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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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旅立つ君に 5

「どっちにしてもあの家を何とかしないとなとは思っている。

 売りに出すのにあれだけ古い家を引き取ってくれるわけもないしなぁ」

 ぼやく先生にあの家の実態を知る俺と宮下と圭斗は何度も力強く頷く。

「その前に引っ越しまでに家は片付くのでしょうか?」

 飯田の素朴な疑問に

「「「終わるわけがない!」」」

 俺と宮下と圭斗で力強く断言すれば憐れむような飯田の視線に高山は背中を向けるのだった。

 だけどどれだけ口で説明しても理解できない子供達は舐め腐った事を言ってくれた。

「だったら俺達が手伝ってやるよ。

 あやっちって言うすっごいかてきょ紹介してくれたお礼じゃないけど。

 先生があやっちを紹介してくれなかったら俺達卒業どころか進級も危うかったから。中退してたかもしれないから、先生の家の掃除ぐらい手伝わせてください」

 水野や植田、上島を始めとした理科部全員が名乗り出るのを俺と宮下と圭斗は知らない聞こえないふりをして逃げようとするのだった。だけどそこは先生に掴まり

「先生、本当にいい生徒に恵まれて感激だぞ!」

 何故か俺と宮下がつかまって無事脱出した圭斗はほっとしたかのように汁の洗礼を浴びる俺達を可哀想な子を見る目で見ていた。

 どんくさいって言うな!そんな目で見るな!

 宮下を犠牲に脱出しようとも無駄に馬鹿力な先生の手からは抜け出せなくて、誤魔化すように歩いて行ける先生の家へと内見する事になった。お酒も飲んでるしね。

 みんなでぞろぞろと先生の家へと向かう。街中を流れる川を越えて少し上った所。細い、車がやっと入れる場所が先生の家だった。

 二軒並んでいて奥側の家は家人も亡くなり、相続の関係でただ維持されている空家。かなりお庭は荒れ果てている。小さな花壇にはムスカリ、クリスマスローズといった日陰でも咲く花に彩られていた面影はもうない。寂しさを感じながら花壇の手前の先生の家の玄関を開けたら……

 高校生達は絶句していた。勿論飯田も。

 見慣れている俺達は「また随分積もったなー」なんて生ごみ臭漂う匂いをかがないように玄関から距離を置いて眺めていた。

「そんな所で話しもなんだから上がっていいぞー」

 靴を脱いで入ろうとする先生に目を点にする一同。

「せんせー、初心者には無理見たいでーす」

 のんびりと宮下が抗議する。そうか?と振り向く先生の様子に相変わらず病んでるなーと離婚後の精神的な病状の把握。教師としての一面が正常で居させてくれるので誰も気が付かなかったのだろうか。いや、ファ●リーズの匂いしかしない時点で疑えよと言いたいもそれもこの家を知ってないと理解されない事。

「しょうがないなあ。綾人、とりあえず道作ってくれる?」

「仕方ねえなぁ」

 ご指名かよと土足のままずかずかと上がるのだった。

「相変わらずひどくない?」

「先生の家に比べたら常識だって」

 言いながら綾人はこたつの天板を探し当てて玄関から押し出すようにゴミを放り出す。

「あやっち、慣れてるね」

 園田が顔を引き攣らせているも何年前に買ったゴミ袋が下駄箱に当時のまままだちゃんとあったのを発見して

「お前ら、ごみを押し出して来るからゴミ袋に入れてくれ」

 引き攣る一堂に同様に買った軍手も渡すのだった。

 それから小一時間ほど片づけた所で廊下と階段の物を片付け足場を確保した。だけど何かの汁がこびりついているので全員で土足で上がれば誰もいない隣の部屋の奥からかさかさと物音が聞こえる。びくっとする高校生達は既に涙目だ。

「この未開の家を掃除する勇者になる奴いるか?」

 圭斗が呆れて聞くも誰も首を縦に振らない。

 圧倒的にビールの空き缶が酷いカンカンゴミ屋敷に缶を拾いながら進めとの綾人の指示にすぐにいっぱいになる缶を外までバケツリレーの如く出して行く。

「家がビール臭い」

「七年分の重みだよな」

「俺が片づけきったから四年分だよ」

 綾人の主張にそうだっけととぼけた先生だが誰もがもう先生に視線すら向けない。だけど飯田は埃塗れとは言え家の隅々や建具を見て

「それなりに良いお家なのに、なんて勿体ない使い方を」

「それ!建具何て若い頃の長沢さんが作った家なんですよ。家も内田さんのお父さんが作った家らしいし。綾人の家の古民家がインパクト在りすぎるけどここもかなりいい家のはずなんですよ!」

 宮下の涙ながらの主張に圭斗は初めて聞いたと言ってあちこちに視線を向けて

「ほんとに無駄にしやがったな?!」

「仕方がないじゃん。綾人君が掃除に来てくれないんだもん」

「二度と誰がするか!」

 冗談じゃねえと綾人は主張するが綾人の主張は間違ってないので皆で先生を冷たい視線で見る。

「立地も裏が距離があるとはいえ崖なのがいただけないけど日当たりは勿論街の夜景が展望できる場所ですし、学校も近くて便利そうですね」

「そうなのよ。夜になると電車が走り抜けて行くのを見ながらビールを飲むのが先生の楽しみなの」

「そしてこの#家__ゴミ__#が出来たと……」

 思わず近くに在ったゴミを蹴飛ばすもその下のゴミが現れるだけでストレスの発散にもならない。

「だけどどっちにしてもここ片づけないといけないんでしょ?」

 川上の素朴な疑問に

「まぁ、住みたいなら住んでもいいぞ?」

「絶対嫌です!」

 山田の背中に隠れて力強く拒絶をするのは当然だ。

「どっちにしてもだ。

 先生が向こうに行くのとここを片付けるのはどう考えても間に合わない」

 綾人が一つの結論を出した。

 掃除業者なら出来るかもしれないが、分別も危うい俺達と運搬をしなくてはならない事と綾人の家のように簡単にゴミを燃やせない土地柄に時間がかかる事だけは決定した。

「圭斗、空き缶の回収っていつ?」

「金曜日だよ」

 主婦の如くゴミ回収の日を理解する陸斗のおかげで一つの予定が立った。

「水野、上田、上島兄弟、お前ら卒業して暇だろ?」

 顔を引き攣らせて四人が涙する姿なんて見えないふりして

「バイト代出してやる。金曜日までにせめて空き缶だけでも片づけろ。ついでにペットボトルもだ。回収ネットの中に入れて置け」

「喉から出る欲しいバイト代だけど……」

「綾人、俺も手伝うぞ」

 同じく生活費も欲しい圭斗の言葉に俺は首を横に振って

「お前にはやってもらいたい事がある」

「……何か嫌な予感しかしねぇ」

 ガクリと項垂れる圭斗に俺は逃げないように肩を組んで

「先生、この家買ってやるから鍵寄越せ」

「うわぁ、綾人。このゴミ屋敷を買おうなんて男前だねぇ」

 お前が言うな!!!

 毒づく言葉を心の中に押しとどめながらもスマホを操作して全員に見せる様に掲げる。

「隣の家も売りに出している。まとめてお買い上げして何れ俺が冬場に住む別宅として改造するぞ!」

「え?こっちが別宅なの?」

 宮下のささやかな疑問に全員が頷く光景に折角の男前な決断をしたと言うのにどうでも良さげな宮下の口調に何だか泣きたくなってきた。


  

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