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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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夏がくる前に 5

 急遽開かれた庭でのバーベキューパーティはそのまま夜まで開かれる事になった。

 飯田さんの料理に少し胡散臭げに彼を見ていた圭斗もあっさりと都会の味に魅了され、陸斗も初めて食べる華やかな料理に無言で食べ続けていた。見るからに食が細そうな体だけど初めて食べるアヒージョをいたくお気に召したようでびっくりする量を食べて俺達を驚かせるあたりさすが十代の胃袋だと感心をする。何よりも鹿肉を取り出してきてハーブで焼いたローストは俺達の知ってる鹿肉とは全く別物でくさみも調味料の一つというように旨味になった料理はさすがシェフと普段見せる料理好きなおっさんという認識を改めなくてはという腕前。

 そこからは未成年とドライバーには梅ジュース、それ以外はビールでゆったりとした時間を過ごしながら気がつけば日が暮れだして晩飯も食べてからとわけのわからない主張を貫いて去って行った。

 夜になって気付けば俺も飯田さんもどこかぐったりというように疲れていて、さっさと風呂に入って寝る事になったのは夜九時の出来事だった。

 そしてその七時間後には二人揃ってしっかりと目を覚まし


「ああ、綾人さんおはようございます。今日もちょっと薄曇りですね」

「飯田さんおはようございます。まだ梅雨も開けてないのでこんなもんじゃないですか?」


 風呂に入ろうとしたらすでに飯田さんがいい感じに茹っていて俺は寝汗を流したかったものの先に烏骨鶏の奴らを小屋から追い出して気合を入れて掃除をして時間を潰す事にした。

 掃除が終わる頃飯田さんが出てきて俺もホコリを落とす為に風呂に入る。もちろんその間は飯田さんがご飯の準備をしてくれる。ご飯を作ってもらえるっていい身分だなと風呂の縁にもたれかけながらのんびりと景色を楽しむも今日は本当に天気が良くないらしく段々と黒い雲が広がっていく。

 ユンボで側溝のドブさらいをしようと思ったけどまた今度だなと自分の家の敷地内の管理は個人なのでめんどくさいと思いつつも機械が主力なのだ。俺が頑張るしかないと気合を入れる。ちなみに当然だが家から村道まで全部を全部側溝があるというわけではない。山水が染み出す要所要所にあるだけで、それはカーブを利用して谷側に排出されるという仕組みになっている。ほらね、冬はやっぱり雪道だし凍るじゃないか。雪がなくてもまっさきに凍るんだよ?私有地出た所からは村の税収でしっかりとガードレールつけてもらったけどね。

 食事を食べながら今日の予定を飯田さんから聞けば猟友会の方に顔を出すように言われていると言って出かけてくると言う。

「じゃあ俺は小屋の片付けやってるから、帰りに悪いけど小麦粉と米を買ってきてくれるかな?」

「お安い御用だが、俺に任せていいのか?」

 言いながら他の必需品も書いたメモとお金を渡す。

「なんかバターとか調味料系はしっかりと揃ってるからね。あ、あと久しぶりに牛肉食べたい。海の魚介系とかも食べたい」

「タンパク質は山の物以外だな」

「あとジャンクフードとかスナック菓子。ジュースはいらないけど炭酸水ならほしいかも」

「梅酒の炭酸割りはうまいからな」

「そうなんだよな」

 そんなしょうもない事に力強く頷き

「じゃあ、それまでは畑でもいじっててよ」

「ああ、あといくつか見繕っても?」

「お好きにどうぞ。出かける前には一度声をかけてよ」

「綾人さんも程々にしないとくたびれるので注意を」

「だよなー」

 言いながらいそいそと押入れに置かれている収納ケースから作業用の服を取り出して着替え始める。ちなみに下着や靴下、パジャマに防寒着とまるで我が家のように当たり前のようにしっかりと揃っている。人の家をなんだと思ってる、家賃を取るべきかと思うも買い出しにも行ってくれるし来る時は必ず食料を持って来てくれる。決して安くない食料はだいたい一週間は持つので我が家のエンゲル係数は悲しいほどに低い。我が家の食事事情は畑と貰い物で出来てるからね。お米も時々近くの農家に烏骨鶏と交換してもらっているくらいだからね。

