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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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似た者同士、と言うのだろうか 2

 車の音と共に高山先生はやってきた。

 烏骨鶏達は既に小屋に入り思い思いの場所でまったりとしている。

 そんなまったりタイムの中を車のエンジンと扉の閉じる音が響いて驚く当たりさすがチキンと毎度ながら感心させられるも

「あーやとー、悪いが手伝ってもらえるか?」

 にこにこと人懐っこい笑みを浮かべて幾つもの紙袋を持って現れた先生に

「頼むから生徒のテストの採点手伝わせないでください」

「だってよー、これ月曜までに全部終わらせないといけないんだぜ?」

「それが仕事でしょう。頑張ってください」

 なに当然の顔をして山のように車から紙袋を下ろして来るんだと思えば呆れていれば

「そういや風呂入れる?」

 俺の視線なんて知らないよーな暢気な声で

「入れますよ。って言うか入るなら入ってください。腹減ってるから早くご飯にしたいので」

「おう、フランスのシェフ飯は残ってるか?」

「飯田さんは日本人でそしてフランス料理じゃありません」

「細かい事はどうでもいいんだよ。フランス料理のシェフの賄飯って言うレアなもん食べれるって言うのが酒が進むって言う話なんだよ」

「酒よりも仕事してください。そして早く風呂に入ってください」

「腹ペコ綾人は機嫌が悪いなぁ。ならさっさと風呂に入るか」

 言いながら日本酒とスーパーの惣菜の焼き鳥を持って五右衛門風呂のある外の風呂場へと逃げて行って、暫くもしないうちに何やら調子のいい音楽に合わせて歌う声が聞こえてきた。ばあちゃんがなくなってから週末事に俺の様子を見に来るまめな担任は今も毎週週末にやってくる。

 金曜の早朝に帰る飯田さんの残した料理を目当てにたかりに金曜の授業のさっさとやってきて日曜の昼前には帰ると言う……

「先生みたいな大人にはなりたくない!」

 最も無職で引きこもりと言う俺の方が性質が悪いだろうが、それでも今日はしっかりと稼ぐ事が出来たのだ。弁護士の沢村さんの伝手で知り合った税理士の樋口さんにも今回大きく動いたから連絡しないとなと、電話で来週の月曜日約束したいと言えばすぐに待ってますと返事がもらえた。俺もなれた物で既に揃えてあるデータをプリントアウトしてファイルに纏めておいて、とりあえずこれで今年一年は生活できるから新しいチェーンソーでも購入しようかと俺も風呂場から聞こえる音楽に合わせて鼻歌を歌う。

 ビールを片手に烏骨鶏の骨の出汁でとったスープを味見しながら細かくカットした野菜を投入。キャベツやセロリなどさっと火が通れば良いだけだから、などと言い訳しつつもメインはラーメンの玉。フランス料理のシェフが作る烏骨鶏の鶏がらスープのラーメン何て反則だろ!と味見しただけでニヤニヤが止まらない最強のシメのラーメンができ上がる。出番を待って入りがいいとニヤニヤするしかない。

 他には先生が買って来た天ぷらを並べて早く出て来い、先に始めるぞと心の中で訴えるもこれだけじゃ若者の胃袋は納得しないと砂肝を焼いてしっかりと塩コショウをした物を摘まむ。

 ふむ、ビールが進む。

 更に確かあったなとベビーホタテを一パックの半分ほどをヤングコーンと共にバター醤油で焼く。

 ほんのり焦げ目の付いたホタテとヤングコーンに醤油をたらりとかければジュワっと音を立てて醤油の水分が蒸発する。醤油色に染まった姿にニヤニヤとバターを一欠け投入。

 ジュワワ……

 視覚と聴覚と嗅覚への暴力だ。

 そして絶対旨いやつと食べなくても判る結論に味覚は降参をして口の端から涎がたらり。

 ああ、もう俺の全敗ですと皿に移す前に菜箸から直接口へと移る事になる。

 選ばれたのはベビーホタテ。熱を孕んでぷっくりと膨れ上がった貝柱を削り取る様に齧りつけば

「あふっ!!!」

 目を瞑って小躍りしながらプチプチとした繊維を解すように、そして断ち切る様に噛みつきながらビールをぐびっと飲む。弾ける炭酸が熱を洗い流すも口に残る濃厚なホタテの味と香ばしい醤油の匂いだけを置いて行って喉を通って行った。


 うっめーーー!!!


