこにいた…俺たちをみて踊りいたように目を見開くが

「吉野のが居るとは好都合。

 あの家の鍵を借りてもいいだろうか。建具を直すのに呼び出すのも何だろう」

「まあ、その度に呼び出されるのも何だしね。長沢さんじゃなきゃ預けるにはできないけど」

「家の中はまだ何もない廃墟だがな」

 取られるもには何もないだろうと圭斗は言うものの

「あそこは最低限のものを置く程度にするぞ」

 綾人は密かに決意を固める。ものを置き始めたら最後の予感、一瞬にしてゴミ屋敷に元通りだと身を震わすもあの状況を見ていない内田さんの長沢んも大袈裟だなあと呆れていた。この場で唯一あの現場を知りながらも一部屋確保して居座った圭斗は綾人の宣言にそれがいい。物なんて置くもんじゃないと何度も頷くも

「最低限机は作ろう。

 床に置いて食べるのは背中が曲がるぞ」

 圭斗は体験からの忠告をするが

「いや、最低限のものは用意するぞ?

 俺はそこまでミニマムに暮らすつもりはないからな?」

 いくら何でもそこまでシンプルな暮らしはできんと逆に綾人、内田、長沢から距離を取られる圭斗は納得できない顔をするのだった。

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