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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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似た者同士、と言うのだろうか 5

 机をべとべとにしながらカニと格闘した後にテストの採点の続きとなった。

 その中の一枚の英語のプリントを先生が取り出してきて

「これが例の問題児の解答用紙」

 見せてくれたのは英単語の訳と簡単な文法を辛うじて書けただけの解答用紙。

 答えがわからなくとも何とか答えを模索するように書いては消したりを繰り返してでも導き出せない答え。先生は丁寧に間違った文法を並べ直して惜しいとおまけをしていた物の四十点に満たない採点に無言になるしかない。

 決してやらずに点がないわけでなく、判らなくて点が取れないのだ。と言うか英語の勉強のやり方が判ってないんだなと言うこの子の中学時代は出来る子に合わせた授業内容だっただろう古い先生達の考え方によくある教え方の問題じゃんと先生に解答用紙を返した。

「とりあえずこいつを何とかできるか?」

「まだ一年ならせめて標準まで上げたいね」

 平均点までとは言わない物のまだ習ったものの少ないこの時期ならば引っ張り上げるのはまだ容易い。

 縁側近くの明るい場所で採点していれば近くを烏骨鶏が通り過ぎて行く。郵便物は週一に纏めて持ってきてもらうようにお願いしてあるし新聞はバアちゃんがなくなった時に止めた。この山奥に来客は限りなく少ない。カードや公共料金の明細もペーパーレス化してほとんどないから週一の郵便も来ない時があるくらい。そんな中で車の影が見えたかと思えば

「綾人ー、センセー蕎麦あるけど食べるー?」

「宮下ナイス!」

「おう、先生お前んちの蕎麦好きだぞー」

 学校に通う為のバス仲間の一人がおばさん自慢の手打ちそばを大量に持ってやってきた。

 何時もならそのまま家に入れと言う所だが宮下は車の後部座席のドアを開けて何やら誰かを引っ張り出してきた。

 そこにはもう一人のバス仲間とそのミニチュア版。何となく顔が幼いと言う感じの雰囲気と言う共通点。

 誰だと思うも先生が小さな声でポソリと言った。

「さっきの解答用紙の子だ」

 名前を思い出す。同級生の方は篠田圭斗であの解答用紙の名前は篠田陸斗。

 篠田姓の多いこの村ならでの落とし穴。親戚かと思えば弟だったかと先生を睨みつけながらも

「篠田久し振り。元気だったか?」

 あまり顔色の良くない兄弟に何も気付いてないと言う様に笑顔で言えば

「お前も相変らず引きこもってるなぁ。こっちは弟の陸斗」

 ちょこんと下げる頭ににっこりと笑って

「ネット社会の便利さに助けられています。

 って言うかお前の高校ん時と超そっくり」

 ほんとお前が若返ってミニマムになったら弟君そっくりになるなと、どこかやせすぎの弟に初めまして兄貴の友達の吉野ですと挨拶をして家の中に招待をした。

 台所側の座敷に座って勝手知ったる俺の家の台所で宮下が鍋に水を汲んでそばを茹で始める。勿論そばつゆも持ってきてくれて冷蔵庫から当然あるはずと言わんばかりにワサビを取り出して擦り始めた。相変わらず手際が良いと感心しながら篠田兄弟を見れば俯き加減の弟の横に寄り添う様にして座る兄貴の様子に異変を感じれば