 叫ばなくても心から絶叫しながら今度はターゲットをヤングコーンへと移せば

「おい綾人、なにお前一人で美味いもん食ってんだよ!」

 腰にタオルを巻いただけの状態の先生が風呂と台所を繋ぐ渡り廊下の扉を開けて信じらんないと言う顔で立っていた。

「あ、先生出たんだ。遅いからもう始めちゃってますよ」

 言いながらもフーフーと息を吹き付けてヤングコーンの先端にかじりつく。

 もうこのプチプチ最高!

 うちの畑のトウモロコシを摘花した物をそのまま凍らせたものだけど、スーパーの水煮と別次元の美味さ、最高!

 至福の顔でヤングコーンを齧りながらビールを呷る。

 醤油のしょっぱ香ばしさとバターの旨み、そしてそれを押しのけるヤングコーンの甘味!学校給食で食べたヤングコーンのまずさにヤングコーン自体嫌いだった俺に言ってやりたい。この旨さを知ったら病み付きになるぞ、と。そしてビールとの相性の最高さ!皆早く大人になってこの美味さを知るがいいと笑いながらヤングコーンを齧る。

「綾人さーん!お願いだから先生にも一口頂戴!

 お風呂長くて怒ってるの判ったから先生にも食べさせて!!!」

 背後から縋りつく様に抱き着いて涙を流す裸族にくれてやるものなどない。

「先生も早く着替えて囲炉裏の部屋で待っててください」

「絶対先生の分まで食べないでね!」

 涙ながらのガキみたいなわけのわからないお願いにはいはいと言いながら仕方なしに皿によそって夏場は囲炉裏に蓋をしてその上に置いた机に並べる。

 それからご飯にイノシシの肉の生姜焼き。すっかり豚肉と牛肉が遠い存在になってしまったものの捕まえる気のない罠で捕まえてしまったイノシシのお肉は貰って食べるのが供養だと言うバアちゃんの教えを守って頑張って食べる事にしている。

 味噌仕立ての野菜一杯入れたシシ汁が簡単美味いで好きなのだが、いつもそれでは飽きると言う物。同じようにこの山間の村で育った先生も食べ慣れた料理なだけに肉の消費として手っ取り早く生姜焼きが採用されるのは仕方がないと言う物だ。

 仏間の隣に荷物を置いてバタバタとする足音の後に仏壇のおりんのチーンと響く澄んだ音。

 挨拶を兼ねて手を合わせてくれてるんだと言う理由と共に線香の香りも漂ってくる。田舎人間の律儀な所に嬉しく思うも風呂に入る前に挨拶しろと心なら中で突っ込んで置く。そして暫くもしないうちに畳を擦る足音と共に囲炉裏の部屋に姿を現した先生は二カッとした良い顔で置いておいたビールのプルタブを開けて

「いただきまーす!

 綾人にもいつもご馳走になって悪いな!」

 何て全く悪びれない顔。

 ご機嫌にビールでのどを潤してパクリとホタテを齧り

「最高っ!この為に俺今週も仕事頑張ったよー!!!」

 わけのわからない親父の様な叫び声に自家製ワサビと残りのベビーホタテと醤油はそのまま生食。

 俺はツーンと鼻にくるワサビの香りに日本酒をもらって流し込む。

「あー……」

 ワサビに悶えていれば先生が嬉しそうな顔をして

「綾人覚えておけ。これが美味いってヤツだ」

 毎週人の家に来て人に風呂の用意をさせて飯をたかり、一緒に学校の課題の採点をする……はダメだろう。

 だけどだ。

「まあこれ一人で食べるよりは楽しいですね」

「だろ?」

 言ってグビリと喉のビールを流し込む姿に俺も反論はなしと同じ様に新しいビールのプルタブを開けた。

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