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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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白銀の世界で春を謳う 3

 プロの皆様の本気の遊びはほんとに需要在るのだろうかと思うも、新たな視聴者の獲得という結果でぐっと伸びた結果を出したのだ。

 何しろ本当に腕のいい職人集団。

 説明も上手く作業の一つ一つの意味をきちんと説明してくれて俺を含めた素人の方にもわかりやすく山川さん、井上さん、森下さんのお三方はお弟子さんをお持ちと言う事もあり、教師の如くかゆい所に手の届く説明は教本のようになっている回もある。コメントでも作業の仕方で盛り上がり、さらにこの三人より長沢さんと西野さん長老コンビの職人技が女性のハートを射止めていた。直した建具の細工の繊細さや長沢さんの奥さんが用意した手漉きの和紙の襖の風合いの優しさ。即席で作った花器などの彫刻、果てには浮かべた笑顔が可愛いと謎の高評価に俺達はジェラシーを覚える。

「俺だって笑うとかわいいんだから」

と自分でも疑問を持ちながら言えば

「だったら素顔を隠すマスクを取ればー?画像処理しただけなんだからすぐに取れるだろー?」

 なんて先生は至極当然のように言う。今更感もあるし、俺達のチャームポイントにもなる。何よりばれているだろうが親戚一同にこうやって少しでも稼いでいる所を知られるとまたたかりに来る、そんな恐怖に今もこのマスクは外せずにいる。

 いつかはどこかで決着がつく日が来るのだろうと思っているけど、負ける気はしないし、負けるつもりもないし、勝つ!

 もっとも夏樹と陽菜の二人でグロッキーになるのだから本当に勝てるのかと先生は心配げな視線を隠せずにいるが、自分をだまして踏ん張る事ぐらいはできる。

 バアちゃんにあんな寂しい思いをさせて一人旅立たせたあいつらを許す事は今も出来ないのだから。 

 学校に連絡が来て急いで病院に足を運び、何とか間際には間に合った。

 バアちゃんは俺の手を握り

「ああ、幸一来てくれたんだね。啓治、弘蔵、勝司お前達も。

 お前達に囲まれて私は幸せだ」

 涙ながらの最後の言葉。

 俺の手を握り、病院の先生と沢村さんと俺を連れてきた校長先生に幻を重ねての言葉に誰もが悔し涙を流した。なんだかんだと寂しくないと言いつつも息子の帰りを信じて待ち続けた母親の姿に俺は怒りを越えた感情がある事を知った。

 学校から病院に来るまでの短い間で何度電話をするも誰も出てくれず、その日の夜になってやっと連絡が付いた。

 何でもっと早く連絡をといわれた物の連絡の履歴を見せさせてそれは黙らせた。

 見舞いに来いと言っても来ず、母さんの弟と沢村さんが葬儀屋の手配を整えてくれたのにこんなちっぽけな葬儀かと怒り出す始末。最もそこはべしゃりのプロの沢村さんが黙らせてくれた物の、高校生の俺に何の何が出来るのかという様に宮下のおじさんおばさん達も手を貸してくれた。

 見事我が家の実態を地元の人の目に晒す結果となったが、それはそれで親父を含めた親戚一同をこの村から追い出すには十分な成果となった。代わりに俺が残る事になったが、今となってはこれも良い結果だろう。

 もんもんとしてしまうのは本当にそろそろマスクのアイコンを外そうかどうかと考えている所だ。宮下のデザインしたアイコンも愛着があるし、見慣れたのもある。今更素顔を晒す反響はどうでもいいが、やはり心が弱い俺の問題であって、何かきっかけが欲しい思っている。言えなかったが宮下が京都に引っ越す時にマスクを取ろうかと言おうとして言えなかった。離れの完成を経て取ろうかと言いだそうとしても言えなかったし、今もまだ言い出せないままでもある。

 この俺の葛藤を知ってる先生は何か言いたげに俺を見るだけで決して何も言わない事に腹を立てるもそれは単なるやつ当たりで先生には酷い迷惑だなと悪いとは理解しているのに甘えてしまう。

「綾人さっきから百面相して何か考えてるのは先生的にはどうでもいいけど、明日から始めるんでしょ?鳥小屋の二階の改造」

「ん?ああ、ぼちぼち晴れ間も見えだしたしあてにならない天気予報でも晴れになってるし。烏骨鶏を外に出した間に少しいじりだそうかって圭斗が言ってくれたんだ。とりあえず抜けそうな階段の補修から」

 一瞬先生の声を聴き損ねたけど目はちょうど口元を見ていたのでそこから何を言い出したのか拾い上げて返答をする。だけど先生は俺をよく理解した物で人の話を聞いてないなと半眼で睨んでいた。

「あとついでに烏骨鶏の奴ら数えるから手伝ってー」

「家畜伝染病予防法だっけ?」

「二月から六月の半ばまでに報告すればいいけど、さっさと報告は済ませた方が良いだろうし。十万円以下の罰則もあるからね。何よりネットで申告できるからさっさとやれって話しだ」

「えー、烏骨鶏ってそんな書類出さないといけないの?」

 蓮司まで興味深げに聞いて来る。

「昔文鳥を飼ってたんだけど、ひょっとしてとか?」

「全部が全部じゃないよ。インコとかハムスターとかは対象じゃなかったはずだし。鳥インフルエンザとか家畜の伝染病をばらまきそうなのが対象の調査だったとおもったから」

「へー、飼うのも大変だな」

「飼料の代金もかかるし、世話もかかる。何よりせっかく飼ってるのに逃げられてばかりって言うのもつまらないしな。そこそこ構ってやればそこそこ甘えてくれるぞ」

 餌やり機として。

 ……切ねえ。

「まあ、可愛いけど……飼えないな。

 ここだから気兼ねなく庭に放せるって言うか」

「飼うだけなら犬用ゲージサイズがあれば十分だぞ」

「室内飼い前提かよ。こんな伸び伸びした姿を見せておいてひどくね?」

「田舎ならではの可愛がり方だ」

「いいさ。俺はお前の烏骨鶏を飼い主より可愛がって飼い主よりモテモテになって満足するさ」  

 それは嬉しい事なのかと先生は突っ込む中綾人は笑う。

「烏骨鶏の物忘れの速さを侮るな?」

 東京に帰ればもう忘れられると言うことを言われて改めて鳥頭と言う言葉を思い出す蓮司だった。



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