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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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白銀の世界で春を謳う 12

 大量のカラアゲがやっと揚がり終わる頃、ご飯も蒸らしの時間になってその間にテリーヌも出来上がる。テリーヌは少し休ませたいので一番最後に回してゴロゴロとカラアゲを大皿によそって取り皿に取って貰う事にした。囲炉裏の薪もいい感じに回っているので玉ねぎスープをかけて置く。竈のご飯をお櫃はないのでほぐしながら電子ジャーに移す。陸斗がお茶の準備をした所で

「圭ちゃん達呼んで来るね!」

 フットワーク軽く飛び出すも玄関の軒先の雪の壁にぶつからずに器用にかけて行く。テリーヌも切り分ける頃になれば賑やかな話し声が外から聞こえて来た。

「いやいや、壁に直接棚を付けるぐらいならサイドボードみたいなものを作ってそこに湯飲みとかちゃんと片づけておこう。埃塗れになるのがオチだしな」

「先生的にはそう言った生活感のある物を置かない方が良いと思うのよ」

「先生の生活感を教えてもらいたくねえ」

 ゴミ屋敷の実態を知る圭斗が苦々しい顔をする。確かに先生の家は生活感がないなと納得しながらも囲炉裏を囲むように座り

「ずいぶんヒートアップしてるな」

「まぁ、他人の金で好きにレイアウトできるんだ。

 あのテーブルが似合う古民家カフェって言うにはあのテーブル存在感在りすぎないか?」

「あの程度でビビるようじゃこれからやってけれないだろう」

 というか、俺の目が慣れているのが一番の問題なのだろうが。

「まぁ、確かにお前んちって何気に良い物で囲まれているからな」

 言いながらも頂きますをしてみんなして真っ先にカラアゲに箸を伸ばすのだった。

「おお二種類のカラアゲ、鹿と猪か?」

「蓮司君はさすがにここの生活で判るようになったか」

「まぁ、それなりに食べたから覚えました。容赦なく色んな部位を食べさせられましたから」

 それは難儀だったなと言う様に笑う山川さんに鹿の心臓を用意した。冷凍でカチカチだったけど、囲炉裏の熱で溶かしながらどうぞと言えばイイねと笑いながら手を伸ばす。となれば当然のように先生も食べたいと騒いで、元々山川さんはお泊りの予定で来てるので昼間から晩酌が始まってしまった。

 蓮司は

「いい大人が昼間から酒かよ」

 なんてボヤくが

「これで鬱陶しい先生が大人しくなった。今のうちに俺達で話しを詰めるぞ」

 容赦なく話を進めるようだ。

 もちろん二人はいつの間にかビールを取り出して来ていて勝手に飲み始めている。

 全くと思うも陸斗は一人幸せそうにカラアゲを堪能していて、なんだか一人取り残されてしまった。

 こうなってしまえば一人素面で居る方が馬鹿な話だ。

 焼酎を持ち出して来て一人で飲み始めれば焼酎も山川さんと先生に奪われてしまう。なので圭斗のビールをかっさらって二人の話に耳を傾ける。

「あれだけ大きな梁があるのならハンモックとか?」

「ハンモックなんて今更あれは暑い夏場ならともかく冬の長いここでやると寒いんだ」

 経験者は語るな口調だが、それをやったのは俺で見事風邪をひいたおまけつき。

「で、綾人のリクエストは?」

「明治なレトロ感」

「和の中に洋の文化を取り入れた感じか」

「単なるモダンな感じになるな」

 何だろうかこの敗北感。物凄いダメ出しをくらった気がする。

「だって裏庭とか、開放感ある窓とか、縁側とか、土間とかそう言うのは毎日見ているから十分だし」

「この贅沢者め!!!」

 蓮司が体重をかけて来て転びそうになるもビールが零れそうなのでなんとか耐えて見せた。

「お間、火の前でふざけたことするな!」

「寝言を言ってるお前が悪い」

 圭斗はその間に先生の鹿の心臓やレバーを食べてニマニマと笑ってい、その横で陸斗はとろっとろに煮とろけている玉ねぎ丸ごとスープを一人堪能していた。俺も食べたいなんて思っている間に陸斗は耐熱皿を持ち出して来て、ご飯をよそってコンソメスープをかけていた。更にチーズもかけてトースターの前で待機。嬉しそうな顔でチンとなる音を待ち続ける様子を微笑ましく、そして逞しくなったと水の一杯を貰うのも躊躇っていた姿からの成長に感動して涙が出そうだ。

「大体綾人は古民家カフェ風とか言ってても古民家カフェ何て実際知らないんだろ?!」

「当たり前だ!こっちは東京生まれ東京育ちでも中学までの履歴だ!ごく普通の中学生が古民家カフェに通う金があると思うか!」

「ごく普通の高校生に進化したら納税のし方が分らんと泣きついてきたガキの言葉とは思えんな」

 先生のヤジにそこ黙っててと鹿のレバーを盗み食い。シャリシャリとしたソルベなレバーは塩と七味がガッツリと振りかけられていてうまーと舌の上でとろける食感に焼酎を飲み直す。

 その頃チンとなったトースターからリゾット風な物を取り出してちゃんと胡椒も振り掛ける陸斗は幸せそうな顔で一人台所で堪能していた。寂しそうだからと立ち上がろうとするも、熱くてすぐには食べれないのか別の料理を始める始末。   

 うん。今は放っておこう。





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