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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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日常とは 1

 突如従兄が突撃して来て去って行った晩に報告が来た。

 

「確かに朝こっちを出たからそれなりにいろいろできるとは思ってたけど、さすがに早すぎない?」

「夕方には前に居た学校には明日再度連絡して退学手続きを休学手続きに変えてもらって改めて学校が決まったら編入手続きを進めようって教えてくれた人が居たみたいだ。嬉しかったんだろうな。どうしても報告したいって宮下と先生にも報告をお願いされたぞ」

 書類は手間かも知れないけど向こうで会ったらどんな事になるか分からないから郵便で済まそうと言う事にするようだ。

「同じ寮に元中学の先生がいたらしくって陽菜の進路相談に乗ってもらったんだって」

「まぁ、学校選びはその土地その土地ごとに違うし、学校の情報はやっぱりその土地の人じゃないと判らない事もあるしな」

 進路相談をした高校教師はめんどくさそうに日本酒をなめる。

「今日から電気、水道、ガスも使えるようになるってさ。

 引っ越しで必要な物を隣の奥さんと買出しに行くって話しだし、ホテル住まいも一日で済んだって喜んでた」

「ふーん、やけに嬉しそうだな?」

「そりゃあ解決すれば二度と来ないだろうしな」

 仲良しこよしになれとは言わないが和解する気になったのかと成長したなと誉めようとした瞬間の言葉に非難する先生と宮下の視線。俺は我関せずと言う様に立ち上がり

「そんじゃあ山行ってくるから。

 先生も飲み過ぎに注意、陸斗も勉強の時間だ。あと先生を飲み過ぎないように注意させて。宮下もバイトの時間遅れるなよ」

「うん。綾人も気を付けて」

「おう」

 怪我をしてから初めて本格的に山の手入れをする事にした。

 それを聞いて驚く二人だがまだ朝の七時前。心配しすぎだろうと呆れるも二人とも今日は早く来すぎだろうと思うもやはり従弟妹襲撃が原因だろう。それ以外ない。

「まぁ、行って来るよ」

 俺は鉈、鋸、鋏と籠に弁当を入れてを裏庭から山へと入る。

 裏山はそれなりに手入れをしているから熊笹もなく蕨など山菜が育っている。熊笹が生えているとその広げた葉のせいで他の植物が育たなくなるから熊笹はこまめに刈れとバアちゃんに言われた言葉はいまだに健在だ。

 おかげで時々宮下のおふくろさんがやってきていろいろと山菜を摘んでいくと言う、もっと下でも採れるぞーとは思う物の、どうやらバアちゃんが色々植えたためにここに来れば欲しい物が一通り探さなくてもそろうと言う理由からだが……花畑作れるんだからそれぐらいできるだろうと思うもつっこめないのは「そこまではいらないのよ」との言葉。たまに食べれるぐらいでいいのだから育ててまでは食べたくないとの身勝手な理由。そりゃ俺だってバアちゃんが作ってくれるから食べるのであって自分で採ってまで食べようとは思わない。

 うん。

 意見が一致してしまったのでこの件にしては考えない事にして黙々と山を登る。



 音楽プレイヤーも使わずひたすら静寂の中を進む。

 正直気が狂いそうな静かな世界を一人歩く、それは狂気の世界だと思う。

 微かに葉を擦る音。

 生き物の足音さえ聞こえない。

 一人ぼっち、そんなのはなれた物だと思ったが案外賑やかな世界に居た事を思い知る。

 耳が痛いほどの雑音のない世界で地面を踏みしめる音が唯一現実を繋ぎとめる。

 はあ、はあ、と荒くなっていく呼吸の音が俺を精神的に追い詰めていく。

 慣れているとは言え空気は薄く、雲のない空からの陽射しは容赦なく肌を刺す。気温なんて関係なく汗が籠を担いだ背中をぐっしょりと濡らしていく。

 額からもポタポタ汗が垂れて、足を止めて水を煽り近くの岩に座る。

「はーっ……」

 一息つく。

 今熊に会ったら逃げれない。

 いや、熊に会った時点でダメだろうが、それでもまだ歩き慣れた道のり。

 先生が長い時間をかけて作くってくれた砕けた岩を置いただけの階段が道を示す。

 あの人は一体何を思って何年もかけてこんな道を作ったのだろうか。

 石を踏みつけるそこに道が続くたびに道を示されてるようでこの孤独の世界の中で安心をする。

 踏みつける石に乗り上げてまた蹴り出すたびにどこまでも続く階段の石に先生の教えがある気がする。

 人生山と谷しかない。

 平穏な時こそ谷の入り口だ。

 そんなの先生の人生論だが案外まちがっちゃいない。

 平和だったのにこんなにもにぎやかになって会いたくない人達に会ってしまった

 多分これは続くだろう。

 何より平穏を壊したのは俺だ。

 何もせず大人しくただ吉野の家と共に朽ちて行けばいいものをよみがえらせてしまった。

 だが後悔はない。

 立ち上がってまた足を進める。

 ただひたすら黙して道が指し示すままに黙々と。

 やがて導く石畳が辿り着いたのは大きな岩場。

 先生がよく散歩する終着点。

 石で囲んだだけの竈と雨風に当って錆びた金網が飛ばされないようにそこに在った。

 本当にこんな所まで来てるのだと思うのが第一印象。

 だけど吹き抜けた風に導かれて疲れ果てた体で顔を上げる。


「あ……」


 山と空だけの世界だった。



 家からでも見る事のできないくらいの連なる山々を遠くに眺め、麓の村どころか吉野の家も何もなく見渡す限りそれだけだった。

 こんな所があったんだ。

 無言で目の前に広がる山々を眺めながら籠から弁当を取り出しておにぎりにかぶりつく。少しきつめの塩おにぎり。中には去年飯田さんに手伝ってもらった梅干し。種は抜いてきたから思いっきり貪りつく。

 黙って勢いのまま三つのおにぎりを食べて最後はお茶を一気に半分飲んで立ち上がり


「ザマアミロだ!!!」


 何に対してかなんて聞くな。

 ただ寝転がって空を見上げて手を振り上げる。

 山々に響く声を耳にしながら目を瞑る。

 岩は暖かく、程よく落ちた木陰は眠気を誘う。

 だけど一休みするだけで立ち上がり、荷物を籠に放り込み

「さて、仕事をするか」

 本日の目的は山の手入れ。

 ただ山を登ったわけじゃない。

 お楽しみはもう十分楽しんだ。

 いつも白い目で見送ってた先にこんなところがあるなんてと、たまには先生を尊敬しておく。

 なんせ、俺の視線の先にはまだ道は続いているのだから……

 今夜あたり話を聞く事にしよう。頂き物の日本酒があったなと鉈を取り出して細い枝を叩き落としていく。




「で、山菜の天ぷらなわけね」

「まあ、日本酒にはぴったりだ」

「山菜の天ぷら初めてです。美味しいですね」

「「陸斗ー!!!」」

 思わず海老の天ぷらを俺のところからもっとお食べと乗せてしまう。

 先生もさつま芋の天ぷらもうまいぞと乗せていく。

 こんなにも食べれないよと言うもののだいぶ食べる量が増えて少し丸みが出た様な気がする。とは言え骨と皮ばっかりだった頃と比べてもやっともうちょっと太ったほうがいいんじゃない?と言うセクハラ発言が出る所。まだまだ成長期の子供は無限の可能性を秘めているとせめて一人前はちゃんと食べれる様になってもらいたいと思う。


「綾人さんの裏の山はおいしいものがいっぱいですね」

「遠くのスーパーに頼るより裏山の方が近いからな。

もうちょっと良くなったら少し裏山を散歩しような?」

「はーい!先生も混ぜて欲しいでーす」

「隠れ山男は荷物要員になりまーす」

「まかせろ!」


 ニヤリと笑いながらその夜は三人で陸斗の登山用の靴をネットで探したり、リュックを選んだりと、当の本人はこんな高価なんてと目を回す横で先生と二人で陸斗をあまやかせてプレゼント攻撃をする楽しさに目覚めるのだった。

 




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