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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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夏がくる前に 7

「聞いて良いのかわからないがご両親は今は?」

 前にポロッと話をしてしまっただけにその後も時折こうやって状況を聞いてくる。

 俺を嫌う父親筋の親戚一同とは別に母親筋は俺に申し訳ないと今も季節毎に最近の出来事を語りにこの山奥まで足を運んで来てくれる。主にオフクロの兄、つまり叔父だが月に一度はカウンセリングでオフクロに会いに行っているという。お祖母ちゃんはオフクロの不倫が発覚して以来めっきりとふさぎ込み、年齢もあいなって施設に入ったり出たりしているものの娘に会いに行こうとしない。なので代わりに叔父さんが着替えやらお菓子などの差し入れをして話をしに行ってるという。相変わらず話にならなくそして檻のついた病室からは出れる見込みは今もないという。

 結局は不倫相手の人は妻と子供ともう一度やり直すと仕事を辞めて遠くに引っ越し、向こうは俺が虐待にあっていた事を知ると地面に頭を擦り付けて買ったばかりの家を売り払い親から受け取るはずの遺産も包んで二度とこの地には戻らないとの過剰なまでの謝罪を俺は受け入れるしかなかった。理由は妻の親の職業がこう言った事に敏感なお仕事なので、焦ってお金で解決したいと言うもの。相手の奥さんに恨みは無いし向こうの親も俺が不倫相手と顔を合わさないで済むならと言えば遠くに引っ越させると約束して行動してくれたのだ。あの時はボンヤリと言葉を交わしただけだったが今思えば恐ろしい事を平気で言ってたと自分にゾッとする。

 そしてオフクロは狂った。

 知らない人に嫁に出され、子供を作らされ、母をさせられたけどやっと戻ってこれたのに、愛した人と再会できたのに!とストーカー紛いな事を始め、まだ幼い子供を誘拐しようとしたり、周囲の家や子どもの学校周辺に誹謗中傷のビラを撒き、挙句に相手の奥さんへ傷害事件も起こしていた。お祖母ちゃんもお祖父ちゃんもノイローゼ気味となりオフクロの兄弟達は俺がこんな目にあってる事を知らなくオフクロが捕まって初めて俺の状況を知ったという。だけど外面だけは良いオヤジに騙されて俺の状況は全く変わらなく、オフクロの傷害事件から一月後ぐらいでバアちゃんが亡くなってこっちの家も遺産相続で修羅場になっていた事を四十九日で初めて知った叔父さんが怒り狂って絶対オヤジとオフクロを離婚させないと手続きをして再婚できなくてザマアと言った所だ。俺からしたらどうでもいいけど。

 葬式も終わり一人で卒業式を迎えようとしていたけど叔父さんと叔母さんがお祖父ちゃんお婆ちゃんを連れていきなりやってきて四人に見守られて無事卒業する事ができたが、卒業後の就職先も進学もなにもない俺にみんなは遅れてでもどこかにと保証人になるからと言ってくれたけど、俺をずっと一人守ってくれたバアちゃんの喪失は俺には恐ろしく大きすぎて立ち直る事が出来ず結局欲しい資格があれば通信で取るという方法で納得させ適当に収入があることを伝えればホッとしてくれてこの件は終了した。俺が不倫相手がくれたお金を元手に株をやってるのがバレるまでだけど……

 その頃にはそれなりの資産も出来たので程々にしろと言うだけ。ほら、山にこもってるからなに派手な事ができる?みたいな生活だったしね。

 そんなことまで思い出せば今度小屋を立て直すことを連絡しないとなと考えながら

「先月に叔父さんが来た時は相変わらず変わりないって。

 お祖母ちゃんも久しぶりに家に帰ってくるし、お祖父ちゃんの初盆もある。呼ばれてるからお盆の間は顔を出してくるよ」


 それだけの説明が俺が知ってる事の全部だ。叔父さんはなんだかんだ言って妹を見捨てれないようで月に一度、たった十分の面会を続けている。とは言え家庭もしっかりと大切にしてこの一件を家族全員に説明して納得をしてもらっているという迷惑もかけているのはじゅうじゅう承知なのでせめてオフクロの入院費は俺が出させてもらっている。そんな理由もあって叔父さん達の子供、つまり従兄弟達も社会人だったり大学生だったり高校生だったり忙しくしているしオフクロの事で俺を同情してくれているし、元気ならお互い何よりだと思っている。本当になんでこんないい人達からオフクロみたいなのが同じ血を流しているのか不思議だが、もっと早くから叔父さん達に頼ればよかったのかと考えたりもしたが、教育にお金がかからなくなって自立したからこそ目をかけてくれているだけだと俺の中にある劣等感の塊がいくら優しくしてくれてもオフクロの兄弟を信じるなと囁いている完全なる人間不信がここにいる。

 その点飯田さんや先生とはいい関係を保てている。

 数日顔を合わせるだけの生活はそれ以上もなくそれ以下もない。ましてや忙しいときには来ないし、暇だからと言って居着くこともない。

 餌付けに成功した野良猫が遊びに来るようなものだと思えば可愛いものだし、かといって図々しく馴れ馴れしい面もある。だけどそこは土産やら#小間使い__パシリ__#でお互いの関係が成り合っていると思えば悪くはないだろうと言う所。


「そうか。俺もその頃は忙しいからな。休みの日は顔を出すし九月になればまたいつもの通りにここに来れるし」

「いつもって、それより深夜の高速も渋滞してるから注意してよ」

「俺のキッチンの出来が気になって居眠り運転なんてする暇なんてない」

「小屋が乗っ取られた?!」

「腕によりをかけて本場フレンチのコースを食べさせてやるぞ?」

「ワインもよろしくおねがいします!」

「テーブルコーディネイトも任せてもらおうか」

「古民家には似合わねえ!」

 ゲラゲラと転がりながら笑う。

「ドレスコードでネクタイを締めてキャンドルを並べて花も飾ってムーディなディナーを楽しもうじゃないか」

「もっと似合わねえ!」

 ネクタイ締めたのなんてお祖父ちゃんの葬式が今のところ最初で最後となっているからネクタイってどうやって結ぶんだと笑いながら言えばそれなら今からでもネクタイを買いに行こうかと、このまま思い出と過去を色濃く思い出してしまったこの家にいるのは不健康だからと街まで出かける事になった。



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