「そういや篠田は就職して一人暮らししてたんだよな?今日は休みで戻ってきたのか?」

 こんな時間にこんな所に居たら明日の仕事に差し障りがあるだろうと遠回しに言う。

「ああ、うん。今の会社辞めて独り立ちして戻ってきたんだ」

 因みに篠田は高校卒業後建築業について家を建てていた。四年弱で独り立ちできる物かと考えるもこいつ器用だからなと思うも

「綾人本気にするなよー、こいつ社長と同僚とウマが合わなくて帰ってきただけだから」

 台所から篠田と幼稚園からの幼なじみの宮下が丁寧に補正してくれた。

 篠田は視線を反らして唇を尖らして

「大体耐震の為のボルトとかを勿体ないから片側だけでいいとか釘の本数減らせとか無茶苦茶なんだよ。

 一生に一度のでかい買い物なのに手抜きしろって一体何なんだよ!」

 声は抑えているものの怒りを畳にぶつける様子に先生は「まぁ、今も昔もよくある話だな」と珍しくもないと言い、俺も確かによく聞く話だなと心の中で頷く。

「篠田はさあ、お前昔からちょっと潔癖なんだよ。

 もっと上手に生きて行かないと俺みたいに半端なままだぞ?」

 宮下はそばを解し、そばを入れる器とそばつゆを入れる器を並べる。

「それにやっと家から脱出したのに戻ってきてどうする」

「遊ぶ時間なんてなかったおかげで蓄えがあるから空き家バンクで家を買ったよ。手直ししないといけない所ばかりだけどあの程度なら自分で直せるさ」

 言いながら少し沈黙して

「で、宮下が今なら綾人んちに先生がいるからって弟を引っ張り出してきた」

 俯き加減の弟は酷く挙動不審で見ている方が痛々しいぐらいだった。

「まぁ、先生なら前に話ししたと思ったけど、うちのクソ親が俺や妹同様に陸斗を奴隷扱いしててよ、会社辞めてこっちに引っ越して来たって一応親だから今朝報告に家に行ったら陸を台所で寝かせててよ、そのまま喧嘩して宮下んちに逃げて来た所」

 小さな村の一件だけの食品店兼雑貨屋からの伝達率は明日には村全域に広まるだろう。そしてまたあの家はと既に村中が篠田家の事情を知っているだけに同情は今更だ。仕方がない。弟を守る圭斗も同じ運命を過ごしてきたのだ。

 朝起きたら畑に出かける家族の為にご飯を用意し洗濯と掃除を終わらせてから学校に出かける。母親は自分の子供がちゃんと働いているかテレビを見ながら監視してると言う始末の悪さ。

 帰って来たら洗濯物を取り込んで晩御飯を買出しに行き夕食を作り風呂の準備をする。勿論日が暮れたら農家の仕事なんてないから夕食からお酒を飲み続けて暴れる両親に身体の痣は数えるのもばかばかしい。

 周囲の家もかかわりたくないと見て見ぬふりをするし、行政はやって来るだけで何もしない。篠田家はそれなりに大きい農家なのだ。大型農機具は勿論外車を転がし去年は前の家のローンが払い終わったからと家を建て替えたばかり。台所で陸斗が寝ていた理由は卒業したら家を出るんだから部屋は必要ないだろうと言う理由。さすがに耳を疑った。

「で、逃げ出して篠田はどうすんのよ」

 先生は大人として話しを聞けば

「先生は甘いって言うかもしれないけど俺が弟を育てる。

 学校に行かせて食べさせて。専門学校でもいいし、大学にだって行っても良いと思う」

 真剣な目で決意を語る篠田に先生は難しそうな顔で

「大学なら学費は私学の金がかからない学部で四年で五百万、ここからならどこに行くにも下宿先が必要で、生活費に下宿費込みで月十万、もちろん陸斗がバイトするのが最低条件だ。専門学校も私学の大学通わせるぐらいの費用が掛かると思った方が判りやすいし、それよりも問題は陸斗の学力だ。

 どう頑張っても入れてくれる大学はないぞ」

 現実を並べるも最後に「お前たちの悲惨な時といい勝負だ」と言えば愕然とした顔で弟を見ていた。

「まぁ、高校の時から株を転がしてた綾人が例外で、そんな綾人を友達に出来たお前達が幸運で、よくある膿家の典型的な子供が陸斗だ。

 妹の香奈も無事就職して出て行けたけど……の予備がないお前を両親が手放すかは難しい話だな」

 先生の言葉に陸斗は震える様にうつむくも

「でも俺は陸を家から連れ出して俺の家に住まわせます」

 誰の服のお古だろうかと言うようなくたびれた服装から伸びる棒切れの様な手足。いつ切ったかわからない髪に俺は長くなりそうな話に先にご飯にしようと二人を置いてそばを食べる事にした。


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