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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あだ駅

作者: ユキネ

 暗い暗い。

 暗いよ、誰か。

 ねぇ……。

 …………ねぇーーーー。


 丑三つ時の呼び出し。携帯の着信には迎えに来いとルームメイトの名前が浮かぶ。

 また、遊んで……こんな時間かよ。そう俺は想った。

「はいはい。今何処だ?」

「××駅だよ。迎えに来て」

「ほん、と……お前は……」

「ごめんごめん。後はよろしく」

 そう云い切られた電話。

「反省してねぇ……」

 いつもいつもそう。あいつはこんな調子で……。

 ぶつくさ文句を云いながら、車の鍵を持ち、向かったーーーー……。


 何時もなら何もない夜だ。

 明日も明後日も、きっと……ずっと……。

 けれど、ねぇ……?

 クスクスと何かが笑う声がする。

 誰が普通の日常が、永遠に続くと約束したのだろう?


 山道を急いで車で下る。

 あいつの待つあの駅は無人駅で……。だから、妙な噂があった。

 “人の名前を呼ぶなかれ”と。

 あの場所では人の名前を呼んではいけない。何故かは知らないが、そう、言い伝えられていた。

 ちょうど田んぼのやけにリアルな、夫婦のような案山子を見て、左へ曲がる。そして右側にあるこまちという名前のお店を見て、再度左へ。すると、××駅があった。

 相変わらず××駅の周りには何もない。草木すら一つも生えず、土と金属の殺風景な場所だった。

「あ、此処だよ!」

 ふと、声がした方を見る。××駅に唯一駅前にある長椅子に座っているルームメイトが。

「お前さ、今、何時だと……」

「え? 普通に丑三つ時ッス」

「後輩のマネして茶化すな」

「……う……ごめんなさい」

「ほら帰るぞ」

 そう云ってルームメイトの腕を掴んで立たせ、車へ向かおうとしていた。けれど……声が……。

「帰れないよ」

「は?」

 いつの間にか其処には二人の子供が居て。

「帰れないってどういう事だ?」

「ねぇ……お兄ちゃん」

 その内の一人。幼い筈の声が、突然、嗄れて響く。

「何故此処が“××”と呼ばれているか知っているか?」

「そして何故“人の名前を呼ぶなかれ”か」

「ねぇ……知っている?」

「此処には」

 助けて。助けて。

 助けて。助けて。助けて。

 助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けて。助けてーーーーーーーー…………。

 何処からともなく声が聴こえて来た。

 そう、駅の方から。

 恐る恐る駅の中へ入り、無人の、改札の意味をあまりなしていない改札を通り、駅構内を見る。

 無人だ。当たり前だった。此処は、無人駅なのだから。

 なのに……。

「……っ!?」

 線路上で群れを為す子供、子供、子供……。此方まで迫る勢いで我先にと手を伸ばす。けれど、その躰は……。

「ちょうだい」

「ちょうだい、お兄ちゃんの名前……ちょうだい」

 ちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだい。

「ひっ!」

「……い……嫌だ」

 俺達は後退る。

 グチャグチャの子供。姿を保っていないそのままで、駅構内を赤い血を垂らして這いずり回る。

 それは俺やルームメイトを目掛けて。

「ちょうだい。ちょうだいよ。そのなまえ、そのぞんざいをーーーーきみのいみを」

 だから、走った。走って、走って……改札を越えた筈だった。

「な……」

「ーーーーっ、嘘……嘘ッ!!」

 改札を抜けた筈なのに、また構内へ。

 何度も何度も。

 何度も何度も。

 何度も何度も何度も何度も。

 全て、駅構内へ戻される。

「何で? 何でだよ!?」

 パニックに陥るルームメイト。

 落ち着けなんて、云える訳なかった。俺だって何がなんだか……分からないんだッ!

 そんな時だ。

 あ……、と声がした。スローモーションで落ちるルームメイトの横顔。手を伸ばす子供の群れ。

 彼は、何者かによって子供の群れに突き落とされた。

 子供達は寄ってたかってバリバリバリバリと何かを食べる音がする。

 ふと、顔を見上げれば……。

「…………っ!!」

 目の前には、赤い瞳をした黒髪の者ーーーー。

「あだ様」

 昔々、棄てられた子供が居た。その子供は名無し子。父も母も知らぬ子供ーーーー。

 一歩、一歩と近付いてくる。けれど……それに俺は、自らが固まってしまったように一歩も動く事が出来なくて。

「……彼らの姿が欠損している理由はね……自分という存在を此処に留めさせる事が出来ないから……」

 そして、ある村では、神に遣えしこの輪廻転生に不要な出来損ないを呪い子とみなした。

「だから命を“食べて”奪うしかない」

 自らを留めさせるには、命から奪う事でしか、自らを存在させる事が出来ない。

 だから、此処には命は根付く事が出来ず、“無機質”なものに抱かれている。

「此処は最初の名無し子が殺された場所」

 名無しは想う。そして願う。名前を奪う為に、命を喰らう事を。存在を認めて貰う事を。

 だからーーーー。

 目の前に来て、紅い瞳……眼を離せず……。

「ねぇ……助けて?」

 そう聴こえた瞬間……全てがブラックアウトしたーーーー……。

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