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エルヴィラは悩んでいる

作者:

マックスは再従兄。そしてお兄様の親友。


そして私の婚約者。


お互いの祖父の仲の良さだけで決まった婚約。


そう、そこに親愛の情はあっても激しい恋はない。


***


「え? このまま結婚してしまってはいけない気がする?」


目を丸くしたシェリ姉さまに私は小さく頷いた。シェリ姉さまは私の再従姉。といっても十ほど歳は離れていて、既に三人の子どもがいる。今日はシェリ姉さまにお呼ばれして、シュテルン家のお庭で二人でお茶をしている。


公爵家のお庭には、公爵家の家紋でもある青のアイリスが咲き誇っている。と思えば、裏の方にはカモミールが植えられている。公爵さま曰く、カモミールはシェリ姉さまの花らしい。公爵さまの指示で、シュテルン家にはあらゆる種類のカモミールティーのお茶っ葉が備えられているそうだ。シェリ姉さまを溺愛する公爵さまらしいエピソードだ。


「どうして? マクシミリアンのことが嫌いというわけではないんでしょう?」


「もちろんです。ただ……」


「ただ?」


「苦しいんです、私ばっかり好きなのが」


そう、彼にとって私はただの婚約者。妹のような存在。


家族として愛してはもらえると思う。それだけ大事にされている自負はある。


でも、一人の女として愛してはもらえない。


政略結婚が当たり前の貴族で、好きな人と結婚できるのは恵まれていると思う。シェリ姉さまのようなケースは本当に珍しいのだ。


けれど私は好きな人に愛されないまま妻でいるくらいなら、結婚なんてしたくない。一生苦しみを抱えていくなんて。


「エルヴィラはどうしてそう思ったの?」


「だって、キスをしたことがないんですもの」


そう、マックスは額や手の平、髪の毛に口付けても唇には決して触れない。同じ年頃の友人はもうとっくに済ませているというのに。


「じゃあおねだりしてみたら? きっと喜ぶはずよ」


喜びはしないと思うが、嫌とは言わないだろう。マックスは昔から、私の願い事はほとんど叶えてくれたから。


でも、はしたないと思われないだろうか。


私の迷いを見透かしたのだろうか、シェリ姉さまはにっこりと笑った。


「ふふふ、大丈夫よ。ファーストキスはわたしからだったもの」


「ええ!? 本当ですか?」


シェリ姉さまは怒ったら怖いけれど、普段はとても優しくおっとりとした方だ。そんなシェリ姉さまが自分からキスをするなんて。


「まあわたしの場合、止められなかった、って言った方が正しいかしら。エルヴィラもやってしまえば? マクシミリアンはきっと昇天してしまうわね」


後半は意味がわからなかったし、自分からキスはさすがに無理だと思ったが、より高いハードルを提示されたからだろうか。キスをねだるのは少し勇気を出せば出来るような気がしてきた。


「ありがとうございます、シェリ姉さま。今日はお話を聞いてくれて」


「いいのよ、そんなの。エルヴィラこそいつもリスベットたちの面倒を見てくれてありがとう。マクシミリアンとの報告も聞かせてね」


「はい、ぜひ」


公爵とシェリ姉さまの長女のリスベットが駆け寄ってきた。後ろを慌てて追いかけるのは、侍従のアルフォンス。リスベットと同い年で、最近雇い入れたらしい。


「リスベット、またね」


リスベットははにかんで手を振ってくれた。アルフォンスはお辞儀をする。三人に見送られて、帰途に着いたその時の私は思ったよりも早くマックスと会うことになるとは知らなかった。


***


「おかえりなさいませ、お嬢様。マクシミリアン様がいらっしゃってますよ。図書室においでです」


「ありがとう」


平静を装ってメイドにお礼を言ったが、私はかなり動転していた。だってマックスとのことを相談したお茶会から帰ってきたらうちにマックスがいるんだもの。


「あの、マックス? こんにちは」


「やあ、エル。……どうしたの? 顔が真っ赤だよ」


いけない。シェリ姉さまとのお茶会のことを思い出したら、顔が赤くなってしまった。淑女たるもの表情はコントロールしなければいけないのに。マックスだってこんなに訝しげじゃない。