 今回は大工さんとか高校生が合宿に来るからと前もって準備するだけの話。そしてビールは先生が持ってきてくれるから問題なし。

「やっぱりたまにはスーパーぐらい行こうかな」

 山から降りた時ぐらいは足を運ぶもそれ以外はなかなか運べないでいる。別にめんどくさがりじゃないからねとわけのわからない言い訳をしながら冷蔵庫以外に用のない小屋の中を眺める。

 まだバアちゃんが生きていた時に茅を乾燥させたいからと古屋の屋根裏に運ばされたり、時々囲炉裏を焚いて家中を乾燥させたりもした。

 一気に湿気て家がだめになるからと言われて俺も冬場は週イチで焚いていたが全然だめだったなと畳を剥がして床板を取って見た光景はよく家が倒れなかったなと言ったものだろうか。いや、それについては言い訳させてくれ。バアちゃんは結構な物持ちで汚屋敷の主だったんだ。ゴミを捨てるつてがなくって空いた小屋にポンポン入れる一番ダメなやつを実行するバアちゃんだったんだ。

 バアちゃんが他界して俺がどれだけゴミステーションを往復した事か。宮下の家にお願いして軽トラをどれだけ借りたか……

 ガソリン代を考えると結構溜め込んでくれたなと、でも木材や紙類は風呂で燃せれる分だけまだましかと思うようにしている。謎の数々の漬物用のツボやプラスチックの桶は別に活用させてもらってるし、俺も使い方の知らない農機具も山ほどある。とても一人では使う事のできないようなのこぎりやどれだけ必要なんだよという草刈り鎌、鍬や鋤もあるけどザルも山ほどあって、木製のザルは風呂の燃料として消えてもらう。

 他にも昔の古いアルバムや虫に喰われた古い着物や不明なものも多い。

 バアちゃんの嫁入りの時の写真や大家族だった当時の写真、母屋が完成した時の写真など節目節目の記念写真だけを残してあとは処分した。酷い、冷酷だと言われようが命日に手を合わせに来ないような人達に言われる筋合いはないし、今この家達の主は俺だ。いつかどこかで線を引かなくてはいけないと、使わなくなって湿気を含むだけのカビをはやした布団を処分もしたし中身のなくなってしまったシロアリの巣になっていたバアちゃんの花嫁道具の箪笥も処分もした。凝った作りのものは手直ししてもらって母屋で今も使っているし、この小屋から見つけた使えそうな机も宮下に頼んで修理してもらって今も母屋で使っている。いや、宮下お前のその技術謎すぎるだろうと烏骨鶏を一羽絞めての謝礼で喜んでもらえたのは微妙だったが、年々上達していくあいつにどこかの家具職人にスーパーのパートからジョブチェンジさせなくてはと思っているのが俺の悩みどころだ。理由は家具職人の家がここからでは通えない距離にある事と俺がひっそりと思っているだけの事だからだ。

 穴の空いた鍋やかつて大所帯だった頃の大鍋は流石に処分だなと思うもふと小首をかしげてもう少しだけ取っておこうかと思う。

 ここが完成した時に大工さん達に料理を振るまわなくてはいけない可能性もある。直径四十センチの鍋にどんな需要があるかわからないが飯田さんのおもちゃとして取っておくのも悪くない。探せば古い包丁も出てきた。錆に錆びてどうしろっていう代物だが飯田さんに教えてもらった包丁研ぎの技術は草刈り鎌で日々上達していると思う。ほぼ草刈り機にご厄介になってるとはいえ畑の中はこういったものでしか対応できない場所もある。主に大根の葉っぱを刈ったり人参の葉っぱを刈ったり白菜を刈ったりだけどねと使用方法が間違っているが切れれば良いんだよと言う俺の主張は通させてもらう。

 とは言えだ。

「これを研いだらどれくらい小さくなるかな?」

 発掘した草刈り鎌と包丁達を持って水場へと向かい、台所から砥石を持ってきてショリショリと音を立たせ冷たい山水を当てながら砥ぐ事没頭することにした。

 



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