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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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似た者同士、と言うのだろうか 4

 土曜の朝は先生に関係なく俺は早い。

 と言うか、動物を飼う以上寝坊は出来ない。

 だけどトイレ行くついでに烏骨鶏の小屋を開けて庭に貰った米ぬかを竹を割っただけの餌箱に入れて誤魔化しておく。頑張って雑草を食すが良いと小屋から飛び出して行く烏骨鶏を見守る。卵を取るのも掃除するのも後でいいやと、昨夜先生にしこたま飲まされた日本酒が匂う俺はもう一眠りしたく思うもその前に風呂に入る事にした。

 うちの五右衛門風呂はジイちゃんが晩年作り直したらしくそれなりに最近の物でコンクリと煉瓦でしっかりと固めて作った安定ある物だ。当然のように壁面にはしっかりとタイルが張られているし保温効果は三日ほど続く。その間何時でも入りたい放題だ。昔はむき出しのコンクリに簀子を置いていただけの洗い場もしっかりとタイルを張り昭和レトロな雰囲気と清潔を保っている。だけど山奥のタイルの床は冷たいので簀子はしっかりと置いてあり、そこで服を脱いでさっとお湯で身体を流して厚い木の蓋をどけてゆっくりと体を沈める。

 深い五右衛門風呂は子供の頃はどうしようもないほど怖かったが、自分で薪を割って風呂を焚いてはいるのだ。至福の時間に決まっているし何よりも何も考えずにただ時間を過ごす貴重な時間。ヘリにもたれてぼーっと窓の外の景色を眺めていた。

 扉はガラスとは言わないが、それでも旅館のような風情ある物で、でも窓にはガラスがはめ込んでないので木の扉を棒のつっかえ棒で開けて使うと言う仕様はジイちゃんのオヤジさんが作ったそのままの名残が今もある。飯田さんにはうけたみたいだけどねと、最大の欠点、電灯がないのはキャンプ用品でおなじみのLEDランタンで代用。蛍光灯と違って虫が来ないのはいいけどね。近いうちソーラーランタンでも買おうかなと思うのは単なるめんどくささだ。

 昔のお風呂あるあるの脱衣所のないこの風呂場には棚と籠があるだけ。

 服はここで脱ぎ籠の中にはタオルが置いてあり、しっかりと沈んで体を温めて、寝癖の付いた髪を何とか直せば

「おう、綾人は風呂にいたか」

「げ、先生……」

 当然のように風呂に入ってきて服を脱いで俺に隅に寄れと言う様に強引に入って来た。前ぐらい隠せよと思うもなら俺もだろと隅っこによる。

「さすがに二人は狭い」

「一人で朝ぶろを楽しんでる罰だ」

 言いながら俺に体重をかけながら窓枠に日本酒を二人分置く。

「先生朝から飲むのかよ」

「これが楽しみで来てるんだからな。家の隣の家の壁が見える風呂に比べたら最高だろ」

 東京にいた時にはマンション暮らしの為に窓すらないのだ。納得のいく良い笑顔での説明に俺は項垂れるしかない。

「野沢菜の漬物貰ったぞ」

「好きに食べてください」

 浅漬けではなくちゃんと発酵させたものが山ほどあるのだ。

 酸味と塩気がちょうどよくツマミには抜群だ。

「そういやお前この夏の予定はどうなってる?」

「いつもの通り烏骨鶏の世話してるよ」

 どうせお盆は誰も来ないだろうし、お坊さんに来てもらう程度かなと予定を立てる。

「フランスのシェフは?」

 何故か散々飯を食っていながら絶対飯田さんとは言わない先生に

「夏休み中はかき入れ時だから店の休日はまとめてとれないって。たぶん来週あたりから当分来れなくなるみたい」

「まぁ、他の従業員も夏休み欲しいからねぇ」

「店長の身内だから余計休めないらしいですよ。

 そう言う先生は?」

「夏休みの最初と終わりにまたここを合宿場で使わせてほしいんだけど?」

「布団用意しておきます。

 って言うかちゃんとした施設で合宿すれば喜ばれるのに。それこそ学校に在る合宿施設使おうよ」

 豪雪地帯故の帰れない時の為の宿泊施設だったり冬場オンリーの寄宿用の部屋があるのに何が悲しくて隣村の山奥に合宿なんだよ。毎度自炊生活の合宿ってなんだよと思いながらも付き合う俺も大概だけど。

 一人で暮すには広すぎるこの家で十数名の来客は全然問題ない。ありがたい事に学校のスクールバスが通れる程度に道の整備はされている。運転手のオッチャンも山道は慣れた物であんたも大変だなとねぎらってくれる。うん、それはこっちのセリフだぞと言いたい。

「まぁ、今時の村の子供も五右衛門風呂何て入った事ないし忘れられた良き田舎体験は大切だよな」

「毎度ぼろっかすに言われる家主の気持ちを少し考えてくれ」

 苦情を言いながらも狭い風呂に用はないと先に上がらせてもらう。

 別に酒と漬物がなくなったからじゃないぞと心の中で断って

「まぁ、まぁ。今年連れて来る奴らにはお前に面倒見てほしい奴がいるんだよ」

「村から脱出させたい奴?」

「膿家の末っ子だ。

 自信もない、家での存在感もない、ぐれる勇気もない典型的ないじめられっこだ」

「まぁ、ここに来る奴の定番だな。で、女子は居ないの」

「悪いね。先生は女の子担当じゃないの」

 女子は相変わらず保険室のセンセーの担当だ。まぁ男同士よろしくと言う所だろうし、言ってみた物の変な女に変な事言いふらされてもやってらんない。

「とりあえず家を出れるだけの学力と自信を付けさせてほしい」

 真剣な目をする所かなりの問題児だ。そしてその目に助けられたのは誰でもない俺。両親から学費も払ってもらえずバアちゃんの居る山奥に置いてかれた高校時代はたぶん一生の、今も現在進行形のトラウマだ。

 そんな時を三年目を迎えようとした所で先生に出会い学校で私物化していた理科の実験室に連れ込まれてクラスの奴らと切り離してくれた自由な時間に学校に行く意味を辛うじて繋ぎとめてくれた。都会なら当たり前の保健室登校を認めない田舎の学校でやっと取り入れたのは高山先生で……

「で、何人来るの?」

「去年の奴らが五人と新規が三人に俺とお前」

「せめて食べ物のメニューと食材は考えて来てくださいよ」

「おう、あと必要な物は何か有るか?」

「あ、網戸張り替えたいから網戸用の網買ってきてください。

 十二枚ほど替えたいから、お金は後で請求してください」

「あー、それうちの奴らにやらせるってのは?」

「なら先に準備して置くので次に来る時に先に用意お願いします」

「飯を食べながら話詰めようか。綾人ご飯よろしく」

「先生頼むから新しい嫁さん捕まえてこいよ」

「悪いね。先生嫁さんはもうこりごりなの。綾人みたいな嫁さんが居ればいいんだけどねぇ」

「休みの時だけ顔を合わせて文句も言わず風呂と飯の用意をしてくれる。家政婦さんで十分じゃね?」

「教師の給料の安さをなめるなー」

 そう言って笑う先生だけど、知り合った頃は離婚したてのほやほやで酷く鬱気味で誰も近寄らない不気味な空気を纏っていた事を思い出せばまあ元気になって何よりだと、とりあえず味噌汁飲みたいと思って生簀の中からもくずガニを一匹引き上げて朝はシンプルに白米とカニ汁に漬物があれば十分だと決めた。




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