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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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春は遠いよどこまでも 5

 ストーブの前でプルプルと寒さと足の痺れで震える蓮司の横で何故か俺まで正座をさせられて、長身から見下ろす飯田さんは腕組みをしてなかなかのお怒りの迫力に巻きこまれた系?と理不尽に想いながらもしばらく言葉を探すように無言になる飯田さんが口を開くのを待った。

「綾人さんは蓮司君がこんな状態になるまでなぜ放っておいたのですか?」

「ええと、話しかけてもぼんやりだったから。テレビに夢中で、ご飯も食べているようだったし?」

 俺の蓮司観察に飯田さんは一つ頷いて

「蓮司君は、ちゃんと寝てましたか?温かいご飯をちゃんと食べてましたか?」

「ちゃんとはどうか判らないけど出された物は食べていたはず」

 と言った所で手を付けてない食事を目の前に置かれた。お盆の上に置いて土間の上に。

「これ、昨日の晩ごはん?」

「あ、後で食べようと思ったんだよ」

 顔を反らせてそんな言い訳。

「もう朝です」

 山間からまだ見えない太陽でも薄っすらと明るくなる空の色は烏骨鶏達が目を覚ます時間。

「すみません」

 そんな謝罪に飯田さんは溜息を零し

「謝ってもらいたいわけじゃないのです」

 言うもさらに言葉を探しながらゆっくりと口を開く。

「きっと何か見つけて行動しようとした結果だと思います」

 そうだと懸命に頷く蓮司の必死さに綾人は鼻で笑うが飯田に睨まれてしまい知らん顔をする。

 自己管理のできるはずの年齢が相手だ。飯田は綾人の興味なくてもない顔に仕方がないと言うように目を瞑り

「ですが、どう見てもそれは身になってないように思います」

 難しそうな顔のまま蓮司に伝えれば、蓮司もそんな事はないと言うような顔をするが

「それよりもまずはお風呂に入りましょう。身体も冷えたと思いますので」

「このタイミングで風呂?」

 なぜにと言う綾人だが

「家風呂の脱衣所に在る鏡で自分をよく見てください。この話の続きはその後にしましょう」

 言いながら台所へと向かっていつもの通り朝食を作ってくれるのだった。

 俺はわけわからずに首を傾げるも、蓮司は言いたい事を理解してか、それとも寒さにお風呂に入りたいのかちょうどお風呂の準備が出来たアラームと同時に痺れる足で風呂場へと飛び込むのだった。

 それを見守り綾人は飯田の居る台所へと向い近くの椅子を引き寄せて座って

「蓮司に厳しくない?」

「少なからず療養に来ているのに病気になってもらうのは困りますので」

 連れてきた手前責任を感じているのだろう。

 言いながら刻む菜っ葉の音はしゃきしゃきと朝から聞く音として耳に優しい。バアちゃんが居た頃必ず葉物は食卓に上がったので一番聞き慣れた音だと懐かしく思いながら

「ですが、一緒に居たのが綾人さんだと言う事を失念してました」

「えー、俺が悪いの?」

 何でと言う様に不平と言う様に声を上げれば

「綾人さん、毎週金曜日の貴方の姿を思い出してください。心配するなと言う方が無理なのではと思うのは私だけでしょうか?」

「いやぁ、大人しいからほっといても問題なかったし、こっちから声をかけるまでテレビにくぎ付けだからその後も問題ないし?」

「……」

 包丁を操る手を止めて無言で睨まれてしまった。

「一週間分を一日に集中するのとは違い、この一週間ずっと身動きもせずにテレビを見続けたのでしょう。とても健康的になれるとは思いません」

「まぁ、そうだな」

「あとあれだけ身動きしなかったのです。どうなると思います?」

「んー、まず筋肉落ちるな」

 それから猫背で姿勢が悪そうとか、お肌も荒れそうだなと思うも、一切お肌の手入れはしない綾人の主張はこの村にはドラッグストアすらないと言う所だろうか。とは言えさすがにこの冬の乾燥する季節には動画サイトでみたプチぷらのオールインワンのジェルを使用している。地上から一キロと少し太陽に近い分紫外線もきついので日焼け止めも塗っている。皮膚がん怖い。ではなく単に高校時代舐めていただけに気が付けば畑仕事してただけでバカンスをしたつもりがないのにこんがりとなってしまった以来の最低限のスキンケアはしている。

「他には?」

「見た目がいろいろ悪くなる」

 うーんと言いながらそれもそうだなと唸る飯田さん。

「鬱にもなるし、上向思考にもならない。自分の思考の中で完結して世界を小さくし、けっして学んだ事が見に付かない勉強の仕方。何よりぶつぶつウザイ」

「そう言う事をちゃんとわかってるのなら声をかけてくださいと言う話なのです」

 なんで俺が?なんて疑問を覚えるような視線でかえして

「烏骨鶏の世話ができるので問題ないかと思ってました」

「決まった時間に食事をしない烏骨鶏以下の奴はこの山に必要ない」

「烏骨鶏並みに世話をしてあげてください。離れ埃まみれでしたでしょう……」

 一週間ぶりの聖域がいろんなゴミと匂いに塗れた場所に変わって居たとはさすがに想像はできなかったようだ。

「卵も産まないヤローには世話をする必要がないし、自分で出来るんだから自分でやれと言う話だ。

 療養に来たは判る。だからと言って好きな事だけするのならどこでもできる。山から去れだ」

「弥生さんの教育は思ったより厳しいですね」

「ここでは数少ない労働力なので」

 力仕事はほぼ俺の仕事だった。車の免許を取ってからは少しは楽をさせてあげれたと思うが、それでも短すぎた時間にもっと何かしてあげればと後悔ばかり募る。それに対して蓮司はどうだ。何かを見つけた。それは良いとしよう。身を削ってまで何かを模索する、それも良いだろうだけどだ。

「一週間近くかかって何も得られないのにずっと同じ方法で模索する。そんな奴らなんてどこにでもいるだろうし、その次に繋がるなにかも探そうとしてない。そこがあいつの役者としての上限ならさっさと多紀さんに返した方が俺が平和だ」

「ここには雲隠れしに来ていると言うのを忘れないでください」

「そんなの、何か掴んで辿り着いたのなら雲隠れ終了だ。どのみちさっさと会見だか何だか一言二言しゃべらないといけないんだろ?だったはさっさとしゃべってここで培った薄っぺらい他人を見よう見まねの演技力で頑張ってくれってだけだ」

「厳しい」

「口が悪いからな?」

 他人への評価はひたすら厳しいのだが、判っていても目を反らしがちの事を正面からぶつける言葉を堂々と放つ。今はいないが本人を目の前にしても容赦なくだ。

「それよりもお鍋噴いてるけど大丈夫?」

「ああ、っと、まだお湯を沸かしている段階なので」

 問題ありませんと浮かべる笑顔の目の下もお疲れの様子がうかがえる。

「どっちにしても反省会は必要だから囲炉裏の部屋で食べよう」

「判りました。囲炉裏に火を熾しておいてください」

「火種を貰うよ」

 竈から一つの火の付いた薪を拾い上げ、焦げ付いた古い鍋に入れて囲炉裏へと先に向かう。朝起きて火を熾してなかった居間は何処か寒くて、一晩中ストーブをつけていても温かいとは言えない寒さに身震いを一つ起こして囲炉裏の途中で燃え尽きた薪に火を移すのだった。




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