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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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冬を乗り切れ 4

 圭斗と陸斗は宮下の隣で微妙な顔をしてその様子を見守っていた。

「先生お久しぶりです。今日お帰りですか?」

「シェフ君も久しぶり。君に先生って言われる所以はないが、相変わらずだな」

「あ、お餅をお待ちでしたね。直ぐ用意しますので食べて早めに出た方が良いでしょう。高速も渋滞しますしね」

 なんて言いながら蒸し器にお湯を張って水に浸しておいたもち米を早速と言う様に炊き上げる様子を少し顔を引き攣らせて眺めながら

「何なんだあの二人は」

 思わず宮下に小声で聞いてしまう圭斗は

「あの二人どちらが綾人の親って言うか兄貴って言うか、そう言う保護者の地位のマウントの取り合いしてるんだよ」

「二人とも綾人に養われてるくせに?」

 独立はしておれどなんだかんだと保護されているのはどう見ても二人の方だと圭斗はあきれるが

「二人とも綾人が一番つらかった時を見てるでしょ?何か母性を動かされたらしいんだ」

「お前も……」

「ちょうど役所勤めだった時だよ。圭斗も離れてたし、俺が一年離れた間に何があったか知らないけど、あの二人立派なお母さんになろうとしたんだろうね」

「父性はどこ行った?!」

 どこから母性が産まれたんだと思わず呻いてしまう。

「ちょうど産みの母親の事もあったし、そっちは母方の親戚で何とかしてくれてるらしいから。吉野とは違って良い親戚みたいで母親をしなかった産みの母親に子供としての責任は何も取らなくていいと言ってくれたから、弥生さんの事に集中して悲しむ事が出来たみたいだけどね。

 どっちにしても今日は一年の総決算の日だから、二人の事は放って置いていいよ」

 代償として進学も就職も捨てた綾人を人生舐めきってると俺は思っていたが、そもそも論。この時すでに人一人が稼ぐ事が出来る生涯年収をゆうに超えた金額を持っていた綾人に労働は必要なのかと気づいたのは俺の借金を肩代わりしてくれた今頃だ。

 利子なしで借りた金額を月に二万の貯蓄以外の残金を総て綾人に返金している。一万に満たない月もあるが、綾人の余裕ある生活を羨ましいとは思えど高校生活の様子を思い出しても幾ら篠田の俺でもあんな暗い目をした生き方は嫌だと、俺が綾人に声を掛けれなかった一因でもあり勤勉に働こうと言う起因にもなる。

 お金で幸せが買えるわけがない。

 それを体現している綾人を哀れにも思いながらも不毛な保護者面する二人を平和だなと眺めてしまう。陸斗は綾人と一緒に黄粉や大根おろし、単純に海苔と醤油で食べようか。ぜんざいも用意しようなといつの間にか大人達を見えない所に連れて行ってしまったので、俺も宮下もそちらへと移動した。

 

 とは言え早朝と言う時間。

 こちらには宮下商店からスノーモービルで上がってくる事が前提なので安全を兼ねて日の出後に到着を予定して飯田さんはやって来たので今やっと朝の六時過ぎになった所。朝から餅つきとはお昼寝が楽しみだと言いたいが、飯田さんはガッツリ寝てきたと言うから食後はこの雪原になってしまった畑や雪の壁を潜り抜けて離れを堪能するのだろう。うん。今更だから放置しておいて間違いなし。

 そして何やら見ないようにしているけど土間のストーブの前に一人の男性が心細げに居心地の悪さを隠せずにじっと火を見つめている人物に俺は仕方がなく声を掛ける事にした。

「何であんたがこんな所に居るんだ?」

 やっと声をかけてもらえたことに安心してか嬉しそうな顔を、だけどどこか泣きだしそうな顔の男が

「宇佐見蓮司だ」

「篠田圭斗。あっちが弟の陸斗。この家の主の綾人と一緒なのが宮下翔太。

 あのダメな大人が高宮先生。飯田さんはここに連れて来てくれたから省略するけど、よく綾人の大切なプライベートのタイミングに突入して来たな」

「多紀さんが、波瑠さんが話を付けるからここに行けって……」

 言うも土間の片隅にひび割れて放置されたスマホを見て話は通ってるだけの状態な事で何も話が付けられてない事を理解するには十分な光景だ。

 一応日の出とともにやって来た飯田さんは疲れ果てた様子で簡潔に説明をしてくれたけど、雪が降り出して一月、浮かれていると言っても良い位にこの日を楽しみにしてただろう綾人の表情が固まった様子に誰もが多紀さんと波瑠さんを恨んでしまうのは仕方がないだろう。 

 しかたがない。綾人の人嫌い……ではないが、人間不信な性格は初対面こそ完全な営業スマイルでやり過ごせるものの、今回みたいな数日の滞在となると完全に素が出るのは当然だ。正直まだ綾人と知り合う前の俺だってお近づきになりたいと言うような奴じゃなかったし、最低限の友人関係で高校時代を乗り切った綾人に先生と言うワンクッションが入らなければきっと話す事もなくすれ違ったままのクラスメイトだ。そんな愛想のない綾人の世話にならなくてはいけないこの芸能人を哀れと思いながらも宮下を呼び寄せる。

「とりあえずなんとかこいつをフォローしろよ。綾人だったら絶対こいつを居ないふりをするぞ」

「まぁ、綾人はガキだからそれぐらいはやるだろうな」

 何気に泣きだしそうな俺達よりも少し年上の男は何て所に連れてこられたと言う物だろうか。それの気持ちは良く判る。近くのコンビニまで三十キロ以上離れているし、そもそも近くの自動販売機までが徒歩一時間以上。道路は雪で覆われているし、野生の動物との遭遇率の高さはもはや命を掛けなくてはならない高確率を叩き上げている。要は餌がないので綾人の家の周りに集まってきているのだが、その餌も雪の下。ほってどうにかなる物でもないし、がっちり天井も柵で囲まれているので手も足も出せない状況だ。それは人間側もそうだが、それでも飯田さんはシャベルを片手に自身で作る獣道と出入りできるだけの扉の幅の雪をかいて雪の下に眠る野菜達を発掘するのだった。当然目的の物が取れなくて愉快な悲鳴が聞こえるが、先生が犬が雪なんかではしゃいで笑えるなとドアを閉めに行く辺りを全力で妨害するのをこいつらヤバいと距離を置かれる様子に心の中で大笑いする圭斗であった。

 





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