……いいえ、これはチャンスなのではない? 今を逃したら先延ばしにして先延ばしにして、結局何も言えないままになってしまいそう。いえ、私のことだもの、確実にそうなる。


勇気を出すのエルヴィラ。そう、勇気を。


「あの、マックス」


「ん?」


頬が熱い。心臓はばくばく鳴っている。私、死んでしまうのかもしれない。


「キ、」


「き?」


「キスを、してほしいんです……」


私の頬の熱はまったく冷めないし、心臓のばくばくは止まらない。なんだか瞳も潤んできた。


けれどマックスは何も答えない。はしたないと思われただろうかと、私が下を向きそうになった時。


「んっ!」


「……ったく、可愛すぎるだろう……」


「マック、ス……」


初めてのキスは私の全てを奪われるかのように激しくて、情熱的なものだった。


「マックスー? 俺の妹に何してるのかなー?」


私を本棚と自分の腕で閉じ込めていたマックスの肩をがっしりと掴んだのはお兄様。


「見たらわかるだろ? 邪魔だから行け」


「お前な、結婚までは手を出さないって誓った癖に……」


「そうじゃないと婚約を破棄するって子爵に脅されたからだよ」


お兄様と私の父、フェイユ子爵はガルニエ家の跡取り。近く祖父の爵位(ヴィアール侯爵位)を継ぐだろう。


自分で言うのも何だが、お父様は娘の私を目に入れても痛くないほど可愛がってくれている。本当はお嫁に行ってほしくないらしく、ずっとお家にいてもいいんだよ、と何度言われたことか。その度にマックスのお嫁さんになりたいので嫌です、と返しているが、あの父ならマックスを脅すぐらいのことはしそうだ。


「あの、お兄様! マックスは悪くないんです。私がお願いしたから……」


「エルヴィラが?」


お兄様が目を丸くしているのが居た堪れない。でも、マックスを守るためだもの。


「だって、だって私……」


「だって?」


「マックスのことが好きなんだもの……」


父との誓いを破ってまでキスしてくれたんだから、妹じゃないはずだ。だから勇気を振り絞って言ったのだけど、マックスは顔を手で覆っていて、お兄様は唖然としていた。


「おいマックス、可愛いヴィラに免じてこのことは黙っといてやる。が、度が過ぎるようなことがあれば容赦しないからな!あと、他の男に絶対この顔は見させるんじゃないぞ。虫が増殖する」


「言われなくても」


お兄様が何やら意味不明なことを言って去った後、マックスはキスの雨を降らせてくれた。


シェリ姉さま、ありがとう。勇気は出してみるものですね。


リスベットが大きくなったら、恋愛のアドバイスをしてあげたいな。


エルヴィラは金髪碧眼のかなりの美少女という設定。かなり人気が高いが、兄とマクシミリアンが近づく男を排除しているので本人は気づいていません。


マクシミリアンは銀髪に金色の瞳。彼も異性からの人気が高いですがエルヴィラ以外に興味はありません。彼女との婚約も、実はマクシミリアンがねだってねだってねだったものだったりします。かっこ悪いので、エルヴィラには隠しているのですが。


エルヴィラの兄は妹を溺愛しています。妹がマクシミリアンを好きだと気づいているので応援していますが、あまりイチャイチャされるのは嫌みたいです。


エルヴィラ父は、エルヴィラが「パパのお嫁さんになりたい」ではなく「マックスのお嫁さんになりたい」のでマクシミリアンに当たりがキツく、その度に奥さんに窘められているという設定も出したかった、、


エルヴィラ母は《公爵令嬢と不器用な幼馴染》のカリストやフェルディナンドの異母弟の娘という謎設定があります。全く出せませんでしたが……